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誰が私を殺したの?

「それで、あんたは何をしてくれるの?」

 私は死神の田中一郎に尋ねた。

「私はあくまでも貴女のサポート役ですから、貴女が何をしたいかが最も重要です。私は貴女の心残りを解消して魂を冥界へお連れするのが仕事ですから」

(なるほど、田中一郎は私のサポート係りってことね。ならば、私は何を知りたいのか? 何が心残りなのかをハッキリさせなくてはならないわけね)

「そう、それならば……。私はせっかく彼にプロポーズされたのに死んでしまった訳だから、結婚できなかった事が心残りなわけよね?」

 田中一郎は表情を曇らせて私を見詰めた。

「えっとですねぇ。確かに結婚出来なかった事も心残りなのでしょうが、貴女は死んでしまった訳ですからそれを叶える事は出来ません。申し訳ありませんが……」

(そうなんだ、だったら何が出来るの? そして私の本当に知りたい事ってなんだろう?)


「そうだ! 私は事故死じゃ無くて他殺なのよね。だとしたら私を殺したのは誰? 私はなぜ殺されなくてはならなかったの? ねえ、その真実を知る手伝いはしてもらえるの?」

「はい、それならば出来ます。しかし、真実とは時に残酷なものですから、知らない方が良い場合も有ります。それでも知りたいと言うのならばお手伝いさせていただきます」

 私はそれでも良いから真実が知りたい。私を殺した犯人と、私が殺されなければならなかった理由を知りたい。そう思った。


「では、まずは警察に行ってみましょうか?」

 先ほどまで私の部屋で捜査をしていた刑事さんや鑑識係の人達は既に引き上げていた。私の部屋の入り口には、黄色いテープが張られ制服の警察官が一人立っているだけだ。外に出て見ると、物々しいのは私の部屋だけで、他の部屋では普通の生活がいつも通り営まれている。

「それでは警察に向かいましょう」

 田中一郎はそう言って、空に向かってフワリと浮き上がった。

「ちょ、ちょっと待ってよ。空を飛んで行くの?」

「直線距離で行けますから、その方が良いでしょう? まあ、壁を通りぬける事も出来ますから、空じゃ無くても直線距離を行く事は出来ますが……」

「そうじゃなくって……。どうやったら空を飛べるのよ! 私は幽霊初心者なんだからちゃんと説明してよね!」

「申し訳ありません。では、飛び方を説明させていただきます」

 人を馬鹿にした様な視線と丁寧な言葉のミスマッチがイラつく。こいつは人を怒らせる天才だと思った。


「まずは空を飛ぶ事をイメージして下さい。そして、ジャンプする感じで地面を軽く蹴って下さい。実際に地面を蹴って空までジャンプするわけではありませんから、軽く蹴る感じで結構です。後は目的地に向かって安定した飛行をイメージするだけです。やってみて下さい」

 とにかく私は飛んでみる事にした。

 空を飛ぶ事をイメージし、軽く地面を蹴った。私の身体はフワリと屋根の高さまで浮き上がる。

「うわっ、浮いた、浮いた」

 私はその場を数回旋回してみた。

「なんか気持ちいい」

 私が気分良く飛行を楽しんでいると、地上の田中一郎が何か言っている。私は地上を目差して降下し、田中一郎の目前に着地した。着地と言っても地面と私の間には、微妙なすき間がある。どうやら完全な着地は出来ないようだ。そんな事を思っている私を、田中一郎は困った様な表情で見ていた。


「なに? 何か問題でもあるの?」

「いえ、問題と言うわけではないのですが……」

 またしても田中一郎の煮え切らない態度にイライラさせられる。

「なにが言いたいのよ! ハッキリしなさいって言っているでしょう!」

「はい、えっと……。お願いと言うか? 何と言うか……」

「だからなに!」

「えっと、そのワンピースはとても貴女に似合っていますし、とても素敵だと思うのですが……」

 こいつは何が言いたいのだ! このワンピはとても気に入っているし、友達や彼氏も似合っていると言ってくれた。だからなんだと言うのだろう? 私は田中一郎の顔を黙って見詰めた。

