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無能な俺を異世界へ。  作者: 岸浦駿
異世界生活〜始まりの街編〜
10/22

これはデートなのか。

時は過ぎ、時刻は日が傾き始めた頃。

一通りクエストを済ませて、ギルドへ行き報酬を貰った。そして目的の常闇のブーツを買いに防具屋に行った。

圭太が今から行く防具屋は街の中でも一番いい品を取り揃えている人気店なのだ。

まぁ本来雑魚ステータスになる筈だった圭太は、最強ステータスになってしまった為、今まで見てきたラノベの最弱主人公達に申し訳ない気持ちで店に入っていった。

「すみません。常闇シリーズの足をください」

カウンターにいる中年くらいの男性に言った。

「はいよ。これであんたは全部揃えたな!うちの防具は少々高いもんだからあんまり買ってくれる人がいないんだよねぇ。まぁバルアーンがよく防具を新調する時なんかは来るんだけど」

バルアーン。今街に来ている最強冒険者集団だ。

「そういえばなんかそいつらたった一人に壊滅状態まで追い込まれたって言ってたけど・・・」

「あぁそうらしいね。余程の相手じゃなきゃあのバルアーン相手にあそこまで出来ないよ」

「じゃあおじさんこれ代金な」

「はいよ、確かに受け取ったよ」

圭太は常闇シリーズを無事揃え、店を出た。その時、見た事のある栗色の髪の美少女が大通りにいて、そして目があった。

昼間ギルドで圭太が話しかけたあの美少女だ。

「あら、偶然ね。こんな所で何してるの?」

「あぁ、今防具を買っていたんだ」

美少女が詰め寄って来て、

「あなたと会うのもこれで二回目ね。これもなにかの縁だわ。夕飯がまだなら一緒に食べに行きましょうよ!」

嗚呼、だから何でこういう美少女は魅惑的な誘いをするんだ!大体世の男性はこの後ホテルに連れ込み如何わしい行為に手を犯す筈だ。だがしかし、俺を舐めて持っちゃ困る。童貞十六歳浦野圭太を舐めるな。

俺はそんなイヤらしい行為は断じてしない。

そう思考を巡らせてから答えた。

「あぁ、別に構わないがどこに行くんだ?」

「えっとねちょっと待ってて。オススメのお店があるんだけど・・・」

そう言って少女がポケットから取り出したのは・・・・スマホだったのだ。

圭太が困惑と驚愕の二つの感情を顔に出した顔で少女を見ていた。

「あっ、あったあった。これフランジュ・ベルっていうお店なんだけど・・・・って何その顔どうしたの?私の持ってるのがなんだか気になったの?」

そう言って少女は手に持っているスマホをひらひらと振った。

「な、何でお前、スマホ持って、るんだ・・・・・?」

おかしい。偶然にも程がある。

「いやぁこっちの世界、Wi-Fiは飛んでないけどメモは使えるからさ。まぁ充電は限られてるけど・・・・って」

そして今度は少女が驚愕する番だった。

「えっ?あなた、もしかして転生されてきたの!?」

「お前も、なのか?」

そして目を輝かせながら少女が言った。

「ほんっとこれって運命ってヤツね!ささっ、もっと話がしたいから、早くお店に行きましょう!」

そう言って少女は店まで案内してくれた。

「しかし驚いたぞ。こんなに早く転生者に会うとは・・・」

「私もよ。まさかあなたが転生者なんてねぇ」

店まで歩いている間に圭太は少女に幾つも質問したいことがあった。

「一つ聞いていいか。こっちの世界に来たって事はつまり、その・・・お前も死んだんだろ?」

「うん。まぁ病弱だったしね。仕方ないことだよ」

きっと彼女の死因は病気だったのだろう。

「あなたはどうして死んだの?」

容赦無く聞いてきた。まぁそれを言ったら圭太も同じなのだが。

「いや、俺は・・・その、殺人事件の被害者なわけで」

それを聞いて少女が何かを思い出した様な顔で圭太に質問してきた。

「ねぇあなた、名前は?」

そういえばまだ言ってなかったな。

「俺は浦野圭太だ」

「わかった。あなた十六歳で埼玉の川越市在住だったでしょ?」

「な、何で知ってるんだよ!?」

なんか見事に言い当ててきたからドン引きした。

「いや、一ヶ月前くらいにニュースで見たのよね。私家が近くだったからなんかそれ見たら結構印象強く覚えてたってわけなの。あぁもちろんニュース見たのは私が死ぬ前よ?」

「はぁ、ニュースになったのか・・・」

なんか自分のことがテレビに紹介されるのは嫌な気分だ。

そういえばまだコイツの名前、聞いてなかったな。

「てか、お前の名前まだ聞いてないんだけど・・・・」

「あぁそうね。私は佐々木未央。よろしくね!」

ほらまたそうやって笑顔になる。俺だからまだしも、これが野獣の様な男だったらもう容赦なくゴゥトゥザベッドだぞ!

