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第三話 激闘

 春原ハルトが目を覚ますと、天井から蛇々丸の頭が生えていた。

「おはよう兄者!」

「・・・ああ」

「もう!兄者ったら、元気がないんだぞっ!」

「・・・」

朝から不快なものを見たハルトは、目頭を押さえながら起き上がる。

「・・・ところで、昨日はあれから姿を現さなかったが・・・何をしていた?」

「クククッ、その事か。拙者も色々と考える事があってな。一体どうすれば二人の仲が深まるかとか。何かドキドキのハプニングでも起こしてやろうとか」

「・・・そうか」

ハルトは蛇々丸が何を言っているか分からなかったが、共産主義の所為だと思い、無視した。

「なんだ兄者、弟に冷たくないか。もっと食いついてきてもいいのに。あ、それと生徒会どもの特訓の様子を撮影しといた。映像はそこのノートPCに入ってるから、暇なときにでも見ておいてくれ」

「・・・わかった」

「クククッ、兄者。あの会長とやら、下手したら兄者より強いぞ」

その言葉を聞いて、ハルトの目が大きく開く。

「・・・そうか」

「では、拙者は徹夜だったので寝る。おやすみ兄者!」

「・・・」

「おやすみ兄者!」

「・・・おやすみ」

蛇々丸が消え、ハルトが制服姿になり、登校の準備を済ませて寝室を出ると、香ばしい匂いが居間に広がっていた。

「ハルト、おはよう」

エプロン姿の音子はそうキッチンで調理をしながら挨拶してきた。

「・・・おはよう」

「ちょっと待っててね。今出来るから、っと」

そう音子に言われたので、おとなしくテーブルに座り待っていると、「おまたせ」と音子が朝食を運んできた。ベーコンエッグに焼きたてのトーストにバター、山盛りのサラダ。

「飲み物はなに飲む?牛乳?オレンジジュース?」

「・・・緑茶」

「はいはいっと」

音子はキッチンへ行き、少し待つと熱々の緑茶を持ってきてくれた。

「・・・いただきます」

「いただきまーす」

目玉焼きに醤油をかけ、カリカリのベーコンと一緒に口に入れる。そして、程よくバターの溶けた出来立てのトーストを頬張る。最後は熱々の緑茶。ハルトは、あまり洋風の食事はしたことが無かったが、悪くないと思った。

