会いたい
「ここは……」
夢の中へと誘われ、女が気づいた時には慣れ親しんだ自分の部屋の中。
すると家の呼び鈴がなり、ドアをあけると男が立っていた。
「よう」
突然、行方不明になった恋人に会いたい、それが女の望みだ。
その恋人こそ親しげに手をあげた、この男。
夢見仕掛け師は本来、依頼内容を直接、聞く必要はない、夢の中へと誘えば読み取ることが出来る為だ。
しかし、夢見仕掛けを望む人々が増える中、夢見仕掛け師達は事前に望みを聞き仕事を選ぶのが、セオリーとなっている。
女は夢見以外の夢見仕掛け師に依頼を出したが依頼内容を告げると、くだらない、騙されていたんだろうと拒否された。
しかし諦められず依頼を受けてくれる夢見仕掛け師を探し夢見のもとへたどり着いたという。
「……会いたかった、どこへ行っていたの?」
「? 、何、言ってるんだよ、俺がお前から離れるわけないだろ」
あぁ、やっぱり、これは本当に夢ね。
貴方は私に、こんなこと言ってくれたことないもの。
女の心の声が夢見に聞こえてくる。
夢だと分かっている夢、それは女が望んだことだ。
「ねぇ、私のこと好き?」
でも、ここでは私の望む言葉をくれる。
ほの暗さを抱きながら甘えた声で男の腕をひいた。
「な、なんだよ、急に」
「お願い、答えて」
聞かせてほしいの、貴方の声で。
夢でも幻でもいい。
「好きだよ」
「ほんとう?」
「あぁ」
「私だけ?」
「あぁ」
照れくさそうに笑う男、頬を染め上目遣いで見上げる女、男の手が女の頬へと伸ばし触れた。
女も頬に触れた男の手に自分の手を重ねると二人の視線が混じり合う。
そして、互いの唇が引き合うように近づき触れ合う間際、女の瞳から一滴の涙が頬を伝い男の手を濡らす。
「?……どうし、ぐっ!!」
突然の涙に近づけた顔を止め、女の表情を伺い見た瞬間、鳩尾付近に衝撃が走り男は顔を歪めた。
「っ!!」
「これで私、貴方にたくさん作ってあげてたの……口にあまり合わなかったみたいだったけど」
衝撃が襲った鳩尾に男が視線を移すと、そこには包丁が深々と刺さっていた。
「な……ぐッ、っかは」
突然のことに膝をつき無意識に刺さった包丁へ手を伸ばした。
その時、喉元から何か、せり上がってきて不快感に堪えきれず吐き出すと鮮血が女の頬へと飛んだ。
「私ね、貴方の居場所、知っているの、今は夢の中だけれど次は会いに行くわね」
女は苦しみに悶える男へ近寄り同じように膝をつくと刺した包丁を掴む。
そして一気に包丁を引き抜くと、ぐらり、男の体が女の方へ倒れた。
おびただしく吹き出した血が女を真っ赤に染める。
「それまで、さよなら」
抱き締めるように支えると女は男の耳元へ唇を寄せ呟く。
「これは幻、一夜の夢」
夢見の凛とした声が再度、響き夢見仕掛けの終わりを告げた。
夢見仕掛け、それは望む夢を見せる力、そして、望まれた夢を見せる力。
女の夢見仕掛けが終わりを告げられた瞬間、男は刺された衝撃、抜き取られ血が流れる感触、リアリティーのある悪夢から目覚めることになる。
それこそ、女が望んだ夢なのだから。
「おはようございます、お嬢さん……いい夢は見られましたか?」