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央都魔術学園とはその名の通り央都にある全寮制の魔術学校だ。そのレベルは国内一で入学試験も推薦状が必須かつ最難関だという。その上、身分証明が必要なため、国内でもセキュリティの高い場所だ。
もちろん、魔術学園は各都市にも存在し、央都、東都、西都、南都、北都の順でランク付けられている。特に、南都と北都は一般の人々にも広く門戸が開かれているため、ランクが低いのだと言われている。もちろん、有能だと認められれば他の魔術学園に推薦状が送られることもある。
ちなみに、生活水準の高さも央都が高く、北都は低い。央都と北都の間に山脈が広がっているため、交易がしにくいため北都は田舎なのだ。
まぁ、何が言いたいかといえば、央都の人間のプライドは山よりも高いと言うことだ。
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突き刺さるような刺線…もとい視線は、昨日に比べて断然増えていた。
まぁ、昨日まで彼らの周りにいなかった女子が突然現れて構われてるなんて状況女子生徒は面白くないだろう。
しかも平凡な女子なら尚更。納得がいかないのだろう。
でも、わかっていてもこんな刺線はいらないな。
かといって、構うのもめんどくさい。
できるだけ穏便に、かつ平和に過ごせればよし。
面倒事がなくなるならばなおよし。
そのためには、接触は控えるべきなんだろう。彼らと。
「あー…ほんと」
むくむくと育つのは、
「どうぞ、お座りになって?」
「紅茶はお飲みになられます?」
「こちらにお茶請けもご用意させていただきましたわ」
言葉だけを見れば至れり尽くせり。
けれど、その姿は全く別。まるで罪人のように椅子に座らせられ、私を取り囲むように左右に詰められる。ざっと見ても中流から下流階級のご令嬢様ばかり。上流階級のご令嬢様はまだ様子見なのか、それともここの人達を使って情報を集めようとしているのか…。
「それで、なぜ貴女に皆様が構うのでしょうか?」
「以前より皆様と仲良くされていたのですか?」
「教えてくださいな。どうやって仲良くされたのか」
「なんの取り柄のない方がどのように皆様へ取り入ったのか。」
「……」
一斉に口を開く女子。ぴーちくぱーちくと…一斉に話されたってわかるか!
「どうぞ、お話になって?」
「是非とも貴女がどのように取り入ったのかお伺いしたいわ」
あざ笑うように話し掛けるのは取り巻きその1だ。
その笑いは空気感染するようにテーブル中に広がる。
あぁ、気分が悪い。
「別に取り入ったわけではありません。諸事情でこちらを気にかけてくださるだけです。」
そう、何処かのバカが惚れ薬なんて盛るから。
こちらに飛び火してきたんだろ。
「諸事情?」
「えぇ、諸事情です。これ以上は彼らにご迷惑をおかけすることになりますので。」
逃がすか。そんな刺線が私に集中する。
けれど馬鹿正直に話すヤツなどいないだろう。
「納得出来ませんわ。諸事情で言い逃れが出来るとでも?」
「そうよ、何処の馬の骨ともわからないわからない者が皆様の傍にいるなどっ…」
「誤魔化さず話しなさい」
まるで私が悪いと言わんばかりに責め立てられるような言い方。
「先程も申し上げましたが、これ以上は彼らにご迷惑をおかけすることになりますから。」
めんどくせぇ!言えないっていってんだろうが。って怒鳴れたらどれだけ楽か。
だいたい何処の馬の骨って、百目鬼家の者だし。この学園に来てる時点で身分は証明されてるっつの。
「貴女、此方が訊ねているのに…」
「そこまでで結構ですわ。」
見定めるように静観していた一人の女子の声で騒然とした雰囲気が霧散する。
「結城様…」
このグループのトップ。結城 梓。結城家の一人娘だ。
「どうしても諸事情で、と言い張るのですね?百目鬼さん。」
「はい」
きつい刺線を送る彼女を見返しゆっくりと頷く。
「そう、わかりましたわ。もう結構ですわ。皆様、参りましょう。」
そう言ってお茶の席を立つ彼女。
「ですが、これで終わったと思わないことね。貴女なんか彼らに相応しくないわ。」
そんな不穏な言葉を残し、取り巻きを引き連れて去っていった。
「あーっくそ!めんどくせぇ!」
そのまま身を投げ出し身体を伸ばす。
だいたい、なんでこっちがこんな目にあわなきゃなんないわけだ?こっちは被害者だ、ボケ。
『馬鹿なヤツだよな、てめぇは』
姿無き声が響く。
『あんなやつら俺にかかれば…』
「そんなことできるか。追い出されたらどうしてくれる。」
『へいへい。それにしても、てめぇ何枚猫を被ってんだ?』
「さぁねぇ。家に迷惑をかけないための猫だから。数えんのなんてめんどくさい。」
『変わんねぇヤツだな。あの頃と』
「……まだ10年だ。簡単に変わんねぇよ。」
目を閉じればまだ鮮明に思い浮かべることができる。それほど強烈だったのだあの頃は。
「それに比べればたった2、3週間の我慢だし。」
『我慢出来んのかよ。』
「………努力はする」
『馬鹿なヤツだよな、てめぇは』
それっきり声は聞こえなくなった。
「仕方ないじゃないか。」
巻き込まれたんだから。
《薬効が切れるまで残り20日》