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元彼は関係あるの?

 刑事達の車は元彼の住む街にやって来たのだが、私の知っている元彼の住所とは違っていた。どうやら引っ越したらしい。

「ここだな」

 刑事達は、お洒落な外観をしたマンションの前で車を止めた。三十代刑事を先頭に、マンション三階にある元彼の部屋を目指した。

 インターホンを押すと玄関ドアが開かれ女が現れた。刑事達が来訪の理由を告げている。


 出て来た女は私のよく知っている女だった。

「ヨーコじゃない! もしかしてヨーコはタケシと一緒に住んでいるの?」

「知っている人ですか?」

 死神の田中一郎が質問してきた。

「よく知っているわ。私がタケシと別れた後、ヨーコをタケシに紹介したのは私よ」

「ヨーコさんとは友達で?」

「そうよ、学生時代からの友達よ」


 そう言っている間に、ヨーコは室内に居るタケシに声をかけていた。

「あなたぁ、警察の方ですって。なんだかミホの事で聞きたい事があるって」

 奥からタケシの声が聞こえた。相変わらず優しそうな声だ。

「ミホの事? 上がってもらって。中で話した方が良いだろう?」

「主人がああいっていますから、散らかっていますがどうぞ」

 そう言ってヨーコは刑事さん達の為にスリッパを用意している。


「ヨーコとタケシは結婚したみたいだね。主人だって」

 私の頬が緩んだ。しかし、田中一郎が水を差す様な事を言う。

「友達なのに結婚式に招待されなかったのですか?」

「うるさいわねぇ! きっとなにか事情があったのよ。それとも、私がタケシの元カノだったから気を使ったのかも知れないじゃない」

「そうだと良いですがね」

 ニヤニヤしながら田中一郎が言う。まったく嫌な奴だ。


 室内に入ると、タケシは刑事さん達をソファーに座らせ、その正面に座った。ヨーコはお茶の用意を始めている。なんだか羨ましいなぁ。友人が幸せになると、自分まで幸せになった気がするなぁ。などと思っていたが、その思いはすぐに掻き消される羽目になった。


「ミホさんとはどういった御関係ですか?」

 三十代刑事が質問をする。それにはタケシが答えた。

「むかし付き合っていました。別れてもう……三年になりますかね」

「奥様もミホさんと知り合いで?」

「はい、学生時代の知り合いですが、最近は連絡もとっていません」

「仲が良かったのでは無いのですか?」

「特別仲が良かったわけではありません。一緒になった時には話しをするくらいで……。わざわざ会うことは無かったです」

 三十代刑事は視線をタケシに移して質問を続けた。

「ミホさんが亡くなられた事は御存知でしたか?」

「今朝のニュースで見て驚いていたところです。ニュースでは殺人事件だって言っていましたが、犯人は特定されているのですか?」

「いいえまだです。その為にお話しを聞きに来た次第で……。ミホさんが誰かに恨まれていた様な事は無いですかね? 思い当たるふしがあればお聞きしたいのですが……」


 ヨーコとタケシがお互いの目を見合った後、ヨーコが話し始めた。

「亡くなった人を悪く言うのはどうかとは思いますが……。誰がと言うわけではないのですけれど、ミホを恨んでいる人はたくさんいると思います。恨みの重さは人それぞれでしょうが、私だって恨んでいる一人になると思いますよ」

 ヨーコの言葉に三十代刑事の瞳がキラリと光った。

「あなたも恨んでいるとはどういった事ですか?」

「ミホと主人は以前付き合っていたのですが、その前には主人と私が付き合っていました。そこへミホが割り込むように入って来たのです。もちろん私達が付き合っているのを知っていてですよ。私と違ってミホは美人ですから……、そんなミホに言い寄られた主人が私と別れるって言い出しましてね。一旦別れたのですが、三ヶ月後くらいだったかしら……」

 ヨーコは確認する様にタケシの顔を見る。タケシは申し訳なさそうな顔で頷いた。

「三ヶ月ほどして、ミホに呼び出されました。紹介したい人がいると言うので、待ち合わせ場所に行ってみたら主人が居るじゃないですか。ミホは笑顔で『彼がヨーコと付き合いたいって言っているの。どう? 付き合ってみない。良い人よ』ですって。今では主人と結婚して幸せだからどうでも良いのですが、二度とミホには会いたくないと思っています」

