捜索
家を出て二時間後……
俺たちは始まりの場所である、尾武山の展望台に来ていた。
すっかり日が暮れ、暗くなった山からみる夜景はいつ見ても綺麗だ。
……だが、しかし、今回の目的は夜景を見ることじゃない。
あくまでも、『蛇』の手がかりを探すこと。
しかし、手当たり次第に捜索しては夜が明けるのは必然。
……どうやって探すのか? ヘルズには何か得策があるようだが……
俺は道中寄ったコンビニで、買ったおにぎりを頬張りながら、ヘルズに聞いてみることにした。
「んで、どうやって探す? まさか手探りってわけじゃないよな?」
『もちろん、心当たりがある。 ……この場所に降りたとき、上からある建物が見えてな。 そこから、妙な魔力を感じた』
「じゃあ、そこがそうだと?」
『恐らくは、だ。 まだ確信は持てないが、そこに何かがあるに違いない』
「了解。 んじゃ、そこに向かうとするか」
ゴミをゴミ箱に捨て、体の中に響くヘルズの声を頼りに、俺は歩き出す。
……ここに来るまで、何度もヘルズと会話をする機会があった。
だが、ヘルズの声が聞こえるのは俺だけで、会話をしようにも人目を気にする必要があった。
だが、ここは山奥。
こんなところにくる酔狂な輩はおらず、ただ虫の鳴き声や風の音しか聞こえない。
これだったら、ヘルズの姿を見られる心配はないし、会話をしている様子も見られない。
あくまでも、ヘルズはここの世界では、あり得ない非現実的な存在だ。
もし公の場に姿を現したら混乱が起きる。
それこそ、竜創寺家に迷惑がかかる。
今日の昼の様に、あの女のような奴から吹っ飛ばされたくもない。
……それに叔父にも、俺の無様な姿を見られたくはない。
「……あのさ、ヘルズ」
ふと。
俺はヘルズに質問する。
唐突だけど、確認しておきたかった。
『どうした、突然?』
「いや、明日のことなんだけど……明日、竜創寺に……いや、俺の実家に行くわけじゃん? もし、俺の事を叔父が知って、俺とヘルズが別れることになったら……」
……これは俺の、竜創寺家に対する不安だった。
叔父は俺に、後を継がせようとしていた。
だが、俺は……あることをきっかけに、叔父から離れ、生活している。
それは明らかに叔父に対する、裏切り行為だった。
今日出会った女も、そのことで俺に怒りをもって接していた。
あの怒りはごもっともだ。
だからこそ、今後叔父がどのような行動をしてくるかわからない。
……もしかしたら、このことを知った叔父は無理やり、ヘルズと俺を引き離すかもしれない。
もし、そうなったら……俺はどうなるのか。
いや、そんなことはどうでもいい。
肝心なのは、ヘルズがこのことに対してそう思うか、だ。
『何を悩んでいるのか知らんが……何故、そんなに不安がっている? 一応確認するが、お主は一度死んだ。 今こうして生きているのは、我が魔力で、シンイチの心臓を模造し、生かしている。 もし、そんな状態で、シンイチと我が離れたら?』
「……死ぬな」
『そう、死ぬ。 せっかく我が救った命だ。 シンイチにはしっかりそれ相応の仕事をしてもらうつもりではいる。 ……それに我とお主は、あの空間の中で一年も過ごした仲ではないか。 そうやすやすと離れたりはせんよ」
「……そうか」
ありがたい。
真っ先に浮かんだ言葉はそれだった。
……これまで俺は、他人にそういった言葉を浮かんでは来なかった。
むしろ敵だと感じていた。
いつも、俺の事を邪魔するモノ。
ゲームでいう、モブキャラのような存在。
それがうっとうしくて仕方なかった。
いつも、自分達が気に食わないものがあると、徹底的に排除する癖に、敵わないと知ると、それにすがってくる。
いつだってそうだった。
……そう、いつだって……
『……シンイチ、あれではないか? あの前方にある建築物』
ヘルズの言葉にハッとなり、目を凝らすと確かに建物が見える。
それは、屋敷だった。
いや、屋敷というより、一軒家といった方がいいのか?
そこまでは大きくない。 二階建ての大きな家だ。
しかし、ここから見ても誰も住んでいない廃墟のように見える。
……あそこに何らかの蛇の手掛かりがあるといいが……




