表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冴えない俺が創竜の騎士になって、全ての世界を救うまで  作者: ベルゼリウス
The snake laughs by night ~蛇が嗤う夜~
22/36

仮面の少女


 入り口は、まさにホラーゲームとかに出てくるような……そんな洋館のような作りになっていた。

 だが、大きさはそうでもない。

 1時間もあれば全部探索できるぐらいの大きさ。

 だが、問題は中に侵入できるのか、だ。

 見た感じ、見た目はボロいし、誰かが封鎖している可能性もある。

 それに、『蛇』が何もせず、寝ぐらをそのままにしているとは考えにくい。


『シンイチ、分かっているな? ここからは『蛇』の縄張りだ。 何が起きても不思議ではない』

「ああ、確かにここはヤバい雰囲気があるのは俺でも分かる。 ……ったく、なんかこんな感じの展開どっかで見たことあるんだよなぁ……」

『なら、それを生かして先に進むとしよう』

「了解、と」


 ヘルズの言葉に答えながら、ドアノブに手をかける。

 その時、俺は違和感を覚えた。


「なあ、ヘルズ」

『おい!! 我の名は――』


 頭に響くヘルズの言葉を遮りながら、俺はドアノブを回す。

 ……やっぱりだ。

 やっぱり開いている。 最初からカギは掛かっていない。

 

「何で、こんな簡単に中に入れる?」

『……なにがいいたい?』

「お前ら竜とか、人間じゃない奴には分からないと思うが……人間という生き物は、自分の住処……家には他人が勝手に入らないよう、鍵をかけておくもんだ。 ほら、俺だって家を出るときに鍵を掛けたろう?」

『まあ、そうだが……』

「だが、この屋敷には鍵が掛かっていなかった。 これじゃ、いつでも屋敷に入ってもいいですよ、と言わんばかりの不用心だ。 ……おかしくないか?」

『うむむ……確かにそうだな』


 どうやら、ヘルズには納得してもらえたようだ。

 この状況を客観的に見たときに、そこまで考えても仕方ないのかもしれない。

 俺達には既に『蛇』の縄張りに入っている。

 俺達がここに来ていることを知っているかもしれないし、罠を仕掛けている可能性だってある。

 ……だが、ここまで来た以上、進むしかない。


「……ドア、開けるぞ」

『ああ、そうしてくれ』


 張り詰めた緊張の中、俺は慎重に扉を開ける。

 そして中を覗くと、そこには雄大な玄関ホールがあった。

 豪華そうなシャンデリア、二階に続く階段。 外から見た時より明らかに広く見える。

 左右にはそれぞれ扉が二つずつ対照的に並んでいる。 二階には……一つずつか。

 だが、そんな屋敷の作りより、何より目に入ったのがあった。


「おいおい……まじかよ」


 恐る恐る、それに近づいてみる。

 それは、血痕だった。

 大きさから見て、人間一人分の、そこに倒れていたであろう血痕。

 それも真新しい。 そんな血痕は、右側の扉まで続いている。 ……まるで、引きずられたかのように。


「ヘルズ、これどう思う?」

『明らかに黒、だな。 その血、一見すると人間のものに見えるが、明らかに違う血が混じっている。 ……人間以外の、な』

「人間以外? じゃあ、これは……」

『まだ確信は持てんが、恐らくここで何かあったのだろう。 ……次はそこの扉を開けるぞ』


 容赦なく、ヘルズは俺に指示してくる。

 ……ちょっと待ってほしい。 俺に、心の準備というものができていない。

 あっちはこういった事が日常茶飯事かもしれないが、俺にとっては少し刺激が強すぎる。

 第一、明らかにあの扉を開けたらなにかしらのアクションがある。

 絶対にある。 確信がある。

 これがホラーゲームだったら絶対に敵が出てくるパターンだ。

 そう、明らかにちょっと今から出るから覚悟してね、的な……ちょっとした間が今だよこれ。

 ……ああ、何考えているんだ、真一!!

 少しクールになれ!! いつもの俺はこんなテンパる男じゃなかっただろう!!

 第一、なんだこの支離滅裂な思考は!!

 俺はもっと、少し遠くで自分を見つめ、最善策を考える人間だった筈だ!!


『ん? ……どうして、身を悶える? いつものお前らしくないぞ?』


 ヘルズに言われて、俺の中に疑問が生まれる。

 俺の、いつもの、ってなんだっけ?

