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第五話 お前を待っていたんだ!ヒロイン候補参上

 会長とハルトの決闘が終わった。大半の生徒が見ていたその決闘は、明らかに不自然に終わった。

 絶対有利な状況のハルトが自ら負けを認めるという不可解な結末。決闘から一週間過ぎても、生徒たちはなぜそうなったかの噂をしていた。

「あれはハルトが負けを認める代わりに、会長が性奴隷になる契約をしたらしいぞ」

「いや、実は会長はハルトの生き別れの妹だったって聞いたぞ」

「馬鹿、会長の方が年上だろう。あれは単純に恋に落ちちまったのさ、好きになっちまった方の負けってな」

他にも、ハルトは人質を取られていた説。宇宙人に操られた説など色々とくだらない噂が広がっていった。


 春原ハルトが目を覚ますと蛇々丸がベットの下から元気良くあいさつしてきた。

「おはよう兄者!」

「・・・ん」

「元気ないんだぞ!兄者ってば」

「・・・黙れ」

「もう、怒っちゃ嫌なんだぞ!」

「・・・」

「冗談はさておき。兄者よ、メスゴリラとの結婚についての対策は思いついたか?それが思いつかないと任務を完了することが出来ないわけだが」

「・・・まだだ」

「ふぅ~、兄者は仕様が無い奴だな。ここ数日、暇を持て余した拙者が、画期的な妙案を思いついておいたぞ」

「・・・ほう」

「聞きたい?ねぇ聞きたい?」

ハルトは少しイラッとした。

「・・・さっさと言え」

「クククッ、聞いて驚くなよ兄者」

蛇々丸はベッドの下からぬるりと出てくると、閉まったカーテンを豪快に開け、朝日を浴びながら言った。

「この学園で嫁を見つけよう・・・」

蛇々丸は、朝日を眩しそうに見つめながら続けた。

「で、子供も作っちゃおう・・・」

「・・・」

ハルトは無言で蛇々丸を見つめた。

「いいか、兄者よ!メスゴリラとはまだ結婚していない。じゃあ、こっちで恋人作って子供まで出来ちまったら、もうその人と結婚するしかないだろ。責任取るしかないだろ!日本は重婚を認めていない。先に結婚してしまえば、メスゴリラと結婚しなくていい!どうだ?」