 刑事達があきれ返った顔をしていた。


「貴女は酷い人だったのですね。ヨーコさんは貴女の事を友人だなんて思ってなかったみたいですしね」

 田中一郎が蔑むように私を見ている。私にはなんでヨーコがこんな話をするのか解らなかった。

「だって、ちょっと言い寄ったくらいで別れちゃうなんて、本気の付き合いじゃ無かったわけでしょう? 私が居たから二人は結婚出来たわけじゃない。感謝されても恨まれる筋合いは無いでしょう」

 田中一郎は蔑むような目をしたまま、黙って私を見ている。これじゃまるで私が悪人みたいじゃない!


「御主人は最近ミホさんに会いましたか?」

 三十代刑事の質問に大きく頭を振ってタケシが答えた。

「いいえ、ミホと別れて妻と付き合い始めたばかりの頃に一回だけ会いました。もちろん妻も一緒でしたよ。それ以降会っていません」

「連絡は?」

「連絡もとっていません。ミホと別れた後、ミホのデータは全て消去しましたから……」

「奥様もミホさんとは会ったり連絡をとったりはしていないのですね?」

「もちろんです! 顔も見たくありませんし、声も聞きたくありませんから」

「わかりました。一応なのですが、昨日はどちらにいらっしゃいましたか?」

 刑事の言葉に、タケシが答えた。

「会社にいました、朝の九時前に出社して、退社したのは夜の八時頃です。九時頃には帰宅しました。それからずっと家にいました」

 刑事がヨーコの方を見た。

「私は、主人を送り出した後、家事をして。昼の十一時半頃に友人と会ってお昼ご飯を食べました。その後、友人とショッピングセンターで買い物をして、帰宅したのは午後の五時過ぎだったと思います。それからはずっと家にいました」

「ありがとうございます。またお話しを聞く事も有るかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」

 そう言って刑事達はタケシとヨーコのマンションを後にした。


 車に戻った刑事達は今聞いた話しを吟味し始めた。

「ミホって女は酷い女だったっていう事ですかね?」若い刑事が言った。

「うーん、酷い女には違いないけれど、きっと本人は自分が酷い女だって言う事を自覚していなかったのだろうね。たまに居るんだよなぁ、そう言うヤツが……。とりあえず署に戻ろうか」

「はい」そう言って若い刑事は車を発進させた。


 私は車の後部座席で黙っていた。友人だと思っていたヨーコにあんな事を言われてショックを受けていた。タケシだって、三ヵ月とはいえあんなにイロイロしてあげたのに、私の事をかばってもくれなかった。せめて良い女だったとか行って欲しかったのに……。

 私が落ち込んでいたからかもしれないけれど、陰鬱な空気を充満させたまま車は警察署に到着した。


 刑事課の部屋に入ると、他の刑事達は既に帰って来ていて、捜査会議が始まった。

「それでどうだった?」

 一番偉そうな刑事が、三十代刑事と若い刑事に報告を求めた。三十代刑事が報告を始めた。

「婚約者の方はたぶんシロですね。あいつ、本当は結婚する気も無いくせに被害者と別れたくないからとの理由で、結婚をほのめかすような事を言っていたみたいです。被害者の身体が目当ての様でしたから、突発的に殺してしまうことは有っても計画的に殺す事は無いでしょう。後は、元彼とその妻ですが、この二人もシロでしょうね。恨んでは居た様ですが、今更被害者を殺すような動機は無さそうです。解った事と言えば、被害者は自覚していない様ですが、かなりの人達に恨みを買う性格だった様です」

 一番偉そうな刑事が他の刑事達を見廻しながら「他には?」と、報告を促した。

 年配の刑事が手をあげて報告を始めた。

「被害者の会社関係を洗って来ましたが、ちょっと面白い話しを聞く事が出来ましたよ。被害者の勤め先の女子社員達の噂なのですが、今年入った新入社員の彼氏を被害者が寝とったと言う噂がありましてね。それ以外にも面白い事実が出て来ましたよ」


 田中一郎が鋭い視線を私に向けた。なんで私がこいつに睨まれなくてはいけないのよ!


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