8.平原――2
破壊魔法の威力を見せ付けられてから数日が過ぎた。
万が一にも誤射とかあったら洒落にならないレベルだったけど、そっちは本人も痛いほど認識してるらしいからそこまで心配していない。
広範囲攻撃の射程内にプレイヤーがいる時は、行使者側に警告も出るらしいし。
ちょっと考えて怖くなったのは、竜に変身してる時に遠くからアレ撃たれたら即死するんじゃないかなってこと。
まあ、出るかどうかも分からないPKに今から怯えてるのもバカな話だけど。
それにPKが出たとして破壊魔法スキルを取ってる可能性なんて更に低いわけだし。
メインシナリオの方では昨日大きな動きがあった。
現在攻略の最前線に立っているβテスト経験者のPTが最初のエリアボスに挑んだのが昼過ぎ。
そして彼らが無事にボス討伐を果たし、情報を掲示板に公開したのが夕方の事だった。
その内容によると、平原のエリアボスはβテスト時代と同じ亜種ゴブリン。
動きは一部の俊敏な攻撃動作を除けば全体的に鈍く、特殊な攻撃もせいぜい尻尾を使った薙ぎ払い程度。撤退も容易なボス戦らしい。
ただしβテストと異なる点も幾つかあるんだとか。
一つは取り巻きに四匹のゴブリンがいること。
もう一つは能力に全体的な底上げがされていて、かなり打たれ強いこと。
一撃の威力も高めではあるが、最低限のレベリングをしていれば防御の低いプレイヤーでも即死には至らないだろうと推測されていた。
――この亜種ゴブリンはボス戦の練習相手にして、序盤の戦闘技術の試験官ポジションにあると思われる。
情報の最後は、そう締め括られていた。
「――それで、アタシたちもボスに挑もうと思うんだけど」
「ああ」
「折角だし、浅瀬の方のボスにしない?」
「良いと思う」
「待った」
コンマ一秒の躊躇いもなく頷いたルッツに一撃。
街中どころかルッツの部屋で話しているため、残念ながらダメージは入らない。
ルッツを殴りつつエイミの方に向き直る。
「浅瀬のボスって言うと、βテストなら巨大ロクラブだっけ?」
「アイアンハーミットだね」
「まあ、最初のボスではあるしゴブリンの方とそう変わりないとは思うけど……やっぱり最初は情報上がってる方にした方が良いと思うんだ」
「私もアレンさんに賛成です。私たちの構成上、できる限り慎重に進むべきかと」
「うーん……」
「……そうだな。浅瀬に行くのはゴブリンの後でも良いだろう。遅かれ早かれゴブリンとは戦うことになるのだし」
一応運営側も初見殺しは無いって明言してるし、大丈夫とは思う。
でもやっぱり最初は一番リスクの小さいところから挑みたい。
途中で正気に戻ったルッツも加わって三対一。
最初のボス戦は亜種ゴブリンに挑むことになった。
「「「ごちそうさまでした!」」」
「はい、これが装備。気を付けていってらっしゃい」
「分かってるって!」
「安全第一で慎重にいきます」
十分過ぎるほど集めたグレートフィンの素材をふんだんに使った装備一式をセナさんから受け取り、料理効果の付与も済ませて出発する。
平原の魔物を適当に蹴散らしつつ、何もないところにポツンと立っているゲートの元へ。
……ゲートをくぐらずに進んだら先はどうなってるんだろう?
進んでみると一瞬だけ視界が暗転。
そのすぐ後、普通にゲートを潜ったルッツとクリスが現れた。エイミも僕同様ゲートは通らなかったのか、ゲートの横から姿を見せる。
「ここってもうダンジョンなんだよね? 外と変化なくない?」
「いや、よく見ろ」
「ん……?」
「あちこちに茂みが」
「ああ、そうだね」
「「「ゴブゴブゴブ……」」」
「「ぬおっ!?」」
なんか近くの茂みがガサガサいったなーと思うと、自己紹介のような唸り声と共に四体のゴブリンが現れた。
なるほど、このダンジョンだとこういう形式で敵が出て来るのか。
……って、つまりあの茂み全部エネミー発生ポイント?
「【百舌狩り】!」
「「「ギャアアア!」」」
クリスが使った【百舌狩り】は複数の矢を同時に放つスキル。
それは正確に四体のゴブリンを射抜き、一瞬で撃破した。
これも掲示板の情報だけど、ボスに挑む時のボーダーは取り巻きのゴブリン四体を楽に仕留められるレベル。
この分だと大きな問題は無いだろう。
その後は矢の節約も兼ねてルッツとエイミが積極的に前に出てエネミーの相手をしつつ前進。
このダンジョンの雑魚敵で一番強いのはゴブリンだけど、僕でも楽に戦える程度の相手だ。
茂みに埋もれたボスゲートに辿り着くまで、そう時間はかからなかった。