偶然という必然
グレイソンは迫り来るイーターの大軍と戦っていた。
仲間が逃げる時間を少しでも稼ぐために。
「なんて数だ・・・
くそっ!!
オラーッ!!!
死体共ーーーー!!!
こっちだーーー!!!」
グレイソンは近くのイーターの頭に手斧を手当たり次第に振り落としていった。
だがイーターの数はとんでもなく多い。
グレイソンは囲まれないように少しずつ後退しながらイーターを引き付けて戦っていた。
しかし、数が数だ。
グレイソンはイーターに囲まれてしまった。
銃は混戦で落としてしまい、無い。
だがイーター達はグレイソンを食おう四方八方から次々に向かってくる。
グレイソンは360度すべての方角に常に意識を向けなればならず、少しの油断も出来ない状態だ。
この状態でイーターと戦い生き残っているグレイソンの精神力、集中力は常人ばなれしていると言っていいだろう。
「おーーーい!!!
グレイソン!!
待ってろ!!
今行くぞー!!!」
ードン!!
カーライルはライフルでグレイソンへと迫ってくるイーターを1体1体丁寧に頭を狙撃していく。
エディは鉄パイプでグレイソンを囲っているイーターを殴打する。
イーターがエディのもとへもやって来る。
「そうだ!!こっちに来てみろ!!」
エディは大声を出してイーターを引き付ける。
「カーライル!!エディ!!
すまない!!!」
グレイソンはイーターの頭に手斧を振り落としながら二人に礼を言った。
自分のために危険をおかして助けに来てくれた仲間の気持ちがうれしかった。
グレイソンはこの状況では助からない、だからやれるだけやってやる!
そういう気持ちで戦っていた。
しかし、人間は絶望的状況の中では100%以上の力を出せるが、少しでも希望がちらついたとたんにその力は脆くも崩れ去る。
エディ達のもとへはあとたったの数メートルだ。
しかし、イーターに囲まれてしまったグレイソンはその距離数メートルの短い距離も何万キロの果てしない道に感じてしまう。
(いったいあと何体殺したらカーライル達のところへ行けるんだ・・・?)
グレイソンの手斧に不安が乗り移る。
ードッ!!
振り落ろした手斧はイーターの頭蓋骨に深く食い込んでしまい、簡単には抜けない。
(しまった・・・!!)
グレイソンは近接武器を失った。
その直後頭によぎったのは死・・・
ではなかった。
(斧が無くてもまだ拳が使える!
足がある!!
最後の最後の本当に最後の時まで絶対に諦めない!!)
グレイソンはまだ諦めていなかった。
「後ろだーーーーーーー!!!!」
エディとカーライルは同時に叫んだ。
それと同時にグレイソンの頭は瞬時に回転して、自分の今取るべき最善の行動を選択した。
カーライルのライフルがグレイソンの後ろにいたイーターを撃ち抜き、イーターはその隣にいたイーターを巻き込んで倒れた。
エディはそれを見て瞬時に理解した。
グレイソンは助かる!!
エディは鉄パイプで倒れたイーターの前方にいたイーター2体をまとめて横スイングして殴打した。
1体のイーターは頭が陥没してその場に崩れ落ち、もう1体は後ろに倒れこみ、また近くのイーターを巻き込んだ。
その後ろにいるイーター5体倒せばグレイソンはここまで来れる!
しかし、倒すには鉄パイプじゃなくて銃がいる。
エディは肩にかけた散弾銃の銃口をイーターに向けた。
ードドン!!
ードン!!
ードドン!!
ードン!!
ードドン!!
散弾銃とライフルの射撃によりイーター達が倒れこみ、ほんの小さな小道が出来た。
二人は同時に叫んだ。
「後ろだーーーーーーー!!!!」
それはグレイソンが諦めかけた瞬間におきた小さな奇跡といっていい。
グレイソンはその小さな小道を必死に駆け抜けた。
(奇跡は起こる!!
諦めなければ絶対・・・)
二人のところまであと2メートル!
グレイソンは手を伸ばした!
エディがその手を・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
ーガシッ!!
しっかり掴みグレイソンを引き寄せてそのまま全力でイーター達から逃げた。
カーライルは涙を流しながら手を高々とあげて勝利の雄叫びをあげて全力で走った。
奇跡は偶然起きるものではない。
エディとカーライルは絶対にグレイソンを助けるんだ!という気持ちを片時も捨てなかった。
結果、必然的に奇跡という現象を呼び起こした。
グレイソンは絶望的状況でも生きることを諦めず、エディとカーライルが起こしたほんの小さな奇跡に気づき、その奇跡を掴み取ることが出来た。
「ヤバイ!!
南からもイーターが来てる!!
・・・・!?
東からもだ!!!
くそっ・・・・!!
あっちはアグエリアス達が向かった方角だ!!!」
エディは唇を噛み締めながら悲痛な表情を浮かべた。
そのエディの表情を見てカーライルは言った。
「あいつらは大丈夫だ!!
ウィルもソフィアも強い!!
アグエリアスも強いだろ!?
グレイソンみたいに必ず生き残る!!
絶対だ!!」
カーライルはエディに希望に満ちた堂々とした表情を浮かべて言った。
「あぁ!!
そうだな!!
みんなは必ず生き残る!!」
「西側はイーターの数が少ないみたいだ!!
俺達は西からバルビュータに向かおう!!」
グレイソンが西を指差して言った。
俺達は絶対に諦めない!!
エディとカーライル、グレイソンは真っ直ぐ西に向かい走り出した。