79.星核・中層
祭りの中でクリスとの距離が縮まったり縮まらなかったりした翌日。
流石に喧騒は一夜で収まり、プレイヤーたちはそれぞれの攻略作業に戻っていた。
具体的にはガーディアンオブメモリー戦で得た素材を使った武器強化だとか、あの戦いを通しての戦闘スタイルの調整ってところか。
ちなみに僕らについては特に大きな変化は無かった。ボス素材はそのまま装備強化に放り込んで、性能がこれまでより一段階向上したくらいだ。
そこで、他のプレイヤーの欲しがってる素材を適当に収集しようと思ってたんだけど……。
「っ――範囲攻撃、来ます!」
「【スピリットガード】!」
クリスの警告にルッツがバリアを展開した直後、影絵のような人物が掲げた杖から炎の嵐が放たれた。
炎とせめぎ合う向こう側からバリアを破ろうとしてくる別のシルエットはエンドの斬撃とジャックのナイフが仕留める。
バリアの消滅に合わせて二人とクリス、エイミが突っ込み、そのまま残る敵も一息に蹴散らした。
「他に敵の気配は……ありませんね」
「だな」
「そうか」
クリスの言葉にエンドが頷き、ルッツたちも警戒を解く。
僕らにエンドとジャックを加えた六人は、リューