歩み寄る死
エディ達と別行動でバルビュータまで目指すことになったアグエリアス達はダンハを出て東の山林を目指して走りながら進んでいた。
「あと4キロくらいで私達の車が止めてある林に着くわ!!」
「ちょっと・・・ちょっと休憩しない・・・か」
ウィルは肩でゼェゼェ息をしながら疲労で足が止まってしまった。
「・・・大丈夫かウィル?
ソフィア!
少し休憩しよう
辺りは雑草が生い茂っているからイーターから隠れられる」
アグエリアスは隠れられそうな茂みを見つけそこで休憩しようと提案した。
「・・・わかった
じゃあ少し休憩しましよう」
ソフィアもやはり我慢していたのか、ライフルと鞄を地面に置くと崩れるように座りこんだ。
アグエリアスは鞄からペットボトルを2本取り出して
ウィルとソフィアに渡した。
二人はアグエリアスに礼を言い、蓋を開けて勢いよく水を飲んだ。
「あんたこういう状況に馴れてるのね」
「ずっと危険と隣合わせだったからな・・・
もう馴れっこさ!」
アグエリアスは鞄と刀を地面に置き、ソフィアの横に座った。
「すごい・・・
けど、バルビュータに来たらその危機管理能力も失っちゃうかも?
バルビュータはずっと安全だったから」
「俺もできればその方がいいな・・・
何の危険も感じずに日々を送りたい
外にいれば常に死と隣合わせだから考えることは毎日イーターや強盗からどう逃れるかばかりさ・・・
だから外にいる間だけでもその危機管理能力を嫌でもしっかり身に付けなきゃな!」
アグエリアスは少年のような笑みを浮かべた。
ソフィアもつられて笑った。
「なぁ!!
アグエリアス!
あんた強盗集団に捕まった時プリンを食われて激怒してたけど、あれって演技?
それとも素?」
ウィルがアグエリアスの近くに来て質問した。
ウィルはアグエリアスをじ~っと見つめた。
答えが知りたかった。
ウィルは探求心が強い性格で1度気になったことは自分が納得するまではとことん追求する性格だ。
そのウィルが今一番追求したいことはアグエリアスのプリン激怒の真相である。
アグエリアスも無表情のままウィルを見つめる。
やがてアグエリアスが舌打ちをしてから口を開いた。
(知りたい・・・なぜ・・・
なぜ彼はプリンを食べられてあそこまで激怒したのか!?)
ウィルはドキドキした。
「・・・・さぁな・・・
よし!!
休憩は終わりだ!
出発するぞ!!」
アグエリアスは立ち上がって鞄を担ぎ、刀の鞘についているベルトをショルダーバッグのように肩に通して、鞘が腰の位置にくるようにしっかりと留めた。
ウィルは泣きそうな顔をして、渋々立ち上がって鞄とライフルを担いだ。
3人は再び走りだした。
30分くらい走り続けていると、草が生い茂っていて見えづらかったが道路の標識が見えてきた。
「もう少しよ!!」
クールなソフィアの声が少し弾んでるようだ。
アグエリアスも少し安堵した。
(もう少しだ)
3人は草むらを掻き分けて道路に出た。
ーあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ーおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
道路は先や後ろが見えないくらいの数のイーターで埋め尽くされていた。
数はおそらくダンハで見たイーターの大群の2~3倍くらいだろうか
イーター達はどうやら北を目指して進んでいたようだ。
そのイーター達が急に出てきたアグエリアス達を発見した。
男のイーターが唸り声をあげてアグエリアス達のもとへ向かってくる。
それが合図のようにアグエリアス達に気付いたイーター達100体以上がまるで津波のようにアグエリアス達のもとへ押し寄せてきた。
大群のほんの一部だがアグエリアス達にとっては絶望的な数だ。
「逃げるぞ!!!
この数はまずい!!!
いったん来た道を戻る!!!」
3人は全力で再びもと来た道を引き返すことになった。
「あんな数のイーターは今まで見たことが無い!!」
アグエリアスは走りながらソフィアとウィルに言った。
「あんな大群がいたんじゃ道路を渡れない!!」
「ヤバイ!!!
前からもイーターが来てる!!!」
ウィルが叫んだ。
一難去らずにまた一難。
アグエリアス達は急ブレーキをかけて方向転換した。
「こっち!!」
ソフィアが指差した方に走る。
二人は急いで走り出した。
走りながらイーターの大群が歩いている道路を見た。
「道路は大渋滞・・・
俺達の後ろはイーターが迫っている
ウィル、もうしばらく休憩はできそうにない」
「わかってる・・・
今は休んでる暇なんてない
もし、この修羅場を生き延びられたら・・・
アグエリアスプリン激怒事件の真相を教えてくれ!!」
ウィルは真剣な面だ。
アグエリアスはため息をついた。
「・・・わかった・・・
約束する!
だから生き残れ!」
アグエリアスの言葉を聞いてウィルの顔がパァーッと明るくなった。
「アグエリアス!!
前からイーターが来てる!!」
ソフィアが叫んだ。
(4体・・・)
アグエリアスは鞘から素早く刀を抜き、女のイーターに接近して刀を横に振った。
ービュッ!!
ーゴト!!
女のイーターの首が地面に転がった。
男女のイーターが左右からアグエリアスに接近してくる。
ーヒュンッ!ヒュン!!
ーゴト!!ゴト!!
アグエリアスの刀の射程に入ったイーターを次々と斬り伏せる。
最後の1体のイーターはアグエリアスに追い付いてきたソフィアがナイフでイーターの額を刺して絶命させた。
ここまでほんの6秒。
しかし、その6秒で後方にいたイーター達はアグエリアス達との距離を詰めてきていた。
さらに、前方に10体くらい、道路から40~50体くらいのイーターの群れが騒ぎに気づいてこちらに接近してきた。
西からも草むらを掻き分けてこちらに接近してくる音が聞こえる。
「ダメだ!!!
囲まれてる!!!」
アグエリアスは焦っていた。
かつてこれ程の窮地は経験したことがない。
しかし・・・
「こんなところで死ねない!!!
死ぬわけにはいかない!!!
みんなで戦うぞ!!!」
アグエリアスは力強く刀を握りしめた。
ソフィアはナイフをかまえ、ウィルはズボンに差してあるナイフより少し長い短刀を引き抜いて構えた。
そのまま3人は円になるように互いの背を庇うように構えた。
いつでも来い!!
3人は覚悟を決めた。
「おーーーい!!!
こっちだーーーー!!!」
アグエリアス達の西側の草むらから男の声が聞こえた。
「早く!!!
こっちだーーー!!!」
アグエリアス達は声のする方に向かって走った。
「もう・・・なんなのこの森・・・
怖すぎるわ~!!
ジリリリリッ!ってなんの音よーー!!」
ードガッ!!
ピンクのワンピースを着た大柄なスキンヘッドの男が女のような口調で喚きながら、手に持っていた釘だらけのバットでイーターを撲殺した。
「あら~!!
あれってログハウスかしら~!!
キャーーーー!!
奇跡的~~!!!」
スキンヘッドの男は小走りで小屋に向かった。