「まあ、昨日の晩御飯はハルトが作ったからさ、おかゆだったけど。朝食は作ってやろうかなって思ってね」

聞いてもいないのに、音子が勝手にしゃべり出した。

「・・・そうか、ありがとう。・・・うまい」

「あ、うん。どういたしまして!」

音子はそう言って、トーストをがつがつと食べ始めた。

「・・・野菜も食え」

ハルトは山盛りのサラダを小皿に移すと、音子の前に置いた。

「言われなくても、食べるって!」

音子はこんどはサラダをがつがつと食べた。くだらないやり取りをしていると二人は食事を終えた。

「・・・ご馳走様」

「ごちそうさまー。っと、もう出ないと。結構いい時間になってるよハルト」

「・・・そうか。・・・ハッ!」

ハルトは目にも留まらぬ速さで、食べ終わった食器を重ねるとキッチンへ持っていった。

「す、すごい!無駄にすごいよハルト!」

「・・・そうか?」


 音子とハルトが寮を出て、学校へ行くと校舎1階の掲示板に人だかりが出来ていた。

「はいはい、押さないでねー」

「A席は完売しました、A席は完売しましたー」

音子とハルトがなんだろうと眺めていると、後ろから突然話しかけられた。

「おやおや~、これは主役の一人の春原ハルトじゃあないか」

メガネをクイッとしながら見たことのある男が言った。

「あー、誰だっけこの人?ねえハルト」

「・・・生徒会書記だったような。・・・で、なんだ?」

書記はメガネをクイッとさせながら言った。

「用がなかったら話しかけたらダメなのか?貴様は大統領か何かか!」

「・・・違うが」

「じゃあ、話しかけたっていいじゃないか。いちいち勘に触る奴だな貴様は」

「・・・で、何のようだ?」

「だから、用はないと言っているだろう。じゃあな!」

そう言って書記はメガネをクイッとさせ、どこかに行ってしまった。

「・・・なるほどな、一瞬にして嫌いになってしまった。・・・さすが学園一の嫌われ者」

「あの人、なんで話しかけてきたんだろうね」

「・・・さあ」

とりあえず、何事も無かったかのように音子とハルトは人だかりの先頭を見に行った。

 そこには生徒会のスカした会計と数人の手伝いが、何かのチケットを売りさばいていた。近づいてきた二人に気が付いた会計は、手を上げて挨拶してきた。

「おう、おはよう、春原ハルト君。と、そちらはお友達かい?」

「あ、彩川音子っていいます」

「彩川、君?ちゃん?おとこ?まあいいや、俺は京太郎、財前京太郎だ。彩川もおはよう!」

「お、おはようございます先輩」

「・・・おはようございます。・・・ところでなんの騒ぎだ、これは?」

「おっとっと、ハルト君は主役の一人だったな。これこれ」

と、会計の財前は背中の掲示板を指差した。そこには先日に決まった会長とハルトの決闘についての詳細が書かれていた。

「この決闘、生徒会主導でやる事になったから。で、どうせだったら商売として全校生徒を観客に、大闘技場でやろうと思ってね。今はチケットを売ってる最中なんだよ。彩川、ハルトの応援したいだろ?良い席を安く売ってやるぜ?」

「あの、校内で営利を目的とした行為って、やっても大丈夫なんですか?」

「許可がなきゃダメに決まってんじゃん。でもな、生徒会の予算を去年に使いすぎて辛いんだよ。会計として稼げるときに稼がないとね」

「はあ?それって生徒会は大丈夫なんですか」

「いいのいいの、責任はうちの書記に取ってもらうから。あいつ、もう内申点とかズタボロだから大丈夫だし。先生方にも、そういう事で手を打って貰ってるからね」

「ああー、あのメガネをやたらクイッとする人ですか。ちょっと可愛そうな気が・・・」

「いやいや、そのうちザマーミロぐらいにしか思わなくなるから。同情するのなんてうちの会長ぐらいだよ」

「・・・そうなのか」

「そうそう、あ、それとハルト君。みんなに会長との決闘について聞かれたら、出来るだけ煽っといてね。こっちも、スゲー一年生が会長に喧嘩売ったぜ、って煽ってるからさ。俺、負けないよ、みたいな感じでお願いね」

「・・・」

「あと勝ち負けも重要だけど、怪我しないようにね。怪我するな、と思ったら直ぐに負けを認めちゃってさ、会長だったらすぐに止めてくれると思うからね」

「・・・俺は負けるつもりはない」

「お、いいねぇ~。その息だよハルト君!そんな感じでせいぜい強がっちゃってよ~。そしたら負けた時に、より一層盛り上がるからさ~」

その発言にイラッとした音子は財布を取り出し万札を叩きつける。

「一番良い席を一枚!一番席でお宅の会長様の負ける姿を見てあげますよ!」

「お、毎度ありー。プラチナ席一枚入りましたー」

「プラチナ一枚入りましたー」

そう声が上がると、周りがどよめく。

「プラチナだってー」

「すげー、プラチナっていくらするんだよ」

「つーかプラチナってなんだよ?そんなのあったか?」

会計の財前がチケットを音子に渡すと、軽く肩を叩いた。

「じゃあ、ハルト君のセコンド頑張ってね」

「え、セコンド?僕が?」

「そう、それが一番良い席なんだよね。ハイハイ良い席取った人はまだ買ってない人の邪魔だから、教室にでも行って、作戦会議でもしてようね」

スカした会計の財前は、まんまと万札を(むし)り取った音子とハルトを追いやると、授業が始まるギリギリまで商売を続けた。

 一年生のハルトと音子の教室へ行くと、やはり決闘の話で盛り上がっていた。

 注目度は高く、一年生の大半はチケットを買っていた。ハルトを応援するものはもちろん、ハルトを良く思っていない者もハルトの無様な負ける姿を見るために。ハルトに興味がない者もマグを使った戦いが見れると買っていた。

