変質者の仕業かしら?
どうやら私は誰かに殺されたらしい。いったい誰が私を殺したのだろう? 私は私なりに推理をしてみる事にした。
どうして私が殺されなければならなかったのか? そして犯人は何者なのか?
「変質者による犯行かなぁ? 変質者だったとしたら、なぜ私をターゲットにしたの? どこかで私を見付けて後をつけて来たに違いないわね。自分で言うのも何だけれど、私はけっこう男性の目を惹くタイプだと思う。学生時代だって結構モテたし、今だって下手なアイドルよりはイケていると思う。年齢的にアイドルの若々しさには敵わないけれど、それ以外の部分では勝っているはず」
変質者は私の部屋で何をしていたのか?
「きっと、どこかで私の部屋の鍵を手に入れて留守中の私の部屋に入ったのね。そして、タンスの中の下着を探ったり、洗濯物かごの中にある使用済み下着の匂いを嗅いだりしていたのかしら?」
あまりの気持ち悪さに、想像しただけで吐きそうになった。
部屋に盗聴器とか隠しカメラを設置してないだろうか?
「私は一人暮らしだから、盗聴機で音を聴いていてもつまらないだろうと思う。けれど、彼が来た時は別ね。彼とはいろいろな話もしたし。えっと……、愛のいとなみ? そんな時の声ならばきっと楽しめたのではないだろうか? けれど、声だけだったらそれほど恥ずかしくも無いから別に良いけれど、勝手に私の部屋に入った事は許せないわね。でも、盗聴器ってどうやって探したらいいの? テレビでやっていた様な機械が無いと探すのは無理なのかなぁ。コンセントとかに入っているって言っていたわよね」
そう思って一通り探してみたけれど見つからなかった。
「問題は隠しカメラね。盗撮はイロイロ映っちゃうから盗聴よりも恥ずかしいわね。隠しカメラってどんな所に設置するのかしら? きっと恥ずかしい映像が撮れそうなところよね」
私は部屋を見回してみた。
「うーん、やっぱりバスルーム? 隠しカメラの機能なんて解らないけれど、湯気にあたっても大丈夫なのかしら? レンズがくもって良く見えなかったらイライラするだろうなぁ。って、そんな心配をしてどうするのよ!」
しかし、バスルームの壁はツルツルで何も置いて無いからカメラを隠すような場所は無いはずだ。
「ならば、洗面所かしら? 洗面所ならば私の全裸映像を撮る事が出来るわね。お風呂に入る時には洗面所で服を脱ぐし、出て来たあとは体を拭いて……。私は髪を乾かす間も裸のままだから、結構色っぽい映像が撮られちゃうわね」
私は床の上を滑る様にバスルームへと移動した。途中、刑事さんとか鑑識係の人とかにぶつかったけれど、身体をすり抜けちゃうから何の問題も無かった。
バスルームに到着した私は、バスルームの中をくまなく探した。とは言っても、探す場所はほとんど無い。やはりバスルーム内には隠しカメラらしい物は発見できなかった。
続いて洗面所の捜索を始めた。洗面所は狭いすき間がたくさんあるから探すのは大変だろうと思ったけれど、それほど大変な作業では無かった。何故かと言うと、手しか入らないようなすき間だったとしても、幽霊になった私は普通に入れちゃうから問題はなかった。
隅々まで探したけれど洗面所にも隠しカメラは見当たらなかった。
後はベッドの周辺ね。私はベッドルームへと向かった。
今更だけれど、私の部屋は1Kにバス・トイレ・洗面所付きだから、ベッドルームと言ってもリビングと兼様になっている。要するにたいした広さは無い。
狭い部屋の中でも、まずはベッドを見下ろせるエアコンと壁のすき間から捜索する事にした。
「こんなところから撮影されていたら、すごい映像が撮られちゃうじゃない。彼との愛のいとなみが細部まで撮影出来てしまうわよね」
考えただけで顔が熱くなるほど恥ずかしかった。
一番心配な場所だったけれど、ここにカメラは設置されて無かった。ここにカメラを設置しないと言う事は、犯人が相当の間抜けか盗撮カメラは設置されていないかのどちらかだと思う。けれど、万が一っていう事も有るから部屋中をくまなく探す事にした。
くまなく探した結果、盗撮用のカメラは設置されていない事がわかった。
「ひとまず安心ね。だって、盗撮されていたら、死んだ後にだってネットとかに流れちゃうんでしょう? 見ず知らずの人のおかずになってしまうなんて……。そんなのはイヤ!」
変質者って、それ以外にどんな事をするのだろうか? 想像が出来ないから、変質者以外のケースも考えてみる事にした。
他のケースを考え始めた時、最初に私の頭に浮かんできた単語は『怨恨』っていう、いかにもオドロオドロシイ単語だった。『怨』も『恨』も『うらみ』なのに、それを二つも重ねるなんて! 何とオドロオドロシイ単語なのだろうか?
「仕事関係で私は誰かに恨まれる様な事があったかしら? そんなことは無いはずよね。だって、使えない後輩のミスだって文句も言わずにカバーしているのよ。こんなに遅くなるまで残業して……。これで恨まれたのでは割に合わないじゃない」
あとは恋愛関係だろうか?
「昔付き合っていた人達とはちゃんと別れているし……。もちろん酷い振り方なんかした事は無かったわ。別れた人達はそれぞれに新しい恋に向かって行ったし、私もそれを応援してあげたから恨まれる筋合いはないわね。今の彼だって、この前プロポーズをしてくれたばかりだから私を恨んでいるはずが無いでしょう? それにプロポーズしたばかりの相手を殺しても、何の得もないじゃない」
恋愛関係による恨みの線は否定した。ならば、あとは何が有るのだろうか?
「私の家の中だから、通りすがりの犯行って事は無いわけだし……。スイッチに細工をするくらいだから計画的な犯行よね」
それ以外に思い当たる事ってなにが有るだろうか? そう思った時に、もう一つの単語が頭に浮かんだ。
『逆恨み』
「逆恨みっていう線も有るんだよね。逆恨みだったとしたら、いくら考えたって思い当たるはずが無いじゃない。自分は誰に逆恨みされているなんて自覚している人はいないでしょう? 逆恨みって、私がやってあげた事を逆に恨んだりすることじゃない。だとしたら、今日ミスを犯した後輩だって可能性が有るわけだし、次の恋を応援してあげた元彼達だって含まれてしまうわけでしょう? そんな事まで考えたら周りに居る人達全てが怪しく成っちゃうじゃない」
逆恨みの線は考えても仕方が無いので放置する事にした。
「うーん、どうしたら犯人が分かるんだろう?」
私が刑事さんや鑑識さんの動きを眺めながら考えていた時だった。
「遅くなってすみませーん」
のんきそうな声と共に、黒いスーツ姿の若い男が私の部屋に現れた。入ってきたのでは無く、現れたのだ。