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第一話 楽しい入学

 4月、新しい生活の幕開け。

 超巨大独立学園都市である私立しりつ(くり)(ねり)学園もまた新たなる生徒を迎える入学式だった。そこに誰が見ても爽やかな美男子が颯爽と到着した。清涼剤を擬人化した様なさわやかさに、周囲の一般入学生たちはすぐに目を奪われる。

「うわー。香りを()がなくても良い匂いがすると確信できるわ!不思議ぃ~」

「わかるわぁー、ホントわかるわぁー」

「おい、アイツって・・・」

「ま、間違いねぇ。噂の超新星!春原ハルトだ!」

一般入学生たちは口々に、さわやかな美男子『春原ハルト』の事を話題にする。そして気付けば、春原ハルトの周りには人だかりが出来ていた。

「あぁ、やっぱり良い匂いする!」

「たまんねぇ~」

「お前があの春原ハルトか?おっと自己紹介がまだだったな、俺は―」

「おいおい、俺にも話させろよ!」

ハルトが囲まれて困っていると、どこからか怒声が鳴り響く。

「何をしているのだ新入生共ぉ!校門の前でぐずぐずと集まりおってぇ!」

学園の制服を着た数人の生徒達がそこにはいた。しかし、自分たちとはネクタイの色が違った。

「なんだアイツら?偉そうに」

「おい、あれって上級生たちじゃね?」

「上級生って。今日は入学式だから新入生の俺たちしかいないだろ?」

「いや。上級生でも入学式に出るやつらがいるだろ」

「な、もしかして・・・ゴクリ」

「そう・・・生徒会の連中だ!」

どこの誰とも知れない生徒がそう言うと、新入生たちは一斉に生徒会を見つめた。

 各々が腕章をしており、書記の腕章をした男子生徒はメガネをクイッとする。会計の腕章をしたスカした男子生徒はやれやれとした態度をとり、先ほど怒鳴った逞しい肉体の副会長の腕章をした男子生徒は生徒たちを睨む。そして、会長の腕章をした金髪の女子生徒は、その長い金髪を手で()ねると喋り出す。

「あなた達、なんでこんな所に集まってるの?理由を述べなさい。犬でもいたのぉ?」

新入生たちは、少し目配りをして道を開けた。すると春原ハルトが、まぬけに突っ立っていた。

「なっ、犬じゃないわ!」

「やれやれ。会長、小学生じゃないんですから、犬ぐらいで人だかりが出来るわけないじゃないですか」

会計がやれやれと会長に語りかけた。

「おや!」

メガネをかけた書記が何かに気がついたのか、今度は鋭くメガネを光らせ、クイッとした。

「どうした」

副会長が書記に話しかける。

「あいつは・・・、あの春原ハルトですよ」

「なにぃ!あいつが!?」

「ちょっとぉ、誰よ、その春原なんとかって?」

「知らないんですか会長!」

会長以外の生徒会役員が一斉に会長を見る。

「し、知らないと言うことは恥じゃないわぁ。いいから教えなさい!」

「しかし、知らないと言う事は罪でもありますよ」

書記はメガネをクイッとしながら会長に言った。

「・・・」

「やれやれ、会長をいじめるなって。新入生の前だぞ?それに会長ぐらいになると自分以外には興味がないんだって。超自己チューだからこの人は」

すかした会計がやれやれと会長をフォローする。

「その通ぉり!会長は唯我独尊!超自己チュー!あんなヒョロい優男なんぞ興味持つわけないだろっ!バァァァァカ!今日の朝だって俺たちを待たせて、髪の毛のセットに小一時間かけたんだぞ!それに―」

「副会長、わかったからそれ以上喋らないで・・・。あと彼が誰なのか早く教えてよ・・・」

書記がもったい振りながらメガネをクイッとして説明した。

「春原ハルト、中学時代から運動神経抜群、成績優秀。しかも香り薫る美男子で近所で噂の好青年です。主婦たちは口々に自分の子と交換したいと言う始末。しかし、驚くべきは入試の際、筆記試験を一位で突破し、さらには『マグ』試験を歴代最高の数値を出して突破したことです」

