ドラゴン様ですね?はじめまして。
準備を済ませた未央が降りてきた。
「ごめんなさい、待たせちゃって」
「いや大丈夫だぞ。じゃあ行くか」
そしてギルドに向かって行った。
ギルドはこんな雨中でも賑やかだった。
「いつ来てもここの雰囲気は新鮮でいいよな」
「そうかな?」
「男にしか分からんのだよ」
指を振って格好つけたが、
「なんか気持ち悪い・・・」
きっと圭太がいつもこんなことをしないからそう思ったのだろう。
しかしそれが相当ショックだったのか、圭太は呆然としていた。
「それよりクエストでしょ?早く決めましょうよ」
掲示板の前まで言った未央は項垂れていた。
「どうした?」
圭太はその依頼の数と難易度を見て全てを理解した。
「はぁ、難易度が全部難しいって訳か」
「今日は帰りましょう。私達にこんな難易度のクエスト達成出来ないわ・・・」
そう言い残し、未央はギルド出口へと向かっていった。しかし、それを圭太は止めさせた。
「いや、このクエストなら行けるんじゃないか?」
そう言って圭太が取ったクエストは、海王龍の討伐。この時期に臨海で稀に出現を確認するドラゴンだ。
夏になると出現率が高くなるのだが、夏は浜辺で遊戯して暮らす人も出てくるので、大変危険なのだ。故に、夏が来る前に倒してしまおうというわけだ。
「本気で言ってるの?!街の人情報によると、それは毎年バルアーンが討伐しているクエストよ?」
「賞金は一〇〇〇万ニルだとさ」
圭太がクエストの報酬を告げると、
「やります!私頑張ります!」
目の色が金に変わった。
「現金な女だなぁ・・・」
圭太達がクエストを受けてからしばらくが過ぎ、現在、例のドラゴンが出現するというポイントに来ていた。ここに来る前に圭太は明らかな天気の変化に気づいていた。
ドラゴンが出るポイントを過ぎた辺りから、突風が吹き荒れ、硬い防具に軽く擦り傷を負わせる程の強い雨が降り始めた。
そして―
「さぁて、ドラゴンのおでましだぞ!」
そう言って圭太が見やった方向には、子供が見たら凄く喜びそうなくらいカッコイイ龍がいた。まぁ間近で見たらとてつもなく威圧感がヤバイのだが。
「け、圭太くん・・・・もしかしてあれと戦うの・・・?」
「あぁ、国が討伐依頼を出している【海王龍ポセイド】だ」
「ほんとに倒せるの?」
「いや、一人じゃ無理だ。だからお前はあの岩に隠れて俺に援助魔法をかけてくれ」
「わ、わかったわ!」
未央はせっせと岩に隠れ、詠唱を始めた。
「エル・アクセル!」
これは大魔術師が使用する攻撃力上昇魔術。
「テリア・プロテクト!」
これは防御力上昇魔術、未央は様々な魔術が使えるため、頼り甲斐がある存在だ。
「一気に決める・・・!」
そして圭太は駆け出し、ドラゴンに向かっていった。
圭太が振り下ろした剣は光を帯びて、ドラゴンに向かった・・・・が。
ふと、圭太の脳裏に嫌な予感が疼いた。
その瞬間嫌な予感は的中した。
目の前にいたドラゴンは圭太が放った一撃で屠った。しかし、誰も、ドラゴンが一体とは言っていないじゃないか。
そう、ドラゴンは・・・その数、十二体。
当然、今気づいたことなわけでこんな数相手にできるはずが無い。だから圭太は考えた。己が今取るべき最善の手段を。
「未央!全速力で街に逃げろ!お前は街に言ってバルアーンを呼んでこい!!」
大声で未央に支持を出した。しかし、仲間の未央がそれを許容する訳がなく、
「それじゃあ圭太くんが死んじゃうじゃない!!誰が援護するのよ!!」
「俺はいいから早く行けぇ!!」
「でもっそれじゃ」
「早く行けって言ってんだろ!!」
圭太のその一言を聞き、未央は涙を流しながら、嗚咽混じりに詠唱をして自分に加速魔術をかけて、
「絶対生きて!!約束だから・・・!」
そう言い残して未央は姿を消した。
しばらくドラゴンとの戦闘を繰り広げた圭太だったが。
「悪いな未央。もう限界かもな・・・」
もう諦めるしか無かったのだ。
「お前だけは生きてくれよ、未央」
そして、海王龍達の一閃が圭太を貫いた。
目を覚ましたらそこは、何も無い暗闇の中だった。
「また、死んじゃったな・・・」
もう二度とあの世界に戻ることは無いだろうと確信して、圭太は瞼を閉じた。
しかし圭太が望んだ結果とは全く異なる状況がそこにはあった。
圭太は一度瞼を閉じたが、すぐに強制転移され、またあの場所に来ていた。
「ははっ、マジかよ・・・・」
後方に人影を感じ、振り返った。
そこには、自分がいた。いや、正確に言えば、これは自分の心。若くして死んだ人間が話せることのできる存在だ。
「久しぶりだな。俺の心」
「あぁ、久しぶりだ。君はまた死んでしまったんだね?」
苦笑した心。
「だからあなたはいつもダメなのです」
自分の心の背後から、聞き覚えのない凛とした声が空間に澄み渡った。
自分の心の横に並んだ女性。
それは誰も彼もが満場一致で美女と言える程の可憐さを身に付けていた。
「あの・・・・あなたは?」
「こ、この人の妻です・・・」
ボシュゥッと赤くなった女性。圭太は思った。
この人何一人で恥ずかしいこと言って赤くなってんだよ・・・
「あ、いや俺が聞いたのはあなたの名前です」
圭太が気を取り直して言うと、更に女性は頬を羞恥の色に染めた。
「私はヘラです」
「は?」
「いやだから・・・」
「おいちょっと来い」
圭太は女性の隣にいた自分の心の襟を掴み、引っ張っていった。
「どういう事だ?」
圭太はさっきの事で察してしまったのだ。
あの女性はヘラ、ということはその隣に居座る存在は必然的にゼウスになるだろう。そのうえ、ヘラと名乗った女性はこいつの妻と言ったんだ、と。
「あぁいや、えっと・・・・俺はお前の心じゃなくて、全能神ゼウスなんだ」
しかし圭太は俯いたままだ。
きっと怒っているのだろう。自分の心と偽ったことを。
「・・・・・で」
「で?」
「なんで・・・なんで俺には彼女すらいないのにお前は嫁を作ってるんだぁぁぁぁぁ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」
「お前がゼウスだかなんだかしんねーけど、二次元じゃなく、リアルに嫁を作ることは認めん!!」
「あぁいや、別に嫁と言ってもただの肩書きで・・・・・」
圭太がガチでショックを受けているので、慰めにそういった。が、背後から周りを死色に染める程のさっきが伝わってきた。
「ただの肩書きねぇ、へぇそう・・・」
「あぁいや、ヘラこれはだな・・・」
「あなたって人はそんなんだからいつも浮気するんです!!!」
巨大な魔法陣を描いたヘラは、それを容赦無くゼウスに向けるのであった。