「ハルト!お前が勝つって信じてるぜ。見てくれこのS席を、一番良い席でこの『ビック・ザ・ストーン』と応援するからな!」

「フん、残念なネーミングセンスだな、魔石が泣いているぞ。ハルト、俺様はお前なんて負けてしまえばいいと思っている。だから、負ける姿がよく見えるS席を買っておいた。せいぜい頑張るんだな。あと俺様の眷属になりたいならいつでも言え」

クラスメイトたちはそう言って、ハルトへよく分からない声援を送った。結局、一日中ハルトはそんな感じで一年生たちに囲まれてしまった。


 一日の授業が終わり、しつこいクラスメイトたちも撒いて、ハルトは何とか自分の自室に辿り着いた。

「・・・疲れた」

自室の居間でへたれていると、遅れて音子が入ってきた。

「ハルト、へこたれてる場合じゃないよ!」

「・・・む」

「む、じゃないって。それより見てよこれ!」

音子は、持っていた箱を開けて見せた。

「・・・音子の魔石か?」

「そうだよ、加工に出してたのがやっと出来たんだよ。昨日の晩には出来るって言ってたのに、いまごろ届いたんだよ。しかも、これ!」

音子は箱から魔石を取り出した。

「見て、リボン!注文と違うんだよ!これ副会長のデザインと一緒!」

「・・・そうか」

「・・・そうか。っじゃないよ!ネックレスがよかったのに!絶対、副会長が何か小細工して変えたんだよ!」

と、ジタバタ騒いでいる音子を見ていると、天井から蛇々丸の(ささや)く声が聞こえた。

「兄者よ、音子のリボンをさっと手に取り、音子の頭にやさしく添えて『でも、俺は似合ってて、可愛いと思う』と微笑みながら言え!」

「・・・」

「言え!」

「・・・音子」

「なんだよぉー」

「・・・かわいい」

ハルトは真顔で言った。

「な、なに言ってんだよ!なにが可愛いだよ!もう!」

「お、おのれ兄者め。面倒くさがって端折(はしょ)りおってぇ。だが、そこが良い!さすが兄者」

そんなくだらないやり取りをしていると、その内に音子も冷静になった。

「まあーネクタイの代わりに付ければ良いか。でも、私服の時はどうしようかなー」

「頭に付ければいいんじゃないかなー可愛いと思うなー」

そう天井から蛇々丸が呟いた。

「ん?いまのハルトが言ったの?なんか声が違ったようなー」

「・・・幻聴だ」

「ふーん、幻聴?」

「ハルト的にはぁー頭に付けたら可愛いと思うなぁー」

「やっぱり、天井から誰のとも言えない声がするような?」

「・・・幻聴だ。・・・そんなことより、俺はマグの特訓をしようと思うんだが、よければ付き合ってくれないか?」

「特訓?あーそうだよね、僕たち、マグを貰ったばかりで、戦い方なんて全然知らないもんね。今日の授業だって、マグの説明とか色々と聞かされたけど、マグの発動とかはお預けだったし」

「・・・じゃあ、早速行こうか」

ハルトは音子を押して、そそくさと部屋を出た。

「まあいい、拙者は引き続き学園の地理を調べるとするか」

一人残された蛇々丸は、天井を這うように動き、闇へと消えた。


 いずれは巡り会う運命だった。蛇々丸は因果流次期頭首のハルトから見れば未熟だが、忍者全体で見れば一人前と言えた。広大な学園のほぼ全てを地図に記そうと、学園中を飛び回る蛇々丸。すでに学園の半分は回っていた。そう学園を探りまわっていれば、出会う運命だった。