「・・・」

ハルトは無言で蛇々丸を見つめた。

「兄者、嫁さん探そうぜ!」

蛇々丸はグッと拳を握り、ハルトを見つめ返した。その目はまだ穢れを知らない少年のように清く澄んでいた。

「・・・お前は天才か?」

ハルトは関心するようにそう言った。


 音子と一緒に朝食をとった後、のんびりしている音子にハルトは話かけた。

「・・・音子、好きな男性のタイプとかあるか?」

「え、なんだよ急に、そうだな寡黙で少し不器用で・・・って、なんで男の僕に好きな男性のタイプなんだよ!普通、好きな女性のタイプでしょ!」

「・・・それもそうだな」

「まったくもう。さあ、学校行かないと遅刻しちゃうよ。寮から学校が近いから、ついのんびりしちゃうんだから」

「・・・そうか。急ごう」

ハルトたちが学校に着き、教室へ行く。決闘前と比べ、クラスメートはハルトを取り囲んだりしないが、ちらちらと様子を(うかが)ったり、こそこそと噂話をしていた。

「やだねー。またハルトと会長の噂話してる」

「・・・気にするな」

「当の本人は、コレだもんなー。そういえば会長とは、その後どうなったの?」

「・・・どうもこうも、会ってすらいない」

「へえー、そうなんだ。ところで会ってないんなら、まだ謝ってないの?」

「・・・謝る?」

「ほら、決闘の原因は、僕たちと生徒会の小競り合いで、決闘に負けたほうが土下座して謝るって約束だったじゃん」

「・・・」

「忘れてたんだ・・・」

「・・・その内、行く」

「もう有耶無耶にしちゃえばー?」

「・・・それもありだな」

そうこうしていると、ハゲ散らかした先生が入ってくる。

「はーい、朝のホームルームをはじめますよ。席に座ってくださーい」


 ハルトは午前の授業を終えると、大きな魔石を小脇に抱えたクラスメートが話しかけてくる。

「ハルト、飯食いにいくべ。おれ腹減っちまったよ」

「・・・」

と、そこへ魔石を額に付けたクラスメートも来る。

「フン、待て俺様も混ぜろ」

「ちょっと、ハルトは僕と食べるんだよ」

「・・・みんなで一緒に食べよう」

「ええー」

いつもハルトと二人で昼食を取っている音子は不服そうにする。

「そうそう、みんなで行くべ。俺は食堂派なんだけど、食堂で食うだろ?」

「僕たちは購買派なんだけどなー」

「俺様は弁当なんだが?」

「・・・食堂か」

「いっつも購買とか飽きるだろ?彩川もほら、食堂にしようぜ」

「えーどうしようっかなぁ」

「・・・いいじゃないか」

「ハルトがそう言うなら、行くけどさ」

「おい、俺様は弁当なんだが?」

ハルトは大きな魔石を小脇に抱えたクラスメート大石に押されて食堂へと向かった。

「食堂デカッ!」

数百人が座れるほどの食堂につくと、音子が驚く。そこには沢山の生徒でごった返していた。ハルトたちは食券を買うために販売機へと向かった。

「お前ら、初めてならとりあえず最強にしといたらいいぞ」

「はぁ?」

そう言われて、販売機を見ると料理の量の所に、小、並、大、最強と並んでいた。

「なにこの頭悪そうな項目は?」

音子はくだらなそうにしていると、ハルトは迷わずザル蕎麦の最強にした。

「やっぱ、ハルトは分かってるよな!そうでなくっちゃ」

大きな魔石を小脇にかかた大石は、うれしそうに言った。

「もう、じゃあ僕はオムライスにするよ!」

音子はそう言って、オムライスの最強を買った。

「ははは、音子も分かってるな」

そして大石はカレーライスの並にした。

「おいコラ、大石はなんで並選んでんだよ!ふざけんな」

「はははっ!」

「ならば俺様はデザートでも頼んでおくか。並っと」

ハルトたちがカウンターへ行くと、タンクトップの浅黒いお兄さんが丸太のような二の腕をピクピクさせながら待っていた。

「食券を出したら、席に座ってな。出来次第持って行くからな」

お兄さんは丸太のような二の腕をピクピクさせながらそう言って、ハルトたちの食券を受け取った。ハルトたちは席に着き、くだらない話をしていると、まず音子の料理が運ばれてきた。