「えぇ、マグ試験を歴代最高数値!?・・・なにそれ凄いのぉ?」

会長はとりあえず驚いた。

「凄いかどうかは、まだわかりません。所詮、歴代最高数値を出しただけですから。まだ彼は何者でもありません。しかし今後の期待値が高いのは確かでしょう。メガネをクイッっと・・・」

すかした会計が書記に続いて喋りだす。

「ゆえに超新星とか大型新人とか噂が噂を呼んでるんですよ会長。ちなみにイケメンなのもポイント高いっすよ~。やれやれ、女子とかはもう目を獣の様に輝かせてますよ」

「なるほどね、アレね、パンダ的なヤツね!」

「会長、ぜんぜんパンダ的ではないですよー。例えるなら、野球で180キロの剛速球を投げる高校一年生って感じです」

「野球は全然知らないんだけど、それってすごいの?」

生徒会が内輪もめをしている間に、春原ハルトや入学生たちは、さっさとどこかへといってしまった。

「会長ぉぉ、大変です!あいつらどっかに行ってしまいましたぁぁぁ!」

「えーと、じゃあサッカーで例えるとですね~」

「私、サッカーも全然知らないんだけどぉ」

「フン(メガネをクイッ)、なら俺が偉大なる文豪で例えて差し上げましょう」

「えぇー、文豪ぉ?シェイクスピア的な?」

「いやシェイクスピアは文豪じゃないですよ。劇作家です」

「え?ロミオとジュエリエットは恋愛小説でしょ?」

「かいちょぉぉぉぉ!」


 入学式を行う大体育館では入学生が席に着いていた。そこでも春原ハルトは注目を集めていた。そんな中、ハルトの隣に座っていた男子生徒が話しかけた。

「ねぇ、君があの春原ハルト君?」

「・・・ん、ああそうだ」

「ああ、僕は彩川(さいかわ)音子(おとこ)。よろしくね」

そう言った生徒は、男子と言うには華奢で少女の様にも思えたが、制服は男子の物だった。名前も女の子っぽい気がするが『おとこ』だった。

「・・・。俺は・・・春原ハルトだ。えーと彩川、よろしく」

「音子でいいよ。僕もハルトって呼ぶからさ、えへへ」

「・・・音子か、わかった」

ハルトと音子が談笑していると、生徒会が遅れて到着し、先生達に軽く叱られながら、入学式が始まった。式は滞りなく進み、『新入生挨拶』の時がきた。

「新入生代表、春原ハルト君」

「・・・はい」

ハルトが立ち上がり壇上へと進む。生徒はもちろん、教員たちまでひそひそと話し始める。

「あれが噂の・・・」

「へぇ~」

「良い匂いしそう・・・」

ハルトは無難な挨拶をし壇上を後にするが、ちらりと生徒会役員たちが視界に入る。全員がハルトを睨んでいた。入学式に遅刻したのは自分たちが悪いのだが、しかし怒りはハルトへと向けられていた。


 入学式が終わると続いて、新入生オリエンテーションに入った。ここでは学校内の施設や規律、学課の説明などが生徒会主導で行われた。しかし、新入生たちはハルトを中心にして生徒会の話など聞かずに、喋り合っていた。

「ハルト君、シャンプーなに使ってるの~?めっちゃ良い匂いするんですけど~」

「春原、お前部活どれに入るんだ?決まってないなら野球部入ろうぜ!」

そんな様子にイラつきながら、生徒会はオリエンテーションを進めた。

「それではこれからマグについての、説明をしますので・・・」

「よ、待ってました」

「そのために入ったようなもんだからな」

「おい!貴様らぁぁぁ、いい加減に私語を慎めぇい!」

「っち、うせーな」

会長は長い金髪をワッサーと手で()ねてから、説明を始めた。

「我が学園では、国内で唯一、『魔法(まほう)()装具(そうぐ)』略して『()()』の使用を許可されており、その扱いなどをカリキュラムとしております―」

「なあ、会長おっぱいちっちゃくね?」

「たしかに」

「おほん!えーあなたたちは国内で選ばれたエリートとして、このマグを扱うことを自覚してもらい、国民ひいては全人類の未来のために貢献していくわけです。マグとは―」

それから会長の回りくどいマグについての説明があった。

 簡単に言えば、小さいものではサイコロサイズから、大きいものでも野球ボールサイズの魔石と言われる宝石の様な物を使い、使用者は瞬時に武装する事が出来る。その武装も様々で、使用者によって様変わりする。そして一度でも魔石が主と認めたら、使用者は変わることがない。一つの石に一人の使用者が原則となる。

