花見酒
麗らかな陽気、心地いい春風が満開の桜を揺らし舞う薄桃色の花びら。
軒下に座り、花びらが浮かぶ盃を口へ傾ける。
「ん、春……いいですねぇ」
見事に咲いた桜、浮かぶ花びらを愛で、うっとりと呟く。
「……はぁ」
春爛漫と満喫していると複数の足音が聞こえてきて、ため息をついた。
「現、生きてるかッ!?」
「きっと、まだ寝てるか酒のんでるだけしょ」
「現兄様ぁ」
まず最初に声を上げたのは端整な顔立ちで長身、某有名なブランドスーツに身を包んだ男、夢見 幻、現の兄。
次に端整な顔立ち、多くのシルバーアクセサリーをつけ髪を金髪に染め男、夢見 陰、現の弟。
最後に甘えた声を上げた可愛らしい顔立ちと小さな体、フリルの多い服を着た少女、夢見 泡(ゆめみ あわ )、現の妹。
「……」
現は彼らを無視して桜を愛で、口を潤す。
桜の花びらが舞う、軒下で佇む現の姿は幻想的で彼らは声をかけるのを忘れ見入っている。
「……三人とも何をしに来たんです?」
刺さる視線が煩わしげに現は兄弟妹に渋々といった様子で声をかけた。
「も、もちろん、兄貴の生存確認だ!!」
「泡は兄様にお会いしたくて!!」
「私は両方さ、私の可愛い現、会いたかった!!」
「貴方達に僕のことを気にしている時間なんてないでしょうに、仕事はどうしたんです」
四人は顔立ちも似ておらず血縁関係もない。
夢見仕掛けの力が強い為、夢見の一族に選ばれ引き取られ夢見の名字を名乗ることを許された夢見仕掛け師だ。
夢見の一族は血縁関係はなく力のみで選ばれる。
「今月の依頼は全て、この日の為に終えてきたのだよ、さぁ、褒めてくれ!!」
「泡もですよ、兄様!!」
「お、俺だって!!」
「そんなことより黙って来たのではないでしょうね」
手にした盃を不本意かつ名残惜しげにおいて幻、泡、陰の順に睨む。
「なんという、美しい流し目!!」
「泡、ドキドキですっ!!」
「くっ!!」
「……まったく」
この様子では、やはり一族の者に黙ってきたのだと現は考えた。
「いいじゃん、次期棟梁に会いにきただけだって」
「陰、僕は棟梁になる気はないです……僕より幻兄様の方が適任ですよ、ね?」
幻に向かって微笑むと首を傾げる。
「くっ、現、それは、しかし、それだけは……」
現の微笑みに頬を染め、幻は頷きたいのを堪えた。
「現兄様、駄目ですよぉ、夢見で一番、力が強いの、現兄様なんですからぁ」
「……そうでしょうか、僕よりも力が強い方は……」
「兄貴、それはないって分かってるだろ?、もう諦めて、こっち、戻ってこいよ」
「現、お前が棟梁になったら私が公私ともに支えるつもりだよ、安心して……」
「絶対に嫌です」
現はもう一度、盃に手を伸ばし、口を潤すと三人に向かって微笑んだ。