「はい、オムライスの最強いっちょぉぉ!」

お兄さんがテンション高めにそう言って、直径1メートルの大皿に乗った巨大オムライスが音子の前にドスンと置かれる。

「はいムリー」

「・・・音子。・・・たくさん食べないと大きくなれないぞ」

「そういう問題じゃないでしょ!多すぎるって!」

続いて、ハルトの料理が運ばれてくる。

「はい、ザル蕎麦の最強いっちょぉぉ!」

お兄さんがテンション高めでそう言って、普通のざるに乗った高さ2メートルの蕎麦をハルトの前にドスンと置いた。

「・・・バランス感・・・あるな」

「はい、カレーライスの並いっちょ」

お兄さんは普通のテンションでそう言って、普通のカレーライスを大石の前にコトンと置いた。

「そんじゃ、いただきますか」

ハルトたちは早速いただく事にした。ハルトは巧みに蕎麦タワーを崩さずに食べ、音子は普通に食べきれず、大石はカレーと音子の残したオムライスを食べた。

「ところでお前ら彼女出来たか?」

魔石を小脇に置いた大石が、音子のオムライスを食べながら言った。

「・・・いや」

「なんだよ藪から棒に。てか、僕のオムライス食うなよ」

「いいだろ、どうせ残すんだし。しかし、ハルトが彼女がいないなんて意外だな。彼女どころか彼氏も作れそうなのにな」

「・・・そうか?」

「ちなみに俺様もいないぞ!」

「ハルトはナンパじゃないからね。硬派なんだよ硬派」

「はえー、硬派ねぇ。おれがハルトだったら、女食いまくってるぞ?」

「うわ、大石って最低だよね、女食うとか言っちゃって。人のオムライスも食ってるし」

「ははは。英雄、色を好むって言うからな。女なんて食ってなんぼだべ?」

「・・・そういうものか」

「そうそう、そういうもんだぜ。さて、飯も食ったし、食後の運動と行こうか!ミニバレーやろうぜミニバレー」

大石はそう言って元気良く立ち上がり、食堂を後にする。

「はあ、しょうがない奴。ハルトもミニバレーしに行こうよ」

「・・・ああ」

音子も立ち上がり、大石の後を追う。ハルトは食べ終わった食器を一瞬で重ねると立ち上がる。

「・・・お前も行くだろ?」

と、ハルトは額に魔石を付けたクラスメート、無我(むが)()(きょう)()に話しかけた。

「うぅ・・・俺様をシカトしないのはお前だけだぁ!俺様の闇に抱かれてしまえハルト」

と言って無我野はハルトに抱きつく。そして接着剤で張ってある額の魔石が取れる。

「・・・やめろ」

「おっと、俺様としたことが。いち眷属に過ぎない春原ハルトに馴れ馴れしくしてしまった。なんだ、食器を片付けるのか?仕方ない、特別に手を貸してやろう。ハッハッハ」

「・・・悪いな」

「フン。べ、別に眷属のためにやるんじゃないぞ。ただ手伝ったほうが早いと感じただけだ」

ハルトと無我野は二の腕をピクピクさせているお兄さんがいるカウンターに食器をさげると大石や音子の後を追った。


 中庭でハルトたちがミニバレーをしてキャッキャしていると、魔石を小脇に抱えた大石が柄の悪そうな男たちが一人の女子生徒を連れて、どこかへ行くのを目撃する。

「お、なんだあいつら?」

「食らえ、大石」

余所見をしている大石に音子がミニバレーボールをぶつける。

「あいた。ちょっと待て、あいつら見ろよ。あからさまに何かしそうじゃないか?」

「ん~。わー柄悪いなぁあいつら」

「・・・」

「おい貴様ら、そんな事よりミニバレーをしろ。俺様はまだボールに触っていないんだぞ?」

「これってよ、よくあるやつだよな?助けに入ったら、あの子がおれに惚れるやつだよな」

大石は下心丸出しで言った。

「惚れないとは思うけどね。先生とかに言ったほうがいいんじゃない」

「いやいや、惚れるね。そうと決まれば、いくぞビック・ザ・ストーン。彼女ゲットだぜ」

「あーあ、しょうがないな。僕たちも行こうよハルト。大石だけだったら返り討ちにあうだけだし」

「・・・わかった」

「フン、有象無象の雑魚など、俺様が滅殺してやろう。おい待て、置いていくな!」


 大石が薄暗い建物の裏に行くと、柄の悪い男たちが一人の少女を囲んでいた。

「おっしゃ、先手必勝だぜ!」

そんな様子を見て、大石はいきなり突っ込んで柄の悪い男たちを殴り飛ばしていった。

「うぎゃ!」

「いってぇぇ」

「あべしっ!」

柄の悪い男を倒し終わると大石は囲まれていた女子生徒に話しかけた。

「おい、大丈夫か?たまたまおれが通りかかったから良かったものの。おれがいなかったら、お前大変な事になってたんだぞ?分かってるのか、もう少し危機感もてよな~」

大石はなぜか女子生徒に説教を始めた。が、女子生徒は大石を無視して、倒れている柄の悪い男たちに心配そうに駆け寄る。

「あ、あの大丈夫ですか?」

「うう・・・」

「あれれ?普通は『助けてなんて言ってないわ!ふんっ!』とか言ってちょっとした口喧嘩に・・・あれ?」

大石があっけに取られていると音子やハルトたちがそこに辿りつく。

「おお、大石やるじゃん!でも、様子が少しおかしい様な」

