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ルックスだけ。

休みの日の朝はなんて清々しいんだろう。


いつもより5分だけ長く布団にくるまって。

いつもより遅い朝ごはん。


課題は終えているから、今日は図書館に行こうか。

それとも自室で読書に勤しもうか。

紅茶を片手にゆっくりと読書。至福の時だ…。

昼食は…近くのカフェにでも行こうかな。


これだけでも至福の時なのに、今日は彼らと会わずにすむ。

なんて素晴らしい日。




なんて思ってました。

「おい、咲良。今日は俺とデートだ。」

そう窓の外から焔火隼人(このおとこ)が来るまでは。


「…ここ、4階なんですが。しかも女子寮で」

「あ?知ってる。だから飛んできたんだろうが。」

ベランダに立ち、窓にもたれ掛かったまま平然といい放つ。


央都魔術学園の寮は良家のお坊っちゃま、お嬢様が多く間違えが起こらないように男女別に寮舎がある。

互いの寮に入るためには許可が必要で、なおかつ、管理人の立ち会いが必要である。

無断で乗り込もうにも寮舎の間には管理棟というなの教授寮があり、より体制は厳しいのだ。


さらに、この部屋は5階建ての寮の4階部分だ。

それなのに、この男は飛んできたなどと…。


「別に、できないことじゃないないだろ?土魔術と風魔術の複合で…」


「そういう問題じゃ…それに、今日は読書に勤しもうかと思ってるんですけど」

見せつけるように机の上の本を見せ付ける。

なのに、この男ときたら、本をチラリと視線をやるだけで、

「そんなのいつでも出来るだろ?ほら、デートだ。行くぞ」

「ちょっと待ってくださいっ、ほんと…」

「いいから。ほら、来いよ。」

腕を引っ張られて焔火さんの胸に飛び込む。と思ったら抱き上げられ地面から足が離れる。

そしてそのままベランダの欄干を蹴飛ばして、空へと飛び出す。

「え、うわぁぁっ!」




―・―・―・―



「楽しかっただろ?空の散歩」

街外れの時計台。

あぁ、足が地面に着いてるって幸せだ。


思いきり飛び出したあの後、焔火さんの飛行魔術で空高く飛び上がった。


なんて言葉で言えばいいけれど、実際はそんなものじゃない。


飛び方が荒いというか…。落ちたかと思えば、急上昇。しかも支えられているのは腕一本。

これで楽しいと思える強者がいたら是非ともお目にかかってみたい。


「水無月さんを召喚しようかな。」

あの自己紹介の時、『他の3人に手をつけられなくなったら言ってね?』って言ってもらったし…

「おい、デート中に他の男の名前呼ぶなよ。」

焔火さんの横柄な態度にぷちんとくる。


「デート?これがですか?」

「あ?」

「人の話を全く聞かないで、何処が?」

「そ、れは…」

「私、今日は自室で読書に勤しむつもりだったんです。それを急にやってきて連れ去ったんじゃないですか。それをデートだと?ふざけんな!」

踏み込んだ足の裏にひんやりとした地面の温度が伝わる。

連れ去られた時に靴を履いてこなかったのだった。


「帰る。」

飛行魔術が使える訳じゃない私は学園まで歩いて帰るしかない。

靴下が砂利で白く薄汚れる。


「ま、待て…。」

きつく腕を掴まれる。

「なんですか?」

思わず冷たい目で睨み付けてしまう。

「……悪かった。無理に連れてきて。」

ばつの悪そうな顔で私を見てくる焔火さん。

その姿は捨てられた仔犬を拾ってきた子供(を見たことはないけど)のようだ。

「なら、今すぐ返してください。」

そう言う私はさながら母親のようなのだろう。



―・―・―・―・―・―



「俺にデート誘われて嫌がる奴なんて初めてだ」

「嫌みですか?それは。」


抱き上げられながら街を進む。

飛行魔術を使えばいいのだが、「疲れた」と一蹴され、靴下が汚れると抱き上げられてしまった。

せめてもの抵抗とばかりに顔を伏せるが、周りからはジロジロと見られている気がする。


あぁ、ほんと、最悪だ。



「ついたぞ」

目の前に建つのは、一軒の仕立て屋。しかもすごく高そうな。


「ここ、絶対お高いですよね!というより、なんで学園じゃないんですか!」

「詫びだ。値段は…気にするな。」

絶対高いんだ。

あの口籠り方は父様が母様に宝石をおねだりされたときの口籠り方と同じだし。お高い証だ。


「お詫びとかいいんで、学園に返してください。」

「いいんだよ。ほら、入るぞ。」

慌てて降りようとするが無理矢理連れ込まれる。

くそ、反省してないじゃないか


「いらっしゃいませ、焔火様」

「おう。悪いんだが、こいつに服一式見繕って欲しい」


「こちらのお嬢様をでしょうか?」

品定めされるような視線が上から下へと流れ、気持ち悪い。


「わかりました。私どもが腕によりをかけてご用意させていただきます。さぁ、お嬢様、こちらへ」

背を押されながら別室に押し込まれる。


「いや、私は!焔火さん、ほんと…」

助けを求めるように焔火さんを見るが、そっぽ向かれてしまった。

この、薄情もの!!


「さぁ、ご観念下さいませ」

「う、うわぁ!」

情けない声をあげて私はなされるがままになるのだった。


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