「・・・!」

最初に気づいたのは相手であった。蛇々丸が学園校舎の天井を這いずり回っているのに気が付いた。もちろん、常人では気付き様のない僅かな音。ただ、裏社会に生きるものならば、すぐに同類が発する音だと気付く。

「チッ!」

遅れて、蛇々丸が気付く。蛇々丸はすぐに何者かがいた部屋へと滑り、降り立つ。ロッカールーム、そこにはもう誰もいない。だが、蛇々丸は地面に着地する間のコンマ数秒に、何者かが天井の換気口に滑り込むのを目撃する。

『カラカラ・・・』

天井の換気口の蓋が僅かに音を立てていた。蛇々丸は着地すると同時に、腰に巻いてある刀を抜く。その刀は蛇腹剣や鞭剣と言われる、ワイヤーで刀身を数珠繋ぎした代物であり、刀状態から瞬時に鞭のようにしならせる事が出来る特殊剣だった。蛇々丸のはさらに特殊で、細長い刀身はフェンシングで使われるレイピアを思わせ、異様に伸び縮みするものだった。

『シュォッ!』

蛇腹剣が空気を切る音を立てながら、天井の換気口へと伸る。

「うっ!?」

何者かのうめき声と共に、蛇々丸は思いっきり蛇腹剣を引っ張り、天井の換気口から獲物を引きずり出した。何者かは足にまとわり付いた蛇腹剣を空中で素早く叩き切ると、くるりと受身を取り着地する。

「必殺オロチ突きっ」

何物かが戦闘体勢になる前に、蛇々丸は容赦なく、自身が持つもっとも殺傷能力が高い技を相手へと放った。それは一撃必殺の右突きを同時に8発放つ恐ろしい技だった。

「っツ!」

何者かは、手に持つ2本のナイフで8発の内6発を切り飛ばす。

「くそっ・・・。だが、2発」

蛇々丸と何者かは素早く距離を取る。蛇々丸の右腕はズタボロに切り裂かれており、ブラブラと血を流しながら揺れていた。何者かも蛇々丸の必殺の突きを左鎖骨部分と右脇腹に受け、血を滲ましている。

 ここで蛇々丸は、初めて相手を完全に目視する。見たこともない鬼のような仮面を付けた黒装束。両手には、への字型に曲がった特徴的な大型のナイフ。肩で息をし、鎖骨周辺を破壊され、右脇腹をえぐられた無様な姿があった。

「シッ!」

先に動いたのは、鬼の仮面を付けた相手だった。右手に持つ、への字型のナイフをブーメランのようにして蛇々丸に投げつける。

 この時、蛇々丸に落ち度はなかった。

 避けるにせよ、手で捕らえるにせよ、飛んでくるナイフに集中するのは当たり前である。ましてや、1秒に満たない時間を相手に与えた所で、命取りにはなる筈がなかった。

『ガンッ』

蛇々丸は軽く避け、大型のナイフは後ろのロッカーに突き刺さる。

 が、次の瞬間、目の前にいた死に体の相手は、マグを発動していた。鬼の仮面をした相手は、ナイフを投げた右腕を、勢いそのまま懐に滑り込ませ、魔石を取り出していたのだ。

「サバトラ・・・」

鬼の仮面が呟くと、手に持つ黒い魔石が禍々しい瘴気を出し、その体を包み隠す。もちろん蛇々丸も素早くクナイを投げつける。

『カン、カン、カン』

金属と金属のぶつかる音、そして弾かれるクナイ。

 ゆっくりと、どす黒い瘴気を漂わせて立ち上がる相手。その姿は全身を黒い金属の機械鎧で武装した凶悪な鬼の姿だった。薄っすらと銀色の吐息を吐き出しながら佇む姿に、蛇々丸はただ立ち竦むしかなかった。