 田中一郎は眼を伏せ、ボソボソと言葉を発した。

「あのぉ、素敵なのは解るのですが、一応下着は付けて頂いた方が良いのではないでしょうか? 特に空を飛ぶ時には……」

 私はワンピースの裾を押さえて田中一郎を睨んだ。

「あんた、見たのね! 変態!」

「いえいえ、見たのでは無くて見えてしまったのです。故意にではありません」

 私は恥ずかしさで真っ赤になってしまったが、考えてみれば田中一郎には全裸姿を見られているのだ。しかし、私は全裸を見られるよりも、下着を着けていないスカートの中を見られる方が恥ずかしい事を初めて知った。

 私はイメージでお気に入りの下着を付けた。そして田中一郎に背中を向けて下着を付けている事を確認した。

「これで良し! さあ、行くわよ!」

 私は死神の田中一郎を従えて、警察署へと飛行した。



 所轄の警察署に着くと、刑事課の部屋へと向かった。刑事達は資料を持ち寄って会議をしている。

「あれは私の部屋に来た刑事達ね。捜査状況はどうなっているのかしら?」

 刑事達がホワイトボードの前で捜査状況の報告をしていた。ホワイトボードには私の写真と彼氏の写真が貼り付けられている。当然なのだろうが、私の写真は全裸で横たわっている写真だ。せめて顔写真だけにしてもらえないものだろうか? 感電死のため、血も流れていないので妙になまめかしく見えるじゃない!


 若い刑事が鑑識係の報告書を読みあげている。

「えっとですねぇ。死因は感電死です。死亡時間は午後十一時三十分頃。帰宅した被害者は風呂に入った後、浴室の電気を消そうとして感電死。しかし、スイッチはオフにしようとした時に感電する様に細工がされていました。オンにする時ではなく、風呂からあがって濡れた状態で操作する確率の高いオフにする時を狙った事から、かなり考え抜かれた計画的殺人と断定します」

「怨恨だろうな。被害者の周辺を洗えばすぐに犯人にたどり着くだろう?」

 若い刑事の報告を遮る様に、年配の刑事がつぶやいた。

 一番偉そうな刑事が、そんな年配刑事の言動を苦々しそうに睨んだ後、私と彼氏の写真を交互に見ながら若い刑事に質問する。

「この男、被害者の婚約者だったよな。こいつ以外に部屋に入った者の痕跡は?」

「被害者と婚約者以外の指紋は検出されませんでした。けれど、被害者の髪色とは違った髪の毛が採取されています。DNА鑑定の結果待ちですが、髪色と長さから言って女のものではないかと思われます」

「被害者以外の女が部屋に入ったと言うことかぁ……。被害者の家族・友人・知人で被害者宅に出入りした者が居ないか聞き込みをしてくれ。後は、被害者の交友関係と婚約者の裏と交友関係も調べてくれ。今日の所は以上で解散だな」

 一番偉そうな刑事がそう言うと、刑事達はそれぞれに警察署から出て行った。


「今日の捜査はこれで終わりなのかなぁ?」

「そうでしょうね。刑事さん達にも寝る時間は必要ですからね。これからどうしますか?」

 田中一郎に尋ねられて、私は考えた。私達になにが出来るのだろうか? ここは警察の捜査に頼るしかないのでは? そうだ、彼はどうしているのだろう? 私が死んでしまったのだから、悲しんでいるだろうなぁ。

「彼の所に行ってみたいな。きっと悲しんでいるよね」

「そうですね。彼氏の様子を見ておくのも良いかもしれませんね」

 田中一郎は気になる言い回しをしたが、その時の私には真意を理解する事は出来なかった。


 私と田中一郎は、彼の住むマンションへと向かった。


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