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92.星核・下層――6

「――終わった、ようだな」


 ルッツがそう言って構えを解き、他の面子もそれぞれ身体の力を抜く。

 ……出番、無かったな。

 最終防衛ラインとして僕が残る時は、出番なんて来ないのが最良だって分かってはいるんだけど。

 まぁ経験値は普通に貰えるし、それで良しとするか。


「ところでルッツ、装備の耐久は大丈夫?」

「ああ。だいぶ減ったが、十分修復可能な範囲だ」

「なら良かった」


 ルッツが装備の修理を始めたとき、エリアの奥にあった滝に変化が生じた。

 流れる水が血のように赤く染まったかと思うと、みるみる内に干乾びていく。

 それまで滝壺だった場所を覗き込むと、思ったより深いその最奥には人一人が通れそうな大きさの門が設置されていた。

 青竜の彫刻が施されたその門は硬く閉ざされていて、開きそうな気配はない。


「ふむふむ、他のチームが向かった先のボスが倒されると連動して門が開くって感じみたいですね~」

「俺らは……撃破順で言えば三番目か。『裏切(ウラギル)』の奴らはまだ戦ってるみてぇだな」


 エンドに倣って掲示板を確認してみる。

 既に決着がついているのは渾沌に挑んだリューヴィたち「円卓」、そして朱雀に挑んだ攻撃力重視のチーム「バーバリアン」。

 幸いどちらも犠牲者は出ていないらしいけれど、「バーバリアン」の方は最終決戦用の切り札を一つ使わされてしまったと愚痴っていた。


 掲示板に上がっている情報によれば、渾沌の動きは全員に回避不能のデバフを付与する霧を撒いてくるというもの。

 当の渾沌自身はデバフを受けるほど逆に能力が上昇するという特性を持っているため、実質一方的な弱体化を受ける事になったんだとか。

 対する「円卓」は普段通り、支援に特化したロイヤルであるリューヴィのバフを要に三人のナイトで戦線を維持し、忍者コタロウとビショップのニムエの攻撃で削り切って倒したらしい。


 一方「バーバリアン」は、これまで特に定まったパーティを組まずに進んできたプレイヤーたちの集まりだ。

 ソロも多くなるプレイスタイル上か、彼らの能力構成には概ね共通して言える事がある。

 それは一撃の火力を最優先に、他の能力は最低限しか伸ばさないというもの。

 ジャックの例で分かるように、別に彼らのようなプレイヤー全員がそんな攻撃偏重というわけじゃない。

 というか、だからこそ「バーバリアン(蛮族)」なんて呼ばれているわけで。


 「円卓」の戦法は王道的なものだけど、「バーバリアン」の戦法はそれ以上に単純。

 最低限のHP管理だけ自己責任で行いつつ、敵をひたすら殴り倒す。それだけ。

 もちろん誰かが危地にあれば援護は入れるけれど、その戦いはまさに蛮族と呼ぶにふさわしい。


 ただ、そんな彼らと朱雀は相性が悪かった。

 広範囲に熱風を繰り出す攻撃を連発する朱雀を前に彼らは全滅の危機に陥り、敵の範囲攻撃を軽減する護符と味方全員のHPを大きく回復する神酒を使ってどうにか乗り切ったらしい。


 こちらからも青竜との戦いの顛末を掲示板に上げ、それぞれの状態について話し合う事しばらく。

 やがて最後のボスだった玄武の撃破報告が届いた。

 「バーバリアン」たちのように損耗を強いられたチームこそ幾つかあったものの、どうにか犠牲者は出す事なくそれぞれのボスを倒す事ができたようだ。


 ちなみに報告をまとめた感じだと、青竜たち四聖は単純なステータスの高さを、渾沌たち四凶は特殊な行動を特徴としていたらしい。


「――待たせた。こちらの回復は終わった」

「分かった。皆、行けるか?」

「無論」

「ああ」

「大丈夫だ」

「問題ない」

「準備万端よ」

「待ちくたびれたぜ!」

「よし、行くぞ!」


 リューヴィの声に、見事にバラバラな応えが返ってくる。

 もうそんな事は意に介した様子もない盟主(リーダー)の号令に従い、僕らもまた開かれた門へと足を踏み入れた。

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