「あああぁぁぁぁ!」

相手は咆哮と共に左手に持つ、への字型のナイフをブン投げる。先ほどとは比べ物にならない速度で飛ぶナイフに、蛇々丸はギリギリで避けるのが精一杯だった。ナイフはロッカーを吹き飛ばしながら、部屋の壁にめり込む。

「あっ・・・」

態勢を崩している蛇々丸に、鬼の仮面は目にも留まらぬ速さで突っ込む。蛇々丸の腹部に敵の右腕は突き刺さり、そのままロッカーを蹴散らしながら壁に激突した。

「お、お・・・」

鬼の仮面の右腕は蛇々丸の腹部を貫通し、壁に突き刺さっていた。

 と、蛇々丸の頬が異様に膨らんでいく。口元を隠していた布がハラリと取れると、まるでカエルのように膨らんだ蛇々丸の顔が覗く。

「おえぇぇぇぇっ!」

大量の血と同時に無数の玉が、蛇々丸の口から溢れ出る。思わず鬼の仮面は蛇々丸から離れる。無数の玉には導火線が付いており、一斉に火花を上げだす。

「爆弾か・・・」

鬼の仮面はそう言うと、両手で何かを引く動作をした。すると、への字型のナイフには見えないほど細い糸が付いていたらしく、鬼の仮面の手に吸い込まれるように飛んでいく。

 次の瞬間、蛇々丸の吐き出した玉が、大量の光を放つ。鬼の仮面は素早く、天井の換気口へと滑り込み、その場から消える。

「ブシュゥゥゥー」

無数の玉は、光と共に大量の煙だけを出す。部屋は一瞬で煙に包まれると、程なくして火災報知機が煙を感知する。

『ジリリィィィィィ』

学園校舎に火災を知らせる音が鳴り響く。


 闘技場にやってきた音子とハルトは、早速マグを使ってみた。

「えーと、こうやって手で触れて、発動しろぉぉぉって念じて―」

「・・・むん!」

音子はリボンに付く魔石を軽く触りながら目を閉じて念じ、ハルトは米粒を手のひらに乗せ凝視した。

『ホワワ~ン』

音子は少しずつ淡い光に包まれていき、気が付くと厚さ5センチの二枚の鉄板が周囲に浮かび、自身は体のラインがくっきりと分かる全身タイツのような赤いスーツに身を包んでいた。

