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サイハテシリーズ

シンエンからサイハテへ

 シンエンと呼ばれる場所がありました。

 サイハテが大地しかない空だけの場所だとしたら。

 シンエンはそれこそ何もない暗闇だけの場所でした。


 いいえ、違います。シンエンは深い谷の底。

 暗く暗闇に紛れて何もないけれど実は色々あるのです。

 底に広がる地面。湧き出る小川。蠢く闇の生き物。

 だた、暗闇で見えないだけでした。


 ああ、ひとつシンエンに無いものがありましたね。

 それは空。そして愛すべき微生物。

 すみません。ひとつじゃなくて、ふたつでした。


 とにかく、シンエンとサイハテはあらゆる意味で正反対なのです。

 シンエンはサイハテを知っていましたが、

 サイハテはシンエンを知りません。

 場所だって。丁度、シンエンの正反対の裏側がサイハテの場所。

 シンエンはあくびをひとつすると今日もサイハテの事を考えます。

 いつしか、それはシンエンの日課になりました。


 ある時、シンエンはサイハテに一通の手紙を出しました。

 闇のものにお願いしてとっておきの魔法の便箋で。

 それは本当にとっておき。なにせバフォメットの羊皮紙で作られています。

 バフォメットを宥めてすかし頭のてっぺんを拝借しました。

 サイハテが気に入ってくれるといいのですが……





 テトラはギルドの掲示板を見ています。

 目の前には一通の手紙。ルクシャワからケジャナンへと書いてありました。


「ディガン。この手紙の配達、受けていい?」

「ん?ああ。いいんじゃねぇ。ケジャナンにはちょうど立ち寄るからな」

「うん。親父さーん。この依頼さぁーーー」


 冒険者はこうしてお金がもらえるなら何でも引き受けます。

 もちろん、冒険者ごとに基準があって、自分の嫌な仕事は絶対に請けませんけども。

 差出人の名前も期限も無い、不思議な手紙の配達。

 そんな怪しい依頼も、心の琴線に響けばきちんと受容します。


 テトラはなぜか、手紙から目が離せませんでした。

 それは不思議な存在感のある手紙で黒い羊皮紙で出来ていました。

 かすかに魔力を感じます。

 一言で言えば大変、怪しい手紙でした。





 シンエンから失われた地へ失われた地からリーンカースへリーンカースから……


 ひとつの手紙がまるでリレーのように世界を巡っておりました。

 今はちょうどルクシャワからケジャナンへ向かっているところ。


 はたしてサイハテにはいつ届くのでしょうか?

 それから、サイハテはどうやってお返事を書くのでしょうね?

 サイハテには乾いた大地と青い空。微生物しかありません。

 暗闇の中に何でもあるシンエンとは似ているようで違います。

 シンエンはサイハテに好感を持ちましたが。はて?


 ああだけど。黒い羊皮紙の手紙はとても温かい魔力が込められています。

 それはサイハテの夢にちょっぴり似ていて、彼女は多分気に入ると思うのです。


 シンエンからサイハテへ。

 これはある世界でとても気の長い文通の始まった時のお話です。

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