「では、今から新入生に魔石を配ります。組ごとに列を作ってお待ちください」

そう教員が言うと、新入生たちは今か今かと列を作り、自分の番を待った。

「うっひょー、俺の魔石、どんなの来るかな?すげーデカイの来ないかな」

「大きいから凄いってわけじゃないぞ。むしろ色とかが重要と聞いたが」

生徒たちは興奮しながらおしゃべりを始めた。

「ハルトのはどんな石が来るかな?」

ハルトは、後ろに隠れていた音子から話しかけられた。

「・・・別にどんな石が来てもいいが、小さくて持ち運びしやすいのがいい」

「ハルトはちっちゃいのが好きなの?」

「・・・まあ、そうだな」

「へぇーそうなんだ」

ハルトの胸ぐらいしか身長のない音子と話しているうちに、魔石がどんどんと新入生たちに渡っていく。

「す、すごいぞ!見ろ、俺の魔石を。サッカーボールぐらいあるぞ。これは最強に間違いない」

「だから、大きさは関係ないと言っているのに。俺の方なんて漆黒の黒だぞ。これは闇の波動を宿しているに違いない」

新入生たちは自分の魔石を我が子の様に(まな)でている。ハルトと音子はそんな新入生を見ながら自分たちの番を待った

「・・・あんな大きいの、どうやって持ち歩く気だ」

「たしかにね。あと僕はあんな真っ黒なのは嫌だなー全然綺麗じゃないよ」

「・・・ピンク色や茶色よりはマシだろ」

「えー、ピンクとかは良くない?」

「・・・そうか?」

そんな他愛無い話をしていると、ハルトの順番が回ってきた。

「おや」

魔石を配っていたハゲ散らかした教員はすぐに春原ハルトだと気がつく。

「これはこれは期待の新人君。さてどんな魔石が来るか楽しみですね~」

ハゲ散らかした教員はニヤつきながらそう言うと、大きな黒い箱を差し出してきた。

「はい、この中に君だけの魔石が入ってます。さあ、取り出してください」

「・・・コレの中身は、あらかじめ学園が決めているのか?」

「いえ、生徒に合った魔石が出てきます」

「・・・ちなみにどういった仕組みになってるんだ?」

「それは少し不思議な魔法になってます。なにせ『魔法武装具』に『魔石』ですから。深く考えたらだめですよ」

ハルトはたしかにと思い、箱を開ける。すると箱には何も入っていなかった。

「・・・魔石は・・・?」

一見、何も無いように見えた。しかしよく見ると、米粒ほどの大きさの白い魔石があった。

「・・・米粒?」

「いやはや、どんなのが出てくるかと思っていましたが。こんなに小さいのは初めて見ました」

ハゲ散らかした教員もその小ささに驚いていた。

「・・・これは先生が食べ残した米粒とかでは・・・」

「いえ、小さいですがちゃんとした魔石のようです。しかし、見れば見るほど米粒ですね」

ハルトはその米粒を摘まむと、まじまじと見た。なんだか形まで米粒に似ている気がしてくる。

「あの春原ハルトの魔石がどんなのか期待していましたが・・・。いや、ある意味では、この魔石は他に類を見ない。しかしサイズや色などは魔石には意味が無いわけですし。だが、こんな珍しい魔石は・・・。いやはや、さすが春原ハルトと言ったところなのでしょうか?」