そんな馬鹿な思考を巡らせ、少しばかり反応が遅れてから「こちらこそ」と言った。

しばらく雑談していたら、

「あっ見えた見えた。あれよ、私の行きつけのお店!」

「へぇ、ここがフランジュなんとかって店なんだな。また随分分かりにくい所にあるもんだな」

「隠れ名店ってやつね。ささっ入って、ホントに美味しいのよここの料理!」

「おいおいそんな押すなって」

圭太は苦笑した。


店員に席まで案内してもらい、注文表を貰った。が、初めてここに来た圭太は何を注文していいか分からなかった。

「なぁ。お前のオススメってなんだ?俺初めてだからよくわからないんだが・・・」

「オススメはねぇ・・・あっ、このウールフィッシュと三味草のソテーがオススメね」

「ほぉん。んじゃそれにすっか」

「いいの?そんな簡単に決めちゃって」

「せっかくお前が勧めてくれたんだ。俺もよく知らないからさ」

客の熱気と暖房のせいか、未央の頬が桜色に染まっていた。

「そういえばお前って―」

「圭太くん。私は『圭太くん』って呼んでいるのに何で圭太くんは『お前』って呼ぶのかな?」

なんか妙に怒気が孕んでいた。

「あ、あぁすまん。・・・未央」

「うん。よろしい!」

女心は秋の空とはこのことだろうか。愛桜は笑顔になった。

「ところで未央。さっきの話の続きなんだが」

さっき言いかけた事に話を戻し、

「うん」

「未央は俺がこの世界に来てから、一ヶ月くらいあとに来たってことなのか?」

「まぁそうなるのかな?」

「何で疑問形なんだよ・・・まぁいいや。ということはお前も『空間』を通って来たってことだよな」

「うん。なんか自分の心って案外自分と全く違うのよね」

「それでどんな風に転生されたんだ?」

「どんな風にってふつうに目閉じてたらもう街の中だったよ。最低限のお金と地図だけ渡してくれたら『空間に戻る』って言ってすっかり消えちゃった」

「あの野郎、次あったら容赦しねぇ・・・!」

未央は圭太の謎の怒りを前にしてきょとんとしていた。

そしてようやく頼んだ品が来て圭太と未央はようやく食事を始めた。

食べ始めて間もなく、

「それより圭太くん。あなたパーティーって組んだの?」

「いや、まだだが」

そう言って未央は思いっきり机をバンバンして立ち上がり言った。

圭太はものすごくこの光景を前に見た気がした。

「それじゃあ私とパーティー組んでよ!大丈夫よこれでも支援魔法は得意なの!」

「そういえばお前の職業聞いてなかったな・・・何やってんの?」

と、圭太が聞くと。

「大魔術師」

「ブーッッッッッッッ!」

圭太は吹き出してしまった。無論、未央の顔ではなく自分の横に。

「おまっ、本当に言ってんのか!?」

「えぇ本当よ」

「そ、そうか・・・まぁむしろありがたいくらいなんだけど、いいのか?俺となんかで」

「私も前衛に立ってくれる人探してたのよ。魔術が使えるといってもまだ全然だから・・・それにあなたそんなに悪い人じゃなさそうだし・・・」

最後の方は何を言っているか聞こえなかったが、きっと未央は柄の悪い雄に迷惑していたのだろうと圭太は察してやった。

「まぁお前がそれでいいなら俺も断る理由はないな・・・浦野圭太だ。改めてよろしく」

圭太が未央の誘いを了承すると、

「私は佐々木未央です。改めてよろしくね!」

なんとも満面な笑みで未央は応えた。

圭太は忘れないだろう。自分に接して来てくれる女の子なんかそうそういないのだから。

夕食は食べ終わり会計は全部圭太が負担した。女子と食事に来るのは初めてだったが、何故か女性には払わせてはいけない気がした。

「未央、ここの店うまかったぞ。また連れてきてくれよな」

未央はボンッと顔を爆発させたが、すぐに冷静さを取り戻し圭太に言った。

「えぇ、いつでもいいわよ。それより、一応パーティー組んだけど連絡とかってどうするの?」

「あぁそうだな・・・未央は今どこに住んでるんだ?」

「ちょっと離れたとこにある宿よ?」

圭太は考えた。

遠くに家があるなら連絡手段は限られてくるが、近くにいればそう不便は無い。

なら、

「なぁ。もし嫌じゃなかったらでいいんだが、俺がいる宿に来るか?料金なら格安だし、部屋、結構余ってるしよ・・・」

一瞬未央は思考が止まった。

あったばかりとはいえ、いきなり一緒に住めだなんて・・・でもいい人なのは確かだし。

だから未央は、

「ならそうして貰おっかな!」

少しばかり戸惑ったが、結果的に迷いは無かった。

「あぁちなみに、食事代別で一ヶ月三千ニルなんだけど・・・」

「ほんとに安いのね。安心して、そのくらいちゃんと持ってるわ!」

「部屋は俺が大家さんに言って空けといて貰うから引越しはいつでもいいぞ」

「わかったわ。それじゃあまたね!」

「あぁ。・・・・送ってくか?」

照れくさそうに圭太は言った。

「じゃあ、そうして貰おうかな・・・」

未央は頬を染めて言った。

そうして圭太は未央を家に送り、もう夜遅いというのに賑やかな街道を歩いていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


同時刻、空間では。

「いやぁ、君はあの娘に随分親切したんじゃない?」

そう圭太の心が話しかけた相手は、

「あなたが意地悪なだけです!」

頬を膨らませそっぽ向いた。

「まぁそんな怒らないでくれ。ヘラ」

「ゼウス、あなたいつもいつも何でそう人に意地悪するのですか?」

「そんな事今更気にしたってしょうがないじゃないか」

軽快に笑って見せた圭太の心。否、全能神ゼウス。

そしてその隣にいるのは、かつて嫉妬心が強すぎたため、ゼウスのことを好きなった女の子を片っ端から消し去った女。そしてこの世界を造った女神と崇められている、

未央の心であり、創造神ヘラ。

「まぁ見てなヘラ。このふたりはきっと世界を変えてくれるさ。なんせ僕らに選ばれ、その上魔王にも選ばれた逸材なのだから!」

「あなたには呆れました・・・でも楽しみですね」

そう言って二人の神は不敵な笑みを浮かべ、『下界』を見下ろした。


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