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95.バルティニアス――3

「――――!」

「――――!」


 全身が空間に解けていくような感覚。

 薄れていく意識の中、誰かの叫び声だけがぼんやりと響く。

 そして……まるで時間が逆行したかのように、感覚が戻ってきた。

 身体を包む浮遊感は数秒後、何か柔らかいものに激突する衝撃によって断ち切られる。


「っ……」


 そこで認識が現状に追いついた。

 そうだ、確かラスボス(バルティニアス)の攻撃をマトモに喰らって――!


「僕は……」

「アレンさん、動けるなら済みませんがステータスの確認をお願いします~」

「ジャック?」

「さっきの攻撃は幾らラスボスでも異常です。そういう設定ならともかく、タネがあるなら暴かないとですので~」

「分かった、ちょっと待って」


 落下の衝撃を和らげてくれたらしいクッションから僕を引き起こすジャック。

 ルシフェラ戦の時を思い出す構図の中、覚束ない手つきで出来る限り急いでステータスを開きながら考える。

 ……あの時、僕は間違いなく死んで(、、、)いた。

 HPがゼロになっていたのは間違いない。

 なら、何故……。


「……一度だけです」

「え?」

「もう次は無いってだけです。それよりほら、早く手を動かしてくださいな」

「ご、ごめん」


 急かすジャックの勢いに押されてステータスを確認する。

 これは……!


「ステータスが、初期値に戻ってる」

「なっ――」

「いや、少し違う。全部のスキルが封印されてるんだ」


 そこにあったのは普段見慣れている以上に低い僕の能力値。

 竜鱗みたいな常時発動型のスキルも効力を失った結果だった。

 しかも他のプレイヤーから受けた支援(バフ)も無効化されていて、かけ直す事も出来ない状態になっている。

 その情報をジャックが仲間に回していると、一つの人影が息せき切って駆け寄ってきた。


「――アレンさん!」

「どうどう。アレンさんなら無事ですから、クリスさんは援護に戻ってくださいね~」


 血相を変えたクリスをジャックが押し留める。

 とりあえず大丈夫だと伝えるために軽く手を上げたところで、その向こうに二つの斬線が生じるのが見えた。

 今の僕に竜化している時ほどの視力は無い。

 でも、その時地上で散ったポリゴンの欠片ははっきりと視界に焼き付いた。

 見間違えるはずもない。それは目に見える死の形。

 単純に相手の手数が倍増した結果だ。

 まだ戦線が崩壊する程ではない。

 だけど、犠牲者は少しずつ生まれつつある。


 称号とスキルの効果。

 本来の手段より効果時間は短いけれど、まだ竜化する術は残されている。

 なら、まだ戦力外に落ちるには早い。


「戻らないと……!」

「待ってください!」

「それは得策じゃないですね~」


 竜化しようとした僕をクリスとジャックが左右から抑える。

 この形だと変化の過程で二人を傷つけるのは避けられない。

 かといって素の筋力では二人を払いのける事もできず、完全に封じ込められる形となってしまった。


「無理を押して死地に赴くなんて認めません。どうしてもと言うなら、私もついていきます」

「単独で相手の動きを半分潰せるアナタを使い潰すにはまだ早いと、軍師(ニムエ)サマも仰せですよ~?」


 覚悟を決めた瞳で僕を見据えるクリスに、急いで送られてきたのが分かるショートメッセージを僕に見せるジャック。

 反論も出来ない僕の視界の奥で、また一つの人影がポリゴン片となって爆ぜた。

 ちなみに、HPが0になったアレンを蘇生させたのは

 ジャックが密かに入手していたユニークアイテムの効果です。

 有効時間は極小とはいえ他の犠牲者を見殺しにしてアレン用にとっていたわけなので

 ジャックがタネを明かす事も、真相が明るみに出る事もありません。

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