柄の悪い男たちが痛そうに立ち上がり、女子生徒はその様子を見て安堵する。

「大丈夫そうですね、よかった。あ、それとさっきの話の続きですけど、ごめんなさい。いま誰かと付き合うとか考えてなくて・・・」

「うっ・・・そ、そうですか」

「タッチャン・・・」

「泣くなタッチャン」

「うっ・・・うっ・・・」

一人の柄の悪い男は天を仰ぎ、涙がこぼれないようにした。取り巻きの柄の悪い男たちは肩を叩き励ました。

「なるほどな!おれはお邪魔みたいだから帰るわ、じゃあな!」

大石は何事も無く帰ろうとした。が。

「おい、ちょっと待てやゴラ!どこいくんじゃい!」

「なめてんかワレ!イテこますぞオラ!」

「オ?コラッ!オォ?」

先ほど振られて泣いていた男たちは、一瞬にして顔を歪ませて激怒した。

「どうしよう!ハルト助けて!」

大石は素早くハルトにすがり付いた。

「んーと、つまり柄が悪いくせに意気地なしだから友達と一緒に告白したところ、勘違いしたバカにぶん殴られて、挙句に振られちゃったって事?」

「・・・謝るしかないな」

「フン、下らん。なぜメスに告白なんぞ下賤なことを」

柄の悪い男たちはガンを飛ばしながら、ハルトたちに詰め寄る。

「テメー春原ハルトじゃねぇか!オォンコラ!」

「チョーシこいてんじゃねぇぞコラッ!」

「・・・コラコラうるさい奴らだ」

「アッコラ?オッコラ?」

「ハ、ハルトやばいよー。この人たち何言ってるかわからないよ・・・」

音子も大石と共にハルトの後ろに隠れる。

「失せろゴミ屑!我が第六波動を食らうがいい!」

無我野京牙が空気を読まずにそう言ってポーズを取る。

「じゃからしいわボケェ!」

が、柄の悪い男は無我野京牙の顔面に容赦なく拳を叩き込んだ。

「アビャっ!」

ハルトは無様に倒れる無我野を見て言った。

「・・・おい待て、俺たちが悪かった。・・・勘弁してくれ」

「アアン?勘弁だぁ?勘弁なんてしたことねぇなぁ!」

柄の悪い男たちはハルトにキスする勢いで顔を近づけ、怒鳴り立てる。

「ちょっと待ってください。喧嘩なんてしないでください」

と、先ほど告白されていた女子生徒が割って入ってきた。長身でスタイルが良く、長い黒髪、その後ろ髪を一部縛ったヘアスタイル、凛々しい顔つきが男心をくすぐる美少女だった。

「喧嘩は良くないです!」

「か、(かなで)さん・・・」

柄の悪い男たちは先ほど振られたばかりの女子生徒に凄まれて、罰が悪そうな顔をする。

「っち!ここは奏さんの顔に免じて、勘弁してやるわ!」

「覚えとけよ春原ハルト!」

そう言って柄の悪い男たちは去っていった。

「はははっ、一昨日来い不良共!この大石と春原ハルトが相手してやるぜ!」

「大石はホント最低だよねー。全然反省してないし」

音子と大石はハルトの後ろに隠れながらそう言った。

「・・・おい、無我野。大丈夫か?」

ハルトはそう言って無我野を心配した。

「全然痛くないし!ハンデだし!」

「・・・そうか」

ハルトが倒れている無我野京牙を起こしている間に、大石が女子生徒の奏に話しかけていた。

「いやー、まさか同じ学年の美人で有名な奏ちゃんが襲われているとは」

「襲われてはいませんけど?」

「まあ、結果的には俺が助けたようなもんだし?いやいや、お礼なんてデートで十分ですよ!はははっ!」

「ええ!なぜそうなるのでしょうか?」

そんな様子を見ながら、ハルトの傍で一緒に無我野を心配する音子が言った。

「大石のやつ、相手が可愛いからって、ここぞとばかりに押してくなー。ある意味尊敬しちゃうよ」

音子が呆れる中、大石はどんどん奏に迫っていた。

「じゃあ、今度の日曜とかどうだい?奏ちゃん」

「はあ?その日は特に用事はありませんが・・・」

「なら決まりだな!ついでにアドレスも交換しとこうっぜ!」

大石は強引に奏と約束し、連絡先なども交換した。その強引さに音子は感心するばかりだった。

「えーと、あの私はこれで」

奏は大石の強引さに参ったのか、その場から走り去って行った。

「へへーん、やっぱり最後は正義が勝つんだぜ。ああいう清純そうな女は、とりあえずゴリ押しすればそのうち落ちるぜ。覚えておけよハルト」

「ハルトの百分の一もモテないくせにアドバイスするのか」

「・・・なるほどなぁ」

と、ここで昼休みの終わりを告げる鐘がなる。ハルトたちは急いで教室へと向かった。


 午後の授業が終わり、部活に行く者は走り出し、やる事のない者はダラダラと帰り支度を始める。

「ハルト、一緒に帰ろうよ。今日もマグの特訓するんでしょ?しょうがないから僕が手伝ってあげるよ」

「・・・悪いな、今日は掃除当番なんだ。・・・先に帰ってくれ、後から俺も行く」

「あーそうなんだ。じゃあ、早く掃除終わらせてきてね。僕待ってるからさ」

音子は少し残念そうにして去って行った。ハルトは掃除当番の玄関へと向かい他の当番の人と掃除を始めた。大抵の男子は箒を振り回して遊んでおり、女子はそれを注意している。