ハゲ散らかした教員は勝手に納得した。

「じゃあハルト君はどいてね。次の人、来てください」

ハルトは米粒を落とさないように、大事そうに手のひらに乗せ、その場を後にした。


 ハルトが配布会場の隅で米粒を眺めていると音子が話しかけてきた。

「ハルト、見てよ僕の魔石。真っ赤なルビーみたいで大きさもちょっと小さいけどいい感じ」

そう言って、笑顔の音子は美しい魔石をハルトに見せた。

「ハルトのはどんなのがきたの?もしかしてちっちゃいのがよかったのに、すごく大きかったとか?」

「・・・これ」

「え、なにこの米粒は?食べ残し?」

音子は笑顔のまま言った。

「・・・これ魔石」

「へえー・・・。うーん、まあ・・・。そうだ!あっちで生徒会が魔石加工の申請受付してるみだいだよ。行ってみよう!そうしよう!」

「・・・魔石加工?」

「そうそう、魔石をイヤリングとかネックレスとか指輪とかに加工してくれるんだって。ほら、そうしたら常に身につけられるし」

「・・・加工か。・・・これをどう加工すればいいんだろうか?精米か?」

「まあまあ、とりあえず行こうよ」

ハルトは音子に無理矢理、申請受付までつれて行かれた。

「おう春原、お前の魔石見せろよ。めちゃんこスゲー魔石だったんだろ?」

「・・・えっ」

「ほらほら、ハルトは魔石を見せびらかしたりしないんだよ」

「えーハルト君の魔石、チョー見たいんですけど」

「・・・えっ」

「いいからいいから、さっさと申請しようよハルト」

ズンズンと音子に背を押されハルトは申請受付へと足を進めた。申請受付では生徒会役員が新入生相手に四苦八苦していた。

「ぬおー、一体、この巨大な魔石をどんな風に加工すればいいんだ!」

「やれやれ、もう小脇に抱えてろよー。まったく」

「この漆黒の魔石を、我が額に埋め込みたいのだが・・・」

「えぇー・・・なにそれぇ。あなた、頭大丈夫?」

「大丈夫だが、何故(なにゆえ)だ?」

「なにゆえって・・・(もう、この人と会話したくないんだけどぉ)」

会長や書記に会計が忙しそうにしている受付に、音子に背を押されてハルトが到着する。二人が進んだ先は、いちいち新入生の加工案に余計なアドバイスをするため一番不人気な副会長の所だった。

「む!貴様はぁ、春原ハルトォォォォ!」

一人だけ暇な副会長の無駄にデカイ声に、申請業務で忙しい他の生徒会役員が振り向く。

「えーと、加工の申請したいんですけど」

「・・・」

音子と元気の無いハルトがそう副会長に伝える。

「春原ァァァハルトォォォォォォ!こちらが申請用紙になりまぁぁぁす!」

「あ、僕の分もください」

「はいどうぞぉぉぉぉぉ!」

暇とハルトへの怒りを持て余した副会長は、元気良く申請用紙を差し出した。

「あ、ありがとうございます」

「・・・どうも」

「とりあえず説明するぞぉ!ここにある欄から、どのような加工をするか選んでくれ、指輪やイヤリングなどあるぞ。もしここの欄以外の加工がしたいなら、その他の欄にどうしたいか具体的に書くんだ。わかったかぁぁぁ!ちなみにイラストなどを描いてくれると加工する職人が助かるぞ!出来上がりは今日の夜にでも出来るから楽しみにしているんだなぁぁぁぁ!」

「はあ、そうですか」

「・・・はい」

副会長の説明を聞きながら、音子とハルトは申請用紙を書いていく。

「やっぱりネックレスかな?」

「む!貴様の魔石はそのルビーみたいのか!」

「あ、はい」

「ネックレスもいいがリボンなんてどうだ!リボンの真ん中に真っ赤な魔石が着いた感じだ!制服につけてよし、髪飾りにするもよし、絶対かわいいぞぉぉぉぉ」

「えー、ちょっと子供臭くないですか?それに僕、男なんですけど」

「ナニィィィィ!?」

副会長は驚きつつも、ハルトの申請用紙をチラ見する。

「なんだ春原ハルト!全然、書いてないぞ!どれ、迷える後輩にアドバイスしてやろう。貴様の魔石を見せろ、いっしょに考えてやろうじゃないか!まったく手間のかかるヤツだな、貴様はぁぁぁぁ!」

