87.星核・下層
……それから、またしばらくの時間が経ち。
真面目に色々と調査していたプレイヤーたちによって分かったのは、これ以上の探索は無意味だという事。
そういうわけで、この時間を引き延ばしていたい組も大義名分を失い……いよいよダンジョンへ戻る事が決まった。
タイラーさんたちお世話になった生産職プレイヤーの人たちに挨拶を済ませ、最後はセナさんにダンジョンへ送り出してもらう。
セナさんが手をかざすと、見覚えのない小さな宝石が白い輝きを放ち――。
「っ……!?」
気づいた時には全く異なる景色の中に倒れていた。
辺りには同じように起き上がるプレイヤーたち。
まだ倒れている面々もそのうち戻ってくるのだろう。
「なるほどなるほど、どうも後戻りはできないみたいですねぇ」
「え?」
「あちらをご覧あれ。部屋の外に続いてるのはあそこだけみたいですよ~」
近くにいたジャックに促されて目をやると、部屋の隅には大きな扉が一つ。
確かに、それ以外に外へ通じていそうな箇所は無い。
ちょうど部屋の反対側には分かり易く積みあがった瓦礫の山。
ゲームとしてはアレで帰り道を塞がれたって事なんだろう。
「アタシの破壊魔法ならどかせそうな気もするけどねぇ」
「試してみます? 万が一という事もあるかもしれませんし」
「そうですね。むしろこちらからお願いしたいと思っていたところです」
「うわっ!?」
エイミとクリスが話しているところに気配もなく現れるニムエ。
いや、クリスに驚いた様子が無いって事は気配もあったんだろうけど……違う、そうじゃない。
それはさておき、エイミのチャージタイムの間に部屋を改めて見渡してみる。
目につくのはさっきの扉と、あとはその傍にある大きなクリスタルくらいか。
どうやら部屋はクリスタルを中心に円を描くような形になっているらしい。
……あのクリスタルのおかげで崩落から守られたとか、そんな感じなんだろうか。
「――あれっ」
「どうしました?」
「魔法が……掻き消された。少なくともここじゃ【名も無き死槍】は撃てないみたいだ」
「なら、物理攻撃を試すとするか」
残念そうに鎌を下ろすエイミに代わって進み出るエンド。
瓦礫の山の正面に立つと、落ち武者はサブウェポンに使っている大剣を大上段に構える。
「やれやれ、こんな形で初披露とはな。――【天崩雷禍】ッ!」
「ちょっ、これって――」
「アレンさん掴まってください!」
轟音、そして衝撃波が部屋中を荒れ狂う。
余波だけで下手な風魔法より明らかに強い猛風に飛ばされそうになり、咄嗟にクリスが腕を掴んでくれたおかげでどうにか事無きを得る。
風が収まった時、瓦礫の山があった場所にはただ深い斬痕だけが残されていた。
瓦礫が跡形もなく吹き飛んだ向こうには別の瓦礫の厚い層。
その奥にあった扉は真っ二つに断たれ、更に先には更なる瓦礫がぎっしり詰まっていた。
「ありがとうございます、エンドさん。やはり外に出られそうにはありませんね」
「だな。……悪いが出発は少し待ってくれねぇか。回復もそうだが、反動でしばらく動きにくいんだ」
「分かりました。準備が出来たらまた教えてくださいね」
そう言ってどっかりと座り込むエンド。
今のは……その凄まじい威力といい、クリスの加速に類するような奥の手の類なんだろうか。
僕なんかは身近に同じだけの破壊力を初期から発揮できるエイミが居たから感覚も鈍りがちだけど、そもそも地形は基本的に破壊不可能って前提があるのを考えるとその規格外ぶりは目を見張るものがある。
何よりエンドはエイミとの決定的な違いとして、侍という物理戦闘メインのジョブであれだけの火力を備えている。
それはつまり反動こそあれど、戦闘中に僅かでも隙があればあの斬撃をいつでも叩き込めるという事。
……流石、このデスゲームで序盤からソロプレイなんて酔狂な真似を貫いてきただけの事はある。
頼もしい限りだ。




