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冴えない俺が創竜の騎士になって、全ての世界を救うまで  作者: ベルゼリウス
The snake laughs by night ~蛇が嗤う夜~
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初陣


「は……はは」


 思わず、声が出る。

 目の前には、空に届くのではないか、という位に大きな生物が俺を見下ろしている。

 それも蔑んだ目で、だ。

 そんな状況で、動揺しない奴なんているのだろうか?


「何故ここに戻ってきた? 昨夜、命を落としたというのに」


 紅いドラゴンは俺に睨み付け、問い詰めてくる。

 返答しようにも、この場に合う答えなんて言えるわけがない。


「……まさか、我に会うため、ではないだろうな?」


 その言葉に、ずしり、と衝撃が走る。

 はい、そうです、なんて言えるわけがない。

 しどろもどろしていると、ドラゴンはため息をつきながら、やれやれ、といわんばかりに首を横に振った。

 どうやら、俺の様子をみて察したらしい。


「呆れた。 確かに我の姿を見て心奪われた、と言っていた愚か者がいたが……まさかこれほどとは」


 はぁ、ため息をつくドラゴン。

 と言っても体が大きいので俺にとってはまさに突風。

 しかし……これほどまでに恥ずかしいとは……


「GURUUUUUUUッ!!」

「む?」


 ドラゴンの、俺から見たら向こう側に化け物の唸り声が聞こえてくる。

 そうだ。

 事は終わってない。 あの化け物を何とかしないと……


「ああ、そういえば忘れてたな。 ……して、愚か者。 お主の中にまだ闘志は残っているのか?」

「……あ?」

「喜べ、愚か者。 お主に化け物を倒す名誉を与えてやる。 ……もっとも、この事態を引き起こしたのはお主なのだから、拒否権はないがな」

「はぁ!? でもあいつは、殺そうとしても殺せねぇんだぞ!? ただの人間の俺がどうやって……」

「だれがこのまま殺しあえと言った? 我もそう残酷ではない。 ……力を貸してやる」

「……力?――――」


 そう、俺がドラゴンに問いかけた時だった。

 ドラゴンの後ろにいた化け物が突如、ドラゴンの前足に噛みついたのだ。

 しかし、まったく痛くないのか、表情一つ変えずに蝿でも追い払うかのように化け物を振りはらい、遠くへ飛ばした。


「全く……我が話している最中に邪魔するとは、この痴れ者め。 ……まあいい。 愚か者、これを受け取れ」


 そう言って、ドラゴンは前足を俺の方へ差し出す。 その手のひらの中にはドラゴンと同じ紅い色の光が、瞬いていた。


「……これは?」

「これは我の魔力の一部だ。 これをお主の中に取り込めば、ある程度のモノを創造できるようになる。 何より我の魔力で作られたものはどんなものだろうと焼き尽くす武器になるだろう。 これで、この哀れなケダモノに終止符を撃て」

「……」

 

