魔王ちゃんこんにちは。
懐かしい声がする。
「圭太〜。さっさと来いよぉ」
あぁ、そうだ。こいつらは散々俺をいじめたクソ野郎共だ。
「ま、まってくれよ」
そういえば、俺って前にもあいつの声を聞いた時がある気がする。あれは確か・・・・・
ゆっくり意識が覚醒していき、その身を起こした。
「また随分変な夢を見たもんだな・・・」
自分がいじめられていた頃の夢を見るなんて、と。
ベッドから降りて部屋を出ようと思ったら、ノックが聞こえた。
「どうした?」
「圭太くん。話があるの」
「わかった。入っていいぞ」
「ん」
未央がそこら辺にあった椅子に適当に腰を下ろし、
「圭太くんあなたはいったい何者?」
「ん?何者って何がだ?」
「とぼけないで!?さっきあの女の子が起きた時に言ったの。『私は魔王であいつは私の依り代だ』って。ねぇ、もう一度聞くね?あなたは何者?」
「いやマジで何のことやらさっぱりで・・・」
圭太は少し待ってくれと言って目を瞑った。
『なぁ心よ。もしいたら返事をして欲しい。』
『・・・・・どうしたんだ?』
『一つ聞く。俺が魔王の依り代ってどういうことだ?』
『そうだね。この際隠し事はもうしないではっきり言おうか。・・・・・君は魔王に選ばれたんだよ』
『!?』
思わず圭太は肩を震わせた。自分が魔王に選ばれたなんて思いもしなかったからだ。だってそうだろう?元は日本人のヒキニートが魔王に選ばれるなんて有り得ないのだから。
『話は終わりかい?じゃあ俺は失礼するよ』
圭太はただ無言になる事しか出来なかった。
それ以来心の声は途絶えて、圭太はゆっくりと瞼を開け、未央を見据えて言った。
「未央、悪い。さっきのは嘘だ。どうやら本当に俺は魔王に選ばれた、らしい」
「そう、だったんだ・・・・・」
暫しの沈黙が流れ、
「未央、それでも俺は人間のつもりだ。それだけはわかって欲しいんだが・・・」
「わかってるよ。圭太くんは嘘なんか付けない人だもの。そんなことで私はいなくならないわ」
「そう、か・・・・ありがとな」
圭太はその言葉を聞いて安心し、優しく微笑んだ。
「べ、別に」
さて、と言って圭太が立ち上がって言った。
「あの可愛い魔王ちゃんとお話をしないとな・・・未央、あいつと二人で話したいから連れてきてくれるか?」
「わかったわ」
未央は立ち上がって部屋を後にした。
そして間もなく未央が少女を連れてきた。そして未央は何も言わず、約束通り部屋を出ていった。
「さて、魔王ちゃん?」
「なんだ?」
「お前は一体何故俺を選んだのかな?」
「お前が好きだからだ」
「へぇそうなんだ」
いや待て。コイツ今なんて言った?
「ま、待ってくれ。今なんて言った?」
そう圭太が確認すると、今度は聞き間違えのないくらいはっきりと少女は言った。
「お前のことが好きだからだ」
「・・・・・・・・・・・・はぁぁ!?」
「む、何故そんなに驚くのだ?」
ま、まぁ好きなんてどうせ住み心地の問題だろうな、と圭太は思って本題に入ろうとした。
「あぁ、いや何でもない。それよりまずは自己紹介だな。まぁ知ってるとは思うけど、俺は浦野圭太だ。お前の名前はなんて言うんだ?」
「我の名はイーズだ」
「イーズって言うのか・・・。なぁイーズ、お前って魔王なんだろ?」
「あぁ。確かに魔王だ、が他の魔王らとは少し違うんだ」
「他にも魔王がいるのか?」
「そうだ。まぁ私は何故か人に宿ることができるのだ。他の魔王とは違って特異体質でな」
「ほぉん。まぁお前が魔王って事は分かったんだけど、何であんな乱暴なことをしたんだ?なんか男の子の姿だったし」
圭太が言っているのは、先の件の門番ぶっ飛び事件の事だ。
「イライラしたのだ。お前がいつまでたっても迎えに来ないから!」
「いや、理不尽すぎるだろ?!大体何で外に出てたんだ?」
「旅行してた。お前がこの世界にきて、夢の中で初めて我と会ったとき、少し旅行がしてみたくなったのだ」
ん?異世界に来てから初めて夢の中であった日?・・・確かあの翌日に『バルアーン』とか言う最強の集団がボコボコにされたっけ。
「な、なぁイーズさん」
「む、どうした急に変な呼び方をして」
「あのさ、お前旅に行く途中で複数の冒険者に会わなかったか?」
「会ったぞ。少し遊んでやったんだが、リーダー格の男がなんか凄い魔術を使ってきてな・・・何でそんなこと分かったんだ?」
「いやまぁ色々あってだな・・・それでその後お前はどうしたんだ」
「空間転移した」
「それはチート能力だろ・・・」
ガックリ項垂れる圭太は思った。
バルアーンの方々、うちの魔王がお騒がせしてどうもすみませんでした・・・!
「もう二度とどこにも行くな。ここにいろ」
「圭太はそんなに私と一緒に居たいのか?!」
「そういうわけじゃねぇよ!」
イーズはそれを否定され、落ち込んだ。
「あ、いや、別に一緒に居ても嫌じゃないからここに居てくれ」
「本当か!?私はここにいていいのか!?」
「あぁ」
うわぁいやったー!と喜ぶイーズ。
それを見て圭太は昔の妹のことを思い出した。
あいつは今、どうしているんだろう。うまくやれているだろうか・・・と。
そんなどこか寂しそうな圭太の顔を見て、
「む、どうしたのだ圭太?」
「ん、いや何でもないよ。もう日も暮れてきたし、飯食うか。お前も腹減ってるだろ?」
そう圭太が尋ねたら丁度イーズのお腹からコロコロコロコロと可愛い音が鳴った。
少し恥ずかしかったのか、頬を羞恥の色に染め、
「う、うむ!」
圭太は早速未央を呼び、圭太が最初に連れて行って貰ったあの店へ向かった。
魔王が仲間になってしまった今、魔王討伐なんて目的を圭太はしばらく思い出すことは無いだろう。




