日常
小節4
「幸せ」
人はこれをどのように定義するのか。それは人によって幸せであったりそうでなかったりするだろう。入院中で一日だけ外出を許されることに幸せを感じるものもいれば毎日平々凡々と過ごすことに幸せを感じない人もいる。つまり「幸せ」とは毎日当たり前のように起こると、または何度も繰り返されるとそのありがたみや幸せを感じなくなるわけだ。
何故このような話をしたのかと言うとそれを語るには今朝まで振り替える必要があるだろう。
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「……ゆ……ん。お……。ゆう……。起きてってば。」
何か声が聞こえる。なんだが懐かしく落ち着く声だ……。
「優くん!起きてってば!」
俺が目を開けるとそこには葵がエプロン姿で立っていた。
「もー、やっと起きた。やっぱり優くんは朝弱いよね。もう朝ごはんできてるから顔洗ったら私の部屋まで来てね。」
葵はそう言い部屋を出ていった。俺は玄関のすぐ側にある脱衣場で顔を洗うと部屋を出て行った。
葵の部屋にはキッチンがついており同じ寮でも部屋の構造は違うらしい。
多分記憶を失う前の俺も料理などを作らなかったのだろう。俺が寝てるところを葵が起こしに来てくれて葵の部屋にいく。それが俺らの日課なのだろう。
テーブルに座るとベーコンエッグとシュガートースト、サラダとブラックコーヒーが2つずつ並べられていた。
「「いただきます。」」
二人で一緒に手を合わせて声をかけ俺はシュガートーストから口に入れた。
……うまい。砂糖の量が丁度よくバターでこんがり焼き上がっている。口の中が甘くなったところにブラックコーヒーを
流し込む。シュガートーストの甘さがブラックコーヒーの苦みによって緩和されて口当たりがいい。俺は貪るように朝食を食べていると葵は俺の食が進んでるのを見て笑顔になっていた。
「葵、いつもありがとな。」
それはふと出た言葉だった。
「え……、いきなりどうしたの優くん。」
俺のふとした言葉に葵は虚をつかれたようにしていた。
「あ、いや、記憶無い俺が言うのもおかしいけどなんか俺って幸せだなって……。毎日朝起こしに来てくれる女の子がいて朝ご飯まで作ってくれる。そして俺のために色々心配してくれる。こんなことは今日がはじめてじゃない気がして。なんだかありがたいなって……」
俺が下を向きながら感謝の気持ちを伝える。
……多分以前の俺はこれが当たり前のことでそれがどんなに感謝すべきことかわかってなかったんだろうな。
葵の顔は昨日と同様真っ赤に染まっていた。
「ぜ、全然感謝されるようなことじゃないよ!わ、私が好きでやってることだし優くんと少しでも一緒にいたいだけだし!……でもそう思ってもらえたなら嬉しいな。」
「ああ、そういってもらえると俺も助かる。」
俺は二杯目のコーヒーを注ぐ。
「惚れ直したでしょ~♪」
満遍の笑みの葵にたいして俺は
「惚れ直したも何も元々葵には惚れてなかったって。」
そういって顔が赤くなったのを隠しながら二杯目のコーヒーに口をつけたのだった。その味はブラックにしては少し甘く感じたのだった。
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「優くんは今日どうするの?色々忘れてしまってるなら私力になれると思うけど。」
葵が食器を洗いながら俺に話しかける。昨日襲われたこともあり葵が俺といるところを見かけられたら危ないのではと思ったが奴らが葵のことを知らないわけがない、むしろ俺といた方が葵を危険にさらさずには済むのではないかと思い今日一日を葵と過ごすことにしたわけだ。
「そうだな。それじゃ少し外を見て回りたい。後俺が通う学校もだ。事前に見ておかないと皆におかしく思われることがあるかもしれないしな。」
「やった♪今日一日優くんとデートだね。」
葵が小さくガッツポーズをする。
「……」
俺は否定しようとしたが葵があまりにも嬉しくしてるので俺も嬉しくなり何も言わないことにした。
☆
「やった♪今日一日優くんとデートだね。」
私が皿洗いをしながら小さくガッツポーズをすると優くんは嬉しそうな顔をしていた。
今日はいつも以上に幸せな日になりそうだな。昨日まで優くんが帰ってこなくて凄い心配で寂しかったし記憶を失っているって聞いてショックも受けたけどそれでも優くんは優くんだった。
……いつもありがとうって言ってもらえて嬉しかったな。
私が優くんの心の中にいるってわかって嬉しかった。そして何より記憶を失っても優しいところが変わってないのが嬉しかった。
優くんに救ってもらったあの日から私は優くんに色々なものを与えてもらってばっかりだ。これで少しは優くんに近づくことが出来たのかな……。
私は時々不安になる。私は優くんの優しさに甘えてしまいすぎてるのではないのだろうか。
きっとそれでも優くんは私に失望しないだろう。
私は優くんに何か恩返しができるのだろうか。
きっと優くんはそんなものはいらないと言ってくるだろう。
……それでも私は優くんが好きだから。もっと一緒にいたいから、優くんが記憶喪失の今、自分が役に立てることがあるのならそれを一生懸命頑張ろう。
そう思い最後の一枚の皿を洗い終えた。




