アグエリアス・グライム
黒いニット帽を被った男は10代後半から20代前半くらいに見える。
中性的な顔立ちで、かなり整った顔をしている。
長身で、スラッとした体型で、エディよりも15㎝くらいは高い。
民家に入ると、男はエディに突きつけていた刀をしまい、リビングのソファーに向かい合う形で座ってエディは男からの質問に答えた。
「君の名前は?」
「エディ・アルメール」
「エディか・・・
年はいくつだ?」
「19・・・」
「19か・・・
俺とあんまり変わらないな
仲間はいないのか?」
「いや・・・
今は1人・・・」
男はエディの顔をしばらく見つめてから視線を下にそらした。
「そうか・・・
残念だったな
俺も家族や仲間を亡くしてきた・・・
だからお前の気持ちはよくわかる」
「あんたも今は1人なのか?」
「アグエリアス・・・
アグエリアス・グライムだ!
自己紹介が遅れてすまないな!
俺も今は1人だ」
「そっか・・・
お互い大変だったね」
「あぁ・・・
ところでエディ
お前は今までずっと外にいたのか?」
「いたよ、ずっとね
ずっとイーターと戦ってきた、最初は両親と3人で行動してたけど、両親はイーターに襲われて死んだ。
それから半年間は1人だったんだけど、この前仲間が出来たんだ、マッシュって言う。
マッシュと出会って1日くらいだったけど、俺達は仲間だった。
イーターのいない楽園を一緒に探そうって約束した。
けど、この町に来るちょうど1週間前、マッシュはイーターに噛まれた・・・
そして、俺がマッシュを殺したんだ・・・」
エディは再び視線を下に落とした。
アグエリアスはしばらく無言だったが、エディの視線が再び自分に向けられるのを待ってから口を開いた。
「俺の家族と仲間はイーターじゃなくてイカれた人間共に殺された・・・
仲間は俺をいれて7人いたが皆殺しさ・・・
俺が物資を調達に行っている間に殺されていた・・・
全員額を銃で撃たれていた・・・
男はな
女はもっと酷いぞ・・・
俺の仲間には女が3人いた。
俺の母と妹と恋人さ・・・
妹はまだ15歳だった・・・
全員裸に剥かれ、女の体と倒れていた地面にはイカれた奴等の体液で溢れていた・・・
俺はキャンプを襲撃した奴等の居場所を突き止めて、この前皆殺しにしてやった!
クソ共は5人いたが、
全員の性器を引きちぎってから首をこの刀で切断して殺してやった!」
アグエリアスは刀を力強く握りしめた。
「酷い話だな・・・」
「あぁ・・・
もしかしたらこの世界はイーターよりも人間の方がよほど恐ろしいのかもしれない・・・」
秩序を失った世界に生きる人々は徐々に人間の本能というものが剥き出しになり、本能の赴くままに行動するようになる。
イーターも食欲という欲求に従い、人を襲い欲を満たしている。
社会という秩序に守られていた我々人間がルールという鎖から解放されてしまえば、もしかしたら、イーターよりも危険な怪物へと変貌してしまうのかもしれない。
「エディ!
刀を向けて悪かったな!」
アグエリアスはニット帽を触りながらエディに謝罪した。
「いや、そんなことがあったんだ、用心するのは当たり前のことだよ!
アグエリアスは善人だ!」
エディは民家の冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出して、飲みながらアグエリアスに言った。
2本入っていたので1本をアグエリアスに手渡した。
アグエリアスはエディに礼を言って水を飲んだ。
「俺はみんなを殺したイカれた人間を皆殺しにして復讐を果たした。
しかし、未だに気持ちは晴れない
復讐したってこの悲しみも、喪失感も全然晴れないだ・・・
復讐したって何の解決にもなりゃしなかった・・・」
「アグエリアス、それは君が1人だからさ!
1人で誰にも君の気持ちを打ち明けることが出来ずに、復讐を果たしたからだ。
けど、今日からは違うよ!
俺に話した。
自分の気持ちを!
これから違った生き方が出来るはずだ!
俺はあんたのことをほとんど何にも知らないけど、いい人間か悪い人間かはすぐにわかるよ!
あんたはいい人だ!!
だから変われる!!
死んでしまった家族や恋人、仲間のためにあんたは生きるんだ!!
そうすればきっとあんたの気持ちは晴れるよ!!」
「フッ・・・
そうかもな・・・」
アグエリアスはソファーに座り込み、目を瞑り考え事をしているようだ。
自分の気持ちの整理には長い時間がかかるがきっとアグエリアスは大丈夫だ。
エディは隣の部屋でアグエリアスの気持ちの整理が終わるのを待つことにした。