そう副会長はうれしそうに言った。ハルトは少し考え、渋々と米粒を取り出した。

「んー、んー?んんんんん!」

新入生や他の生徒会役員も、その魔石を見た。誰もが最初は「何だこれ?」と感じただろう。いや、大半は小さすぎて見つけることさえ出来なかった。

「・・・」

「ふーむ、この大きさだとかなり加工に制限がかかるな。む!ピアス、ピアスはどうだ?」

副会長は意外と真面目に加工について考えていた。しかし、周りは違った。

「なにアレぇ?米粒ぅ?っぷ」

「やれやれ、魔石どこにあんだ?」

「フッ、ザコか(メガネをクイッ)」

周囲は予想していたモノと違いざわつき出していた。あの春原ハルトの事だから、さぞ凄い魔石だろうと、自分たちの思いもつかない魔石が出てくると。しかし、出てきたのは目を凝らさないと見えない米粒のような魔石だった。

「いや、しかしピアスは校則的に・・・だが、イヤリングだと見栄えがぁぁぁぁ!」

「あらぁー、なに、この米粒ぅ?朝ごはんの食べ残しぃ?口の端にでも付いてたのぉ?あなた裸の大将なのぉ?おにぎり大好きなのぉ?ップゥ」

副会長が真剣に悩んでいると、仕事を放り出して会長が颯爽と横槍を入れてきた。

「・・・」

「ププゥー、この米粒が魔石ですってぇ。ププゥー」

「米粒?たしかに、そう言われれば米粒に見えますね。さすが会長ぉ!ユニィィク!」

「これが、あの春原ハルトの魔石なのねぇ。マグ試験歴代最高数値を出した春原ハルトの魔石は米粒なのねぇ。ププゥーププスゥー、おにぎり食べるぅ?」

「安心しろ春原ハルト!たとえ米粒だとしても、俺が最高の加工案を出してやろう!ハァーハハハハァ!」

会長と副会長が高笑いをしていると、周囲の新入生は最初はガッカリしていたが、自分たちの同級生であり代表でありイケメンのハルトが、馬鹿にされることに段々と腹が立ってきた。

「つーか、別に魔石の大きさとか、関係ねぇんだろ?」

「色もご飯に似てるからってー、だから何って感じだしー」

「生徒会うざくね?てか、うぜー」

「言えてるー」

「会長胸ちっちゃくね?」

新入生は口々にしゃべりだした。それにイラついた会長が反論する。

「はあぁ?大きさとか色とか以前に米粒じゃない。絶対ショボイに決まってるわ」

「ショボイのはテメーの胸だろ!(メガネをクイッ)」

「ちょっと、さっきから誰よ!胸は関係ないでしょ!言ったヤツ出てきなさいよ!」

場は段々とヒートアップして行き、生徒会と新入生はお互いに罵り合った。あわや乱闘寸前かと、思われたその時、副会長の怒声が鳴り響いた。

「貴様らぁぁうるさいぞぉぉぉぉ!暑苦しいんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

そう言って、副会長は自分の制服の上着を引き千切り、逞しい上半身をあらわに立ち上がった。その場にいた全員が、暑苦しいのはお前だ、と思った。

「会長ぉ!これでは生徒会の威厳がぁ!失われてしまいます!ギャアギャア騒ぐのはみっともありません!」

「あ、うーん、たしかに副会長の言う通りね。私としたことが。しかし、人の身体的特徴を(けな)したヤツは許せないわ!」

お互いに引っ込みがつかなくなった生徒会と新入生たちは、睨みたったままだった。そこに書記がメガネをクイッとしながら出てきた。

「俺にこの場を収める良い考えがあるんですが」

「えぇ!?、あなたの考えぇ?どうせろくな事言わないんでしょぉ」

書記は不敵な笑みを浮かべながら、生徒会と新入生の間に立った。

「諸君!今回の騒乱は、我らの生徒会長の失言のせいで始まった」

「その通りだ!」

「春原君にあやまれー」

書記は興奮する新入生に手をかざし、動きを制する。

「だが、火に油を注ぎ、騒ぎを大きくしたのは、新入生の会長を侮辱する心無い、もとい大変悪質な言動だった」

「そうだぁぁぁ!会長の小さい胸にあやまれぇぇぇぇぇ!」

「ちょっとぉ!?」

書記は生徒会に手をかざし、動きを制する。

「そこで提案だ。各々の代表がマグで戦い決着を着けようではないか!我らが持っているものはなんだ?そう、マグだ!新入生諸君も手にしたばかりのマグを使いたくてしょうがないだろう!」