「う、体が少し絞め付けられる。・・・って、ナンジャコリャ!」

音子は恥ずかしそうに体を手で隠そうとする。

『モモモ・・・モワォ~ン』

ハルトの米粒は、光を放ちながら少しずつ肥大して行き、最終的に拳銃のような形になった。

「・・・ふー。・・・けっこう集中力がいるな。音子はどうだ?」

「あ、いや、一応、発動出来たけども!」

「・・・ふむ」

「な、なんだよジロジロ見るなよ!」

ハルトは自分の拳銃と、鉄板2枚に少し機械の装飾が付いた赤いスーツの音子を見比べた。

「・・・俺のは拳銃だけなのか。俺にも恥ずかしいスーツとかないのか?」

「恥ずかしい言うな!」

ハルトは拳銃を慣れない手つきで両手で構えると、誰もいない方へ撃ってみた。銃弾は鉛玉ではなく、輝く光が打ち出され、壁に当たる。

『パチン』

破裂音と共に軽い傷痕をつけて、輝く光は消える。

「・・・玩具レベルじゃないか」

音子も鉄板を扱おうと手をかざしながら、念じる。二枚の鉄板は少しずつ、音子に近づき、音子をサンドウィッチのように挟んだ。

「うごごご。ハルトタスケテー」

その後も二人は、華麗にマグを操って特訓する自分を思い描きながらも、無様にマグに振り回され続けた。

「ぜんっぜん、鉄板の奴が言うこと聞かないよー、もー」

「・・・一発打つごとに、すごい疲れる。・・・ホント疲れる」

「これじゃあ、組み手どころじゃないねハルト」

「・・・そうだな。・・・まずはマグに慣れる事が先決と見た」

へたれ込んでいる二人の耳に、遠くから火災を知らせる音がした。

「ハルト、何か聞こえない?」

「・・・火災警報器の・・・音か」

「え、火災!?ひ、非難しないと!」

「・・・落ち着け、鳴っているのは違う建物だ。・・・多分、校舎の方だろう」

「そっかー、じゃあどうする?見に行く?」

「・・・野次馬は好きじゃない」

「ふーん、僕は気になるから見に行こっと」

音子は立ち上がり、マグを解除すると走り去っていった。ハルトも立ち上がるとマグを解除し、米粒を懐に大事そうにしまう。

「・・・胸騒ぎがするな」


 ハルトは音子と別れて自分の寝室へと戻った。そこには血まみれでうつ伏せに横たわる蛇々丸がいた。

「・・・」

ハルトは眉一つ動かさずに、蛇々丸に近づくと仰向けにして傷を調べる。腹を貫通する大穴、ズタボロに切り裂かれた右腕。

 その傷を見て、ハルトはベッドの下からスーツケースを引きずり出す。スーツケースから小箱を取り出すと、制服のジャケットを脱ぎ、ネクタイを外しYシャツの袖を捲くった。そして小箱の中に両手を入れる。ぬちゃりと音を立て、ハルトの両手は緑色の粘着質な液体がまとわり付く。

「・・・医術『ニンジャメディカル』」

そうハルトが言うと、ハルトの両手がビキビキと音を立てて筋張る。そして、ハルトは素手で蛇々丸の傷を縫合し始めた。粘着質な緑の液体が、接着剤代わりに内臓を血管を、神経、筋肉、皮膚と素早く傷を塞いだ。ハルトは立ち上がると最後の仕上げに入る。

「・・・蘇生術『闘魂注入』」

左手を前に出し、右手を引く構え取ると気合を入れる。

「・・・エイシャ!エェェェイ!」

ハルトの渾身の正拳が蛇々丸の心臓を打ち抜く。

「うごっ!・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「・・・何とかなったか」

ハルトはまたスーツケースから何かを取り出す。竹筒型の入れ物だ。その入れ物から白いゼリー状の物を出すと、蛇々丸の口に無理やり突っ込む。

「うぐぐ、むごご」

「・・・我慢して食え」

白いゼリー状の物を無理やり食べさせられた蛇々丸は、次第に静かになり、寝息を立てる。

「スースー」

そんな蛇々丸をハルトは、ベッドの下にスーツケースと一緒にしまうと、キッチンへと行き、手を洗う。

「・・・あとは蛇々丸の生命力しだいか」

ハルトは手を洗いながら考えた。先ほどの火災を知らせる音。おそらく蛇々丸が原因だろう。蛇々丸の傷は何者かと戦闘を行った結果。蛇々丸が相打ちか、または敗れたか。そんな事はどうでもいい。

「・・・重要なのは、蛇々丸を倒せる程の敵がいる」

敵はターゲットである理事長の関係者なのか。

「・・・」

ハルトは自分が成すべきことを決める。蛇々丸が回復するのを待ち、相手の情報を聞き出す。蛇々丸が死んだ場合は―。

『ガチャリ』

音子がドアを開けて、部屋へと入ってきた。

「ふひー、ハルトただいま」

「・・・ああ」

「いやー、なんか煙がすごかったから大火災かと思ったけど、なんか誰かのいたずらみたいだったよ」

「・・・そうか」

「なんか女子ロッカールームがすごい荒らされてたみたいで、煙がめちゃくちゃ出る花火があったみたい。いったい何なんだろうねぇ?」

「・・・さあな」


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