 その瞬間、何かが俺の中でプチンと切れた。


「あは……あはは……」

『ど、どうした!? シンイチ!? なにかあったのか!?』


 極度のストレスのせいか、はたまた慣れない環境が続いたせいなのか。

 ……この際どうだっていい。 俺の中で何かが吹っ切れた。

 そうさ。 もう、猫を被るのはやめよう。

 なんだか馬鹿らしくなってきた。

 このまま、ありのままでいこう。

 そう思った俺は、一心不乱にその扉へと向かう。

 そして、その扉を蹴飛ばした。


『な、何をやっているシンイチ!?』


 頭の中で、ヘルズの言葉がうるさく響く。

 だが、そんなことを構いなしに、俺は突き進む。

 中は、通路になっていた。

 L字路型の廊下、っていうのか? まあ、そんな廊下のど真ん中に、血痕の元であろうそれらしき物体を見つけた。

 それは、一見すると人間のようなモノだった。

 肌色の、全身裸で頭部には髪も生えている。

 だが、人間と徹底的に違うところを上げるとすれば、中途半端に伸びたマズル、逆関節になりかけている足、異様に伸びた手。

 俺はそれらの要素を吟味して、これは魔獣になりかけた人間の死体、だと結論に達した。


「おいおい、なんだこりゃ? どうしてこんなところに魔獣になりかけの死体がある?」

『むうぅ……ますます分からんな。 ……というより、こんなのを見て何とも思わんのか? 先程は嫌がっていたのに』

「あ? もう慣れた」

『慣れ……た?』


 驚いているヘルズをよそに、俺は死体を足で動かす。

 死体には、頭に一か所。 胴体に三か所穴が開いていた。

 これらが主な死因だろう。

 ……恐らくは、銃創。

 頭に一発ズドンと当てて、念の為胴体に、ぱぱぱんと三発、ってところか?

 まあ、あくまでこれは予想だ。

 第一、元々一般人だった俺は銃創なんて見たこともないし、単なる妄想に過ぎない。

 しかし、これは誰がどう見ても、そういう風にしか見えないだろう。

 それらを吟味し、考えうる答えが一つ。

 ……ここに、俺以外の野郎が来ている。

 しかも、物騒な、銃という武器を引っ提げて。


「……誰かがドンパチしてんのか?」

『そうとしか考えられんな。 ……傷を見るに、これは一人か?』

「ああ、だろうな。 しかし、これは単発……セミオートの銃だ。 俺ならフルオートの銃を持っていきたいんだが……」

『フルオート? セミオート?』

「ああ、ヘルズには分からんか。 ……人間の武器、銃ってのは一つの引き金で弾丸が発射される。 だが、引きっぱなしで連続して弾丸が出る銃と一つの弾丸しか出ない銃がある。 前者がフルオート、後者がセミオートだ。 ……俺も、ゲームでしか触ったことないがな」

『なるほど……理解した』

「しかし、だ……」


 俺はそのまま辺りを見渡す。


「これ、やったやつ恐ろしいな。 というか、これ銃で死ぬのか?」

『いや、本来ならこの程度では死ぬ事はない筈なのだが……しかし、この死体に妙な魔力痕を感じる。 死体も灰化していないし……人間ではない、魔獣でもない別の『何か』の血が混ざっているな』

「『何か』……ってなんだよ?」

『それが分かれば苦労はせん。 ……して、シンイチ。 何が恐ろしいのだ?』


 ヘルズが俺に言ったことに対して質問してきたので、俺は壁に指さす。


「壁、傷が無いよな?」

『ああ、確かに。 だがそれがどうした?』

「壁に、いやこの部屋に傷がないってことは、だ。 こいつをやった奴は冷静に、かつ的確にこいつの頭にズドン、と当てている。 ……普通の人間なら、ビビッて銃を乱射し、この部屋全体が穴だらけになっているはずだ。 ……いや、なってないとおかしい」

『……成程。 これをやったのは、魔獣に対して手練れ、というわけか』

「となると、だ――――――」


 その時だった。

 どこからか、バンバンと銃声が聞こえてきた。

 音からして、二発。

 無駄撃ちせずに、かつ冷静に撃っているような、そんな感じだ。

 ……恐らくは現場の犯人。


『シンイチッ!!』

「分かっているッ!!」


 そこから、俺は走る。 走る。 走る。

 多数の部屋をくぐり抜け、幾多のフロアを通過し、着いた場所。

 それは、屋敷の中心にある階段の……その途中で何らかの仕掛けで隠していたであろう階段だった。

 それが何者かの手によって、暴き出され、姿が晒されている。

 ……恐らく、『蛇』が隠したであろうフロアへと続く階段だろう。

 今もなお、そこから銃声が聞こえてくる。

 俺はそこを躊躇なく、降りる。

 そこに広がっていた光景は想像していた以上に、異様な光景だった。

 まず、見えたのは薄暗い空間の中に、左右に6、7ずつの人が入れるような檻だ。

 中には何かが生活していたであろう痕跡がある。 だが、その生活していたであろうモノはいない。

 その代わり、そのフロアの中心に、それらしき死体が転がっていた。

 数は大体、檻の数と一致している。 強いて言えば、二つほど数が一致しない。

 ……考えうるに、あと二つの内、一つは先程見た死体。

 そしてもう一つは……あの晩、俺が殺した魔獣だろう。

 だが、そんなものよりも……何より目を引いたのは、フロア中心に佇む一人の人間。

 それは、女、だった。

 軍服のような戦闘服に身を包み、両手には短剣付きの拳銃。

 そして、頭部には、仮面のような……何やらハイテクなものをつけており、どんな表情をしているかは分からない。

 だが、髪は、髪色だけはわかる。

 ……白だ。 真っ白な髪。



 それと同時に理解した。

 こいつは……今日学校に来た、ミコトと名乗った女だと。


  


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