とても不本意なんですが
「これ、もちろん元に戻れるんだろ?」
「無理じゃねぇか?」
「おいぃぃぃ!」
「いや、ちゃんと若返ったじゃん」
「女にされたけどな!」
「その言い方はなんかエロいな」
「真面目に聞けぇぇぇぇ!」
「あっはっはっはっ」
こいつもう一回ぶん殴ってやろうか!
「いや、悪かった。女にした理由はちゃんとある」
「最初からそいつを説明しろっつーの」
おぐは時々おふざけが過ぎる。こっちはマジなんだからもう少し察して欲しい。
「俺にとって最高の友はお前だと思ってる。短かったがあの頃すげぇ楽しかったからな」
「お、おう。俺もあの頃はすげぇ楽しかったし俺にとってもお前は最高の友達だぞ?」
改めてこいつの口からそう言われればかなり嬉しいし照れる。つか俺と同じように思っててくれた事が本気で嬉しい。
「いや、でもこうやって言ってもらえると嬉しいが照れちまうな」
そう言いつつ顔はそらしておく。ニヤニヤが止まんねーからな。
「はっはっ。照れとけ照れとけ。今のお前がやるとかわいいぞ」
「かわいいとか言うな!で、それとどういう関係があるんだ?」
「かわいい」とか言われて割と冷静になる。これを言われて喜ぶ男は少ないだろう。
「で、お前には悪いと思ったけど、この世界で一緒に生きたいって思ったんだよ」
「お、おう」
それは大きな選択だ。が、こいつと一緒ならこの世界でも楽しく生きられる気がした。
「……お前とならそれもいいな。欲を言えば家族や少ないけど親しかった友達に別れは告げたかったが」
「保証はしねぇけど可能性はあると思うぞ?」
「その心は?」
「こっちに召喚する方法が存在するんだ。逆に向こうに送ったり連絡をとったりする方法があるんじゃねぇか?」
「なるほどな。ちなみにその手の手段や方法は少しでも見つかってんのか?」
「無ぇ!」
軽く絶望した。
「どっちにしろしばらくはこの世界で生きてかなきゃいけないわけか」
「まあこの世界もそう悪い事ばっかじゃないって。ほら、魔法もあるんだし」
「あ、それは興味あるわー。って騙されねぇよ!?俺まだ女にされた理由聞いてねぇよ!?」
「チッ」
「おいコラ。ちってなんだちって。温厚な俺でもさすがにそろそろ怒るぞこの(ピー)やろう」
「ありがとうございます!」
「いや褒めてねぇよ!?」
「我々の業界ではご褒美です!」
だめだこいつ。早くなんとかしないと。
「ユウゴ、その辺にしておいたら?話進まないよ?」
「いやぁ、こいつとのやりとりって本当楽しいんだわ。久々ってのもあってちょっと暴走してんな。悪ぃ」
「まったく。今度こそちゃんと教えてもらえるんだろうな?」
助け船ありがとう女の人。おかげでぐだぐだにならずにすんだよ。
「あ、これ俺の嫁な」
「久しぶりね、立木君」
「え?俺のこと知ってるんですか?」
誰だ?異世界に知り合いなんていないぞ?
「もりひろセンパイだよ」
「もりひろセンパイ?もりひろセンパイ……あー!バイト先の先輩だった」
「そう。その先輩だ」
「センパイもこの世界に?いや、それも驚いたけどそれ以上に二人がそういう関係だっていうのがびっくりだわ。あ、二人共おめでとうございます」
「サンキュー」
「ありがとう」
驚いたがおめでたい。俺にもいい彼女ができたらいいなー。
ってただでさえ低い確率が今限りなくゼロじゃねーか!くっそ、これで女にされた理由がくだらないことだったら絶対もう一発ぶん殴る。
「で、話を戻すぞ。この世界に俺を呼んだ理由は分かった。で、それがどうして俺を女にした事に繋がるんだ?」
「ああ。んで、一緒にいればヒロとも一緒に過ごす事になるだろ?」
「ヒロってもりひろセンパイのことか?まぁ、そりゃお前と一緒に行動すりゃ多少はな」
「浮気が心配なわけだ」
「待て。ちょっと待て。俺がお前の嫁を奪うとかするわけねーだろ!?え?って事は俺が女にされた理由ってそれか?」
「私も大丈夫って言ったんだけどね」
俺がそんなことするわけがない。常識的な話もそうだし、最高の友情にヒビを入れるような真似は絶対にない。
けど俺ってそんなに信用ないか?かなりショックなんだが。最高の友とか言ってたのに。
「そのとーり!っつっても別に信用してないとかじゃねーよ?」
「それ以外にどう捉えろと?」
「世の中には絶対なんてありえないからな。異性が問題なら同性になれば解決だ」
「別の問題が発生してるだろ!主に俺!」
「大丈夫だ。そこもちゃんと考えてある」
「でも元に戻る方法はまだ見つかってないんだろ?」
「大丈夫大丈夫」
なんでだろう。嫌な予感しかしない。
「お前がその姿に慣れればいい!」
「慣れるかぁぁぁぁ!」
こいつ笑顔で言い切りやがった!しかも笑顔に悪意を感じないから余計にタチが悪い。
「お前が慣れるように色々準備もしてあるぜ」
「あるぜ!じゃねぇよ!努力する方向が違う!お前の言った大丈夫は全然大丈夫じゃねぇ!」
「何、辛いのは最初だけだって。そのうち俺に感謝する日がくる」
「こねぇから!そんな機会は永遠にこねぇから!」
「私も言ったんだけどね」
「そこはしっかり止めてください!」
もりひろセンパイが困ったーって顔するけど、本当に困ってるのは俺だ。
「そんなに嫌か?」
「当たり前だろ?色々面倒くさがりな俺が女なんて無理だって。化粧とか面倒だし、座る時は足を開きたいし、トイレだって気楽にしたい」
「その辺はあまり気合い入れ過ぎないのがコツよ。あとは慣れね」
「そうじゃないんですよセンパイぃぃぃ!」
ヤベェ。どっちかって言ったら味方だと思っていたもりひろセンパイに説得され始めて心が折れそうだ。涙が出てきたよ。まさに四面楚歌。
つかセンパイ案外天然だなぁとちょっと現実逃避してみる。二人お似合いだよこんちくしょう。
「センパイ、一番の問題は心ですよ。俺は普通に女性が好きだし、男に欲情したりしませんできません」
「大丈夫だ。そこもちゃんと解決法を考えた」
「おぐよ、お前の大丈夫は大丈夫じゃない可能性が高いんだよ。信用できんが、今度こそ大丈夫なんだろうな?」
「俺の嫁になればいい!」
「なんの解決にもなってねぇ!」
「痛ぇ!」
俺のスペシャルチョップを見舞ってやった。ていうか俺も痛い。殴った時も思ったけど、こいつえらく頑丈になってんな。
「お前もう突っ込みきれないけど突っ込むぞ?もう一度言うが、俺は女性が好きで男に欲情したりしないしできないんだよ。なんでお前だけ例外だと思ったんだ?それにお前にはもりひろセンパイがいるのに何さらっと俺に嫁になれとか言ってんの?」
「そりゃお前、俺が女にしたんだから責任をとるのは当たり前だろ?それにヒロにはちゃんと許可をもらった」
「責任のとりかたがあさっての方向を向いてるんだ……いや待て、許可を、もらった、だと?」
「おう。説得済だ」
「は?はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ?」