その場にいる者たちに、一気に不安と興奮が広がる。書記はメガネをクイッとすると会長を指差す。

「我ら生徒会の代表は、もちろん会長だ!新入生諸君っ!このいけ好かない女が泣いて土下座する様を見たいだろ!さあ、立て諸君。出来る、諸君なら出来る!我こそはと思うものよ、新たなマグを試す絶好の機会だぞ!さあ、出て来い。そしてこの女を再起不能にして、足腰立たなくしてやろうではないかっ!」

書記は、新入生を鼓舞し続けた。

「ちょ、ちょっとぉ!なにそれぇ、なんで私なのよ。副会長なんとか言ってやりなさいよ」

「まかせてくだい。新入生共ぉぉぉぉ会長は強いぞぉぉぉ!泣いてわびるのは、貴様らじゃぁぁぁぁぁ」

「なっ、ちょっ」

「あんな事を言っているぞ、新入生諸君!馬鹿にされたままでいいのか?上級生がどうした?そんな事は関係ない。弱い犬ほどよく吼える、それを体現しているかのような女だぞ!アイツは!」

思わず、新入生たちはその言葉に動かされてしまう。

「馬鹿にスンナ!」

「そうだそうだ!」

「泣いて謝るのはそっちだ!」

新入生たちが騒ぎ出す。そして観念したのか、会長が渋々しゃべりだす。

「わかった、わかったわよ。決闘・・・いいわ、やろうじゃない。でも、そっちの代表は、わ、私の一部がどうのこうのと言ったヤツが出てきなさいよ!」

「会長の胸が小さいと言ったヤツ出て来ぉぉぉぉぉい!」

「ちょっとぉ!」

副会長が出てくるように怒鳴るが新入生たちは、お互いに顔を見合うばかりだった。すると書記がまたしゃしゃり出てきた。

「会長、たぶんアイツです。あの顔面が男性器のメタファーみたいなヤツです。見てください、あの溢れ出るむっつりエロスを!貧乳に人権は無い、そういう顔をしていますよ(メガネをクイッ)」

