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無能な俺を異世界へ。  作者: 岸浦駿
異世界生活〜始まりの街編〜
14/22

魔王ちゃんこんにちは。

懐かしい声がする。

「圭太〜。さっさと来いよぉ」

あぁ、そうだ。こいつらは散々俺をいじめたクソ野郎共だ。

「ま、まってくれよ」

そういえば、俺って前にもあいつの声を聞いた時がある気がする。あれは確か・・・・・


ゆっくり意識が覚醒していき、その身を起こした。

「また随分変な夢を見たもんだな・・・」

自分がいじめられていた頃の夢を見るなんて、と。

ベッドから降りて部屋を出ようと思ったら、ノックが聞こえた。

「どうした?」

「圭太くん。話があるの」

「わかった。入っていいぞ」

「ん」

未央がそこら辺にあった椅子に適当に腰を下ろし、

「圭太くんあなたはいったい何者?」

「ん?何者って何がだ?」

「とぼけないで!?さっきあの女の子が起きた時に言ったの。『私は魔王であいつは私の依り代だ』って。ねぇ、もう一度聞くね?あなたは何者?」

「いやマジで何のことやらさっぱりで・・・」

圭太は少し待ってくれと言って目を瞑った。

『なぁ心よ。もしいたら返事をして欲しい。』

『・・・・・どうしたんだ?』

『一つ聞く。俺が魔王の依り代ってどういうことだ?』

『そうだね。この際隠し事はもうしないではっきり言おうか。・・・・・君は魔王に選ばれたんだよ』

『!?』

思わず圭太は肩を震わせた。自分が魔王に選ばれたなんて思いもしなかったからだ。だってそうだろう?元は日本人のヒキニートが魔王に選ばれるなんて有り得ないのだから。

『話は終わりかい?じゃあ俺は失礼するよ』

圭太はただ無言になる事しか出来なかった。

それ以来心の声は途絶えて、圭太はゆっくりと瞼を開け、未央を見据えて言った。

「未央、悪い。さっきのは嘘だ。どうやら本当に俺は魔王に選ばれた、らしい」

「そう、だったんだ・・・・・」

暫しの沈黙が流れ、

「未央、それでも俺は人間のつもりだ。それだけはわかって欲しいんだが・・・」

「わかってるよ。圭太くんは嘘なんか付けない人だもの。そんなことで私はいなくならないわ」

「そう、か・・・・ありがとな」

圭太はその言葉を聞いて安心し、優しく微笑んだ。

「べ、別に」

さて、と言って圭太が立ち上がって言った。

「あの可愛い魔王ちゃんとお話をしないとな・・・未央、あいつと二人で話したいから連れてきてくれるか?」

「わかったわ」

未央は立ち上がって部屋を後にした。

そして間もなく未央が少女を連れてきた。そして未央は何も言わず、約束通り部屋を出ていった。

「さて、魔王ちゃん?」

「なんだ?」

「お前は一体何故俺を選んだのかな?」

「お前が好きだからだ」

「へぇそうなんだ」

いや待て。コイツ今なんて言った?

「ま、待ってくれ。今なんて言った?」

そう圭太が確認すると、今度は聞き間違えのないくらいはっきりと少女は言った。

「お前のことが好きだからだ」

「・・・・・・・・・・・・はぁぁ!?」

「む、何故そんなに驚くのだ?」

ま、まぁ好きなんてどうせ住み心地の問題だろうな、と圭太は思って本題に入ろうとした。

「あぁ、いや何でもない。それよりまずは自己紹介だな。まぁ知ってるとは思うけど、俺は浦野圭太だ。お前の名前はなんて言うんだ?」

「我の名はイーズだ」

「イーズって言うのか・・・。なぁイーズ、お前って魔王なんだろ?」

「あぁ。確かに魔王だ、が他の魔王らとは少し違うんだ」

「他にも魔王がいるのか?」

「そうだ。まぁ私は何故か人に宿ることができるのだ。他の魔王とは違って特異体質でな」

「ほぉん。まぁお前が魔王って事は分かったんだけど、何であんな乱暴なことをしたんだ?なんか男の子の姿だったし」

圭太が言っているのは、先の件の門番ぶっ飛び事件の事だ。

「イライラしたのだ。お前がいつまでたっても迎えに来ないから!」

「いや、理不尽すぎるだろ?!大体何で外に出てたんだ?」

「旅行してた。お前がこの世界にきて、夢の中で初めて我と会ったとき、少し旅行がしてみたくなったのだ」

ん?異世界に来てから初めて夢の中であった日?・・・確かあの翌日に『バルアーン』とか言う最強の集団がボコボコにされたっけ。

「な、なぁイーズさん」

「む、どうした急に変な呼び方をして」

「あのさ、お前旅に行く途中で複数の冒険者に会わなかったか?」

「会ったぞ。少し遊んでやったんだが、リーダー格の男がなんか凄い魔術を使ってきてな・・・何でそんなこと分かったんだ?」

「いやまぁ色々あってだな・・・それでその後お前はどうしたんだ」

「空間転移した」

「それはチート能力だろ・・・」

ガックリ項垂れる圭太は思った。

バルアーンの方々、うちの魔王がお騒がせしてどうもすみませんでした・・・!

「もう二度とどこにも行くな。ここにいろ」

「圭太はそんなに私と一緒に居たいのか?!」

「そういうわけじゃねぇよ!」

イーズはそれを否定され、落ち込んだ。

「あ、いや、別に一緒に居ても嫌じゃないからここに居てくれ」

「本当か!?私はここにいていいのか!?」

「あぁ」

うわぁいやったー!と喜ぶイーズ。

それを見て圭太は昔の妹のことを思い出した。

あいつは今、どうしているんだろう。うまくやれているだろうか・・・と。

そんなどこか寂しそうな圭太の顔を見て、

「む、どうしたのだ圭太?」

「ん、いや何でもないよ。もう日も暮れてきたし、飯食うか。お前も腹減ってるだろ?」

そう圭太が尋ねたら丁度イーズのお腹からコロコロコロコロと可愛い音が鳴った。

少し恥ずかしかったのか、頬を羞恥の色に染め、

「う、うむ!」

圭太は早速未央を呼び、圭太が最初に連れて行って貰ったあの店へ向かった。

魔王が仲間になってしまった今、魔王討伐なんて目的を圭太はしばらく思い出すことは無いだろう。

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