「ライト前に大きく打ち上げたぁ!入るか?入るか?アウト!5回無失点で抑えました」

「男子ぃ、遊んでないでまじめにやってよ!」

ブルペン(傘立ての前)で雑巾を振っていたハルトも、女子に怒られる。

「あんたはあっち、あんたはこっち。ハルト君は外を掃いてきて!」

男子たちは渋々掃除を始める。

「・・・やっと肩が温まった所だったが。・・・仕方ない」

剛速球を投げることなくハルトは言われたとおりに外の掃き掃除へと向かった。

 (ほが)らかな日差しが暖かくハルトを照らす。そんな陽気な空の下、適当に箒を動かしているハルトの目に、不思議な少女が映る。

 少女は四つんばいになりながら、虫眼鏡で地面を真剣に観察していた。少女は目立つピンク色の髪で、たわわに実った胸が特徴的だった。何よりも豪快にパンモロしており、帰る男子たちはチラチラ視線を動かざるえなかった。

「・・・縞パンか」

そんな光景をハルトも箒を適当に動かしながら観察していた。だが、さすがに夢中でパンツを丸出しにしている少女が憐れに思えてきて、ハルトは注意しに行った。

「・・・おい、パンツ見えてるぞ」

「え、パンツ?ああ!私としたことが!は、恥ずかしいぃ」

「・・・じゃあな」

去ろうとするハルトに周囲の男子から冷たい目線を送られる。

「待ってください!乙女のパンツを無料(ただ)()とは、そうは問屋が卸しませんよ」

「・・・はあ?ここで金銭のやり取りをした方がダメだろ。・・・犯罪臭がする」

「なに言ってるんですか。ものの例えでお金を要求しているわけではありません。って、アナタどこかで見たことがあるような。ん~?」

ピンクの少女は胸を強調するように腕を組み考え込む。

「・・・俺は春原ハルトだ」

「ああー、思い出しました。会長に負けた春原ハルトさんですね。たしか負けた理由は宇宙人の陰謀でしたっけ?」

「・・・なるほど、お前は宇宙人説を支持する少数派の変人なのか」

「変人ではありません!そんな事より、パンツを見た件の責任とっていただきたい」

「・・・わかった。ジュースを奢ってやろう」

「いいえ、アナタが春原ハルトさんという事は、もっと別の形で責任を取ってもらいます!」

ピンクの少女は何かを思いついたのか、ニヤリと笑う。

「・・・」

とりあえずハルトは玄関掃除を終えると、待ち構えていたピンクの少女に無理やり引っ張られて連れて行かれた。

 文化系部活棟、そこの一室に案内されたハルトは、ピンクの少女に無理やり椅子に座らせられた。

「粗茶ですが」

ピンクの少女はコトンとお湯の入った湯飲みをハルトの前に置いた。

「・・・粗茶どころか、ただのお湯じゃないか」

「うう、これには少々わけがありまして。そしてそれがハルトさんを連れてきた理由でもあります」

ピンクの少女は、ハルトを指差すと続けた。

「ハルトさん、我が部に入部していただきます!それでパンツを見たことは不問にしましょう」

「・・・やだ」

拒否したハルトに、ピンクの少女はハルトの腕に露骨に胸を押し付けながら言った。

「そんな事言わないでおねがいしますよぉ。パンツ見たくせにー」

「・・・(こいつ、露骨なハニートラップを!・・・クノイチか!?)」

「ね、いいでしょ?ちょっとだけ、ちょっとだけ名前借りるだけですから。ね?」

「・・・むむむ」

「おねがぁ~い」

「・・・わかった。だから胸を当てるのをやめろ」

「やった!客寄せパンダゲッチュ!」

ハルトはピンクの少女のハニートラップにやぶれ、入部する事になってしまった。

「では、改めましてUMA研究部へようこそ。部長の()地崎(じざき)千代(ちよ)です」

「・・・UMA研究部?なんだそれは」

「はい、未確認生物について研究、探索を主な活動として学会に報告などをしています」

「・・・なるほど」

「部員は私と停学中の先輩とハルトさんの三人です。そう部員が不足しているんです。部活と認められるには最低5人、同好会としては3人。このままでは同好会に格下げになってしまいます」