 そうだ。

 この状況を作り出したのは俺だ。

 この状況を終わらせる責任がある。 

 そう答えを出した俺は、無言のまま、それを受け取る。

 触れるまでは、ほのかに暖かった。 だが、受け取るとなると一気に加熱し、一気に俺の中に入っていった。

 まるで、炎を飲み込んだかのように体中が熱い。

 異物を吐き出せと、体中が吐き気という警告を発している。


「ぐぅぅぅ……あぁぁあああああ!!」

「いいぞ。 そのまま飲み込め。 既に我の魔力が馴染んでいるから、そこまで拒否反応は出ない筈だ」


 そうは言うが、今度は体がバラバラに引き裂かれるような痛みが全身に襲う。

 こんな痛み、初めてだ。

 少なくとも、これからもこんな痛みを感じることはないだろう。


「耐えて見せよ。 もし耐えなかったら……そこまでだかな」

「ふざけんなよぉ……こんくらいぃ! うおおおぉぉ!!!!!」


 痛みを押しのけ、叫びながら立ち上がる。

 すると、痛みは嘘のように吹き飛んだ。

 むしろ、体が快調に感じる。

 どこまでも、走れそうな……そんな気分だ。


「同調したか。 ならば、今度はお主が最強と思う武器を想像してみろ。 それがお前の武器だ」

「ああ……」


 そういわれ、真っ先に浮かんできたのは大剣だった。

 あの化け物に小手先の刃物じゃダメだった、というのもあるが……俺には憧れているものがある。

 大剣を振りかざし、仲間を守る騎士。

 化け物から化け物と呼ばれる騎士。

 いずれも、俺がよく見ている漫画の主人公だ。

 漫画だったらありきたりな設定だが、そんな主人公に俺は憧れていた。

 ……だが、今の時代、そんな奴は存在しない。

 でも、それでも。

 形だけなら、思いだけでも。

 俺はああいうかっこいい騎士になりたい。


「ほう……なかなかいい得物だ」


 手の中が光ると、そこから大剣が発現した。

 俺は大剣の刃のない方へ肩に担ぎ、まっすぐ見据える。

 自然と重さはなかった。 むしろポールペンの様に軽い。


「GAAAAAAAッ!!」


 化け物も俺の殺意に気づいたのか、激しく威嚇してくる。

 だが、それを見ても、俺はなんとも思わなかった。

 むしろ虚しいとさえ思っている。

 酷く恐ろしく、恐怖の対象だったものが、今では人間におびえる子猫のよう。

 ……恐らく、あいつは俺に対して『死』のイメージを持っているのだろう。


 俺はそのままじりじりと近づく。

 化け物は怯えるように後退する。


「先程とは対極だな」


 ドラゴンが何か言っているが、そんなの耳に入らない。

 俺と化け物の距離は約5メートルほど。

 ここからなら、いける。


「うおおおおおおおぉぉりゃあああああああああ!!!!!」


 ただ叫び、剣を振りかざす。

 もし相手がただの獣だったら、こんなの簡単に避けれたかもしれない。

 しかし、なまじ人間だったせいで怯え、すくみ。

 ただただ斬られるしかなかった。


「勝負、あったな」


 ゴリゴリと嫌な感触が剣を通して伝わってくる。

 俺には重さは感じないが、この剣は相当な重さなのだろう。

 対して力を入れてないのに、するすると剣が化け物の体へ通っていく。

 そして、剣が地面に刺さる頃には、化け物の体は真っ二つになっていた。


「はぁ……はぁ……」

「よくやった、愚か者。 では、後はこちらに任せよ」

「……え?」


 ドラゴンはそういうと、何かを念じ、口から炎を吹き出す。

 その炎の矛先は真っ二つになった化け物へと向けられていた。


「GYAAAAあああああああ!!」


 真っ二つになったというのに、いまだに叫んでいるほどの生命力だ。

 しかし……


「声が……」

「全く……なんど見ても悪趣味だな、これは。 絶命する瞬間に人間に戻るとは」

「……は?」


 徐々に、化け物の姿が人間の姿に戻っていく。

 だが、ドラゴンの吐いた炎によって黒い炭となって、夜空に舞った。


「ふむ。 こんな所か。 では、今度はお主に説明しなくてはな」

「……」

「どうした? こんなところで突っ立って話でもするのか? 我の話は長いぞ?」

「……じ、じゃあどうしろと?」

「お前の家で説明すると言っているんだ、愚か者。 さあ、いくぞ」


 そういうと、ドラゴンは眩い光に姿を変えると、俺の中に入っていく。

 なにも違和感もなく、当たり前のように。


「なんで、当たり前のように俺の中に入っていくんだよ……」


 驚きの連続で反応が薄くなっているのが分かる。

 確かにいったん家に帰った方がよさそうだ。

 俺は、小さくはぁ……とため息をつくと、その場を後にした。


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