書記はそう言って、1人の男子新入生を指差した。

「オ、オラですか!?」

「オッスオッスお前だ、いなかっぺ。さっさと出て来い(メガネをクイッ)」

「オラ、女性と戦うなんて、非紳士的な事できないよ。ここは同性同士でやるのがいいのでは?女子まかせた!」

「えー、ふつう女子にそういう事やらせる?男子がやりなさいよ」

「そうよそうよ!」

「おいおい、女子があんな事言ってるぞ?」

「つっても、俺たちだってなあ、マグを使うの初めてだし・・・勝てる自信がなー・・・」

と、新入生たちが代表を押し付け合っていると次第に、ハルトに視線が集まっていく。

「・・・分かってた」

ハルトは観念したようにそう言った。

「さすが俺たちの春原ハルトだぜ!」

「生徒会なんてやっつけちまえ!」

「ゴーゴーハルト!フゥ~ッ!」

こうして、会長とハルトが決闘をして決着を着ける事に落ち着いた。

「これは、理想的な展開になりましたね(メガネをクイッ)。どっちが負けても、おいしい!」

この出来事を静観していた会計はやれやれと、書記に話しかけた。

「まったく、なんでこんな事になるかな。だいたい火に油を注いだのお前だろう。しまいにゃ、煽りまくって事を大きくして・・・はぁーやれやれ」

「いいじゃないか、どうせ会長が勝つ。俺としては会長の負ける姿も見たいが」

「たしかに、会長が負けるはずはないけど。あの新入生が可哀相だろ」

「フン、あの今まで幸せいっぱいで恵まれてますってヤツが、ボコボコにされて泣く姿が可哀相な訳ないだろう。最高に気持ちいいと思うぞ」

「お前って、歪んでるよなー。お前と友達じゃなくてよかったよ」

「な!?」

と、スカした会計の事を友達だと思っていた書記は震える手でメガネをクイッとした。

「では、皆さん。会長と春原ハルトの決闘についての、日時や場所などは後ほど掲示板に張り出しておきます。ぜひ、ご確認を」

「よおおおぉぉし!貴様ら、まだ魔石を貰ってないヤツはさっさと貰え!加工を考えていて、まだ申請していないヤツはここの受付に来い!」

そんなこんなで、一連の騒ぎは会長とハルトがマグを使った決闘を行い、負けた方が謝罪をする事となった。


 音子と別れたハルトは、一人、学園の一年生男子寮へと向かっていた。一年生の男子寮には生徒はおらず、寮の管理人が暇そうに掃除をしていた。

「あのすみません・・・」

「ん、あー新入生かい?入学おめでとう。そしてようこそ」

管理人は気さくに言った。

「ちょっと待ってね。掃除が終わったら、君の部屋の鍵をあげるからね」

そう管理人に言われたのでハルトは、掃除が終わるのを待った。

「悪いね、待たせちゃって。で、お名前なんて言うんだい?」

「春原ハルトです」

「ふーん。じゃあ、すぐに君の部屋の鍵を持ってくるからね」

ハルトは鍵を受け取ると、自分の新たな部屋へと向かった。寮はかなり大きく、一言で言えばホテルか大型旅館の様だった。ハルトが自分の部屋へ入ると、引越し用の荷物が部屋の中に置かれていた。他にも見知らぬ荷物があった。

「・・・一人部屋・・・ではないのか」

ハルトはそう呟くと部屋を見渡す。フロトイレ別、居間にダイニングキッチン、そして寝室が二部屋。

「・・・信じられん程、豪華だな」

そしてハルトは、部屋の天井から何者かがいる気配を察知する。

「・・・蛇々(じゃじゃ)(まる)いるんだろ」

ハルトがそう天井に言うと、天井の一部が開き、ぬるりと黒い塊りが落ちてくる。

「クククッ、さすが兄者。これでも気配は消していたんだが」

そう言いながら黒い塊りが立ち上がる。身長190センチ前後の細長い黒装束の人間がいた。

「・・・で?」

「クククッ、兄者を補佐するために付いて来た。なに手足のように使ってくれ」

「・・・そうか」

「しかし兄者よ、この学校の人間は色物揃いだな。見ていたぞ兄者の翻弄される姿を、クククッ」

「・・・そうか」

黒く細長い蛇々丸はハルトに纏わりつきながら話し続けた。

「折角、あのメスゴリラから逃げるため、潜入任務を引き受けて忍の里を出たのに、こんな場所とは。兄者はつくづく運が無いな」

「・・・」

蛇々丸は爬虫類の様な目をギョロリとさせながら続けた。

「しかし、誰も兄者が春原ハルトの偽者とは気づいていなかったな。やはり兄者はすごいな」

「・・・蛇々丸、しゃべり過ぎだ。もっと忍として自覚を持て」

「御意御意」

「・・・そういえば、当の春原ハルト本人はどうしているんだ?」

「さあな、死んでいるんじゃないか。生きているとしても、死んだ方がマシだと思ってるだろうな」

「・・・どういうことだ」

「なんでも叔父上が言うには、内戦激しい、兄弟でさえ血肉をすする場所へ、ほっぽってきたらしい。生まれたての赤子ですら銃を手放せない所だとさ」

「・・・そうか」

「クククッ、この後はどう動けばいい?」

「・・・そうだな。二、三年生の寮の全体図と偵察を頼む」

蛇々丸は首を鳴らしながら、うれしそうに言った。

「あー、そういえば。生徒会とか言う連中と戦うんだったか。つまり敵の情報を収集すればいいんだな」

蛇々丸は素早く、くねる様に天井へと潜り込む。

「あんな雑魚の情報など無くても、兄者なら容易に勝てるというのに。兄者は慢心という言葉を知らないらしいな」

天井で這うような音がすると、蛇々丸の気配は消えた。

「・・・蛇々丸め、音を立て過ぎだ」


 ハルトは自分の荷物を寝室へと運び、一息つく。

「・・・疲れた」

ハルトは一瞬にして制服を脱ぐと、短パンTシャツの動きやすい格好になった。そしてベッドに寝転ぶと、のた打ち回った。

「・・・なぜだ!・・・もっと普通の学園生活だと考えていたのにっ!・・・なぜ春原ハルトは人気があるんだ、なぜ米粒なんだ!なぜ決闘をしなくてはならないんだ!うぐぐ・・・」


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