90.星核・下層――4
「――ガァアアアア!!」
「【金剛壁】……通常攻撃ならこれで十分耐えられるか」
「じゃあ追撃いきますよ、っと! 【スプリットダガーズ】!」
「【ピアシング・エア】!」
「【ナイトニッカー】っ」
ルッツが構えた盾で青竜の一撃を受け止め、その隙に後方からジャックの短剣とクリスの矢が放たれる。
更に中距離からはエイミが【ダークスラスト】の上位に当たるスキルで闇属性の斬撃を飛ばし、その全てが青竜に直撃。
「ガ――」
「まだまだ!」
無数のダメージエフェクトを散らした青竜にクリスたちは遠隔攻撃を続け、ルッツとエイミは自身の得物を構えて直接攻撃を仕掛けていく。
そんな攻勢を押し返そうと腕を振り回していた青竜の口元に、さりげなく青い光が生まれる。
けれど僕が何か言うより早く、既にルッツが動いていた。
「――――」
「させん。【ブレイクエレメント】ッ」
かなり短い時間で溜めを終え解放されようとする青光へと叩きつけるように突き出された盾が白く輝く。
悲鳴にも似た金属音が響き、炸裂した光は破壊力を伴う事なく散らされ消えた。
「竜の動きはアレンで見慣れている」
「それにアレンより動きに芸もないし、ねっ」
「グルッ……」
反撃の一手を潰された青竜は忌々しいとでも言うように短く唸り、強引に身を翻した。
尾の一撃を警戒したルッツたちは回避を優先する動きに入ったけれど、クリスたち後衛にそれは関係ない。
お構いなしに着弾する攻撃によるダメージエフェクトを散らしながら青竜が飛び込んだのは、最初に登場した滝壺だった。
「……逃げた?」
「まさか。どっちかっつーと大技の前振りだろ」
呟きをエンドが否定すると同時、再び青竜が滝壺から飛び出してくる。
その左右に、無数の水蛇を伴って。
「アレンさん――!」
「お前らは自分の事を心配してろ!」
こっちを振り向いたクリスに落ち武者が叫び返す。
青竜の雄叫びを合図に、水蛇たちが一斉に牙を剥いた。
「【スピリットガード】ッ」
「それは駄目だ、ルッツ!」
「グルァアアアアッ!!」
エイミの声は間に合わず、ルッツの詠唱に従い半透明の結界が生成される。
駄目って……?
警告の意味を深く考えるより早く見えたのは、水蛇に先行して宙を駆ける青竜の姿。
【スピリットガード】は属性攻撃に高い耐性を持つ反面、物理攻撃には脆い。
青竜の一撃に呆気なく砕け散った結界の残骸を吹き飛ばしながら、無数の水蛇が襲い掛かってくる!
「アレン、離れるなよ」
「え?」
かなり離れていた僕らのところまで辿り着いた水蛇は、しかしエンドが容易く斬り伏せた。
そもそもこの落ち武者が後退しているのは【仙斬雲絶】の効果で実体の無いものしか斬れなくなった為。
水蛇に実体が無いってのは微妙なラインだけど、属性攻撃って事で対応可能な範囲内に数えられたのだろう。
一方ルッツは【ダッシュガード】で青竜本体の追撃を抑え、その間にエイミたちが水蛇を攻撃して消し去る。
あの水蛇、消すまで追尾してくるのか。
とはいえ、凌ぎきった――そう思った時、青竜が再び咆哮する。
「グルァアアアアッ!!」
なぜか脳裏をよぎったのは、かなり前に戦った大亀。
悪い予感というものは当たるようで……滝壺からは、たった今処理されたのと同じ数の水蛇が飛び出してくる。
これはもしかして、厄介な行動パターンに入ったか?
冷たい汗が一筋、背中に流れるのを感じた。