「・・・つまり俺が入らなかったら潰れていたのか。・・・惜しい事をした」

「冗談でもそんな事を言わないでください。そしてハルトさんには客寄せパンダとして部員を増やして貰いたいんです。女子から人気のあるハルトさんなら、バカな女共を釣れるはず。さらにはその女に釣られてバカな男共も入部、我が部は学園一の大所帯に!」

ピンクの野地崎はテーブルに足を乗せ、握りこぶしを作ると続けた。

「そうすれば、今年の部活予算会議で物量を武器に部費をがっぽりせしめて、うひひひぃ!」

「・・・下種だな」

「なに言ってるんですか。部費が入れば、そのお湯も玉露にレボォアーップするんですよ?」

「・・・ほう」

「さあ、ハルトさん。私のネス湖一人旅のためにバカな愚民共を勧誘して部費を荒稼ぎしましょう!」

「・・・いやだ」

「え、なんでですか!」

「・・・名前は貸してやるが、積極的に部活動をする気は無い。パンツの借りは入部するだけで十分だろ」

「そんな、一緒に部を盛り上げましょうよ。おねがぁ~い」

引っ付こうとするピンクの野地崎を華麗にかわし、ハルトは素早く部室を出た。

「・・・じゃあな、野の字。たまには顔を出してやる」

「え、野の字って私のあだ名ですか?全然可愛くないんですけど!却下です却下!」

後を追おうとするピンクの野地崎を、ハルトは忍者特有の疾風のような速さで撒いて、自分の寮へと帰った。寮へと帰ると、かなりの時間待たされた音子が不機嫌にしていたので、機嫌を直すのにハルトは苦労した。


 マグの特訓を終え、自室の寝室へと戻ったハルトは肉体鍛錬を始めた。会長との戦いで肋骨を痛めたハルトは、自身の不甲斐なさを悔い、初心に戻り肉体を鍛えなおすことにした。

「兄者、あまりムキムキになりすぎると女子は引くぞ?」

腕立て伏せをするハルトに、天井に逆さに座りながら漫画を読む蛇々丸がそう言った。

「・・・蛇々丸、お前も少しは鍛えたらどうなんだ」

「拙者はまだアサシンにやられた傷が・・・あいたた」

「・・・まったく。・・・俺が日々、学園生活を耐え忍んでいるというのに」

ハルトは腕立て伏せ状態から逆立ちになり、そのまま腕だけで屈伸を始めた。

「変わったな兄者よ、里にいた頃に比べれば随分と楽しそうだ」

蛇々丸は里にいた頃の兄を思い出す。

 鍛錬と任務の繰り返しに目を濁らせていく兄。ただひたすらに、効率的に人を殺すことだけを考える兄を。

「・・・そうか」

「そうだよ兄者。最近は音子のヤツを失神させたりしないしな。いまの兄者の方が拙者は好きだぞ」

「・・・フンッ!何を甘っちょろい事を言っている蛇々丸。・・・傷が治り次第、アサシンを討ちに行くぞ」

「アサシンか、殺れると思うか兄者よ?」

「・・・正面からは難しいな。お前の話では、相手は相当なマグを使える上に一般人ではなく、俺たちと同じ裏の人間だ」

「では、どうする?」

「・・・アサシンは俺と同じように学校関係者として潜入している可能性が高い。正体を暴き、搦め手を使うか、・・・暗殺する」

「クククッ、アサシンを暗殺とは。面白そうだな」

ハルトは逆立ちの状態から腕だけで跳ね上がると、綺麗に着地する。

「・・・そういう事だ。さっさと傷を癒せ蛇々丸。不安要素は早く片付けたい」

「拙者も兄者の意見に賛成だ。あのアサシンめ、腹に風穴開けられたお返しは絶対にさせてもらう」




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