夢見仕掛け
「始めましょう」
現代日本、何処かの片田舎にある日本家屋の一軒屋。
この家の持ち主の男の名は夢見 現。
丸メガネと緑色の着物に、ふわふわとした茶色の髪の柔らかい印象そして春には花見酒、夏には七夕酒、秋には月見酒、冬には雪見酒と無類の酒好き田舎好きで都会嫌いの男だ。
「目を閉じて下さい」
そんな男の家の和室、薄暗い部屋に一組の布団の中で優しげに呟かれ目を閉じ女が頷く。
「これは幻、一夜の夢」
夢見の声が凛と響く、女に向かって手を伸ばし閉じた瞼を覆うと女の体がピクリと強張った。
どうやら今から始まるのは睦言かと思いきや最近、噂の『夢見仕掛け』の様子。
『夢見仕掛け』それは見たいと望んだ夢を見せる力
その力を生業にしている者は『夢見仕掛け師』と呼ばれていた。
所詮夢と言われることもしばしば、しかし夢の中しか叶えられない望みもある。
女の体の強張りがとけ寝息が漏れ始めると夢見も目を閉じた。
女から手を離し背に隠しておいた徳利とお猪口を器用に取り出して、これまた器用に酒を注ぐ。
「夢も酒も覚めることを忘れずに、お嬢さん」
はてさて女の望む夢はなんなのか酒を片手に覗き見るのも、これ一興。