いざ異世界へ。
懐かしい匂いがするな。
そんなことを感じながら圭太は瞼を開けた。
目の前には幼少期の圭太がいた。
母親の膝の上で寝ていたのだ。
「懐かしい匂いはこれが原因か」
圭太は少し淋しそうに言った。
小さい頃の圭太は母親に膝枕をしてもらうのが大好きだった。どちらが先に膝枕をしてもらうかで妹とよく喧嘩したものだ。
「それがお前の過去か・・・」
「?!」
不意に後ろから声がしてつい身構えてしまった。
「まぁそんな身構えるなよ圭太」
圭太は驚愕した。
目の色も髪の色も違うが、そこのには間違いなく自分の姿で笑っている何かがいた。
「お前は、誰なんだ?」
「いきなりそれを聞くか。まぁいい、俺はお前だよ圭太。正確に言えばお前の心そのものであり、お前に新たな力を当てえてやれる唯一の存在だ」
神妙な顔で言った自称:俺の心は肩を竦めて笑って見せた。
「しかしあれだね。こうも簡単に気づかれるとは思っていなかったよ」
「何言ってんだ。お前はどう見ても俺だ、髪の毛や目の色は違うが間違いなく俺だ。気づかないはずがないだろ」
「まぁそうなんだけどさ、他の人は存外気づかないであっちの世界に行っちゃうから自分の力量がどうも分かってないんだよねぇ」
「何の話をしてんだ?とにかく話が見えないからさっさと説明してくれよ。ここは何処なんだ?」
「まぁもう知ってると思うがお前は死んだ。ここは死後の世界で若くして死んだ人間が自分の心と話せる唯一の空間だ」
「まぁそれはなんとなく分かってたけど、あれは何なんだ?なんか昔の俺が居るんだが?」
「あぁ、あれは死者の最も強い思い出を映し出すまぁモニターみたいな物だね」
「なんか俺じゃねぇみたいだな」
「そりゃもう、この中に映っている圭太はまだお子ちゃまでちゅからねぇ」
「う、うるせぇぞ!?」
思わず圭太も恥ずかしくなり声が荒々しくなった。
「そういえば、お前さっき『あっちの世界での力量』が何だか言ってたよな、どういう事だ?」
「まぁ簡単に言えば異世界転生だよ。その世界での己の力、お前がいつも読んでたラノベとかいう奴の定番ってやつだ。なんか小説みたいなのも書いてたしなぁ。あれ何だったの?俺にはよく理解出来ない言葉が沢山あったんだが」
圭太はそれが何だったかをすぐに察した。
圭太が中学の頃に書いていたいわゆる中二ノートというやつだ。
思い出すだけで恥ずかしい。だから自分の心にこう言った。
「思い出すだけで恥ずかしいから止めてくれ」
「まぁ何が恥ずかしいかは聞かないでおいてあげるよ」
「あぁ感謝するよ」
「ところでちょっと話題を戻そうか。死後の世界は異世界に転生させるか、天国か地獄に送るかを選べるんだけど」
「ちょっと聞くが、今まで地獄に行った奴は何人だ?」
「ゼロ」
「当たりめぇだろうがァ!」
呆れた。ここの空間にいる心という奴らは皆こんなに馬鹿なのだろうか。
地獄とか選ぶ馬鹿はいないだろ。
「てかさ、異世界に転生するって何すんの?」
「んー基本はRPGみたいに魔王を倒しに行くんだけどねぇ肝心の魔王がねぇ」
「もう倒されたのか?」
「いやぁそういうわけでも無いんだよねぇ」
「まぁいいや、どっちにしろ俺は異世界転生を選ぶよ」
その言葉に安心したのか、
「それは良かった」
圭太の心は笑った。
「ではお土産にと言っては何だけど旅の役に立つものを一つだけあげるよ」
「そうだな、最強装備をいきなりもらってもつまんないからなぁ。あ、そうだなんかめっちゃいい神の加護が付く指輪みたいのでいいや」
心はポカンと口を開けていた。
「本当にそれでいいのかい?ここにはそうそう戻ってこれないよ?」
「あぁ構わない」
「分かった。じゃあ向こうへ送りたいんだけどその前に、お前の妹、浦野唯のことなんだけどさ」
唯は最後まで唯一兄を慕って愛してくれた家族だ。
「唯は誰よりもお前の死を悼んでいた。それも数ヶ月学校に行かないくらいまで」
もうそんなに時間が経っていたのかなんてことはどうでもよかった。
圭太は唯に言わなければならなかった。
「これでさよならなんて俺らしくないことは言わねぇけど、もし、もし唯がこっちに来ることがあったら唯の心に伝えてくれ」
そして圭太は笑って言った。
「待ってるぞってな!」
「分かった。ちゃんと伝えておくよ。じゃあ転生の準備をするね?」
「あぁよろしく頼むぞ」
「じゃあ行くよぉ」
そう言って圭太の心がパチンっと指を鳴らした。
どうも、岸浦 駿です。
今回は長々と申し訳ありませんでした。
『無能な俺を異世界へ。』第三話、是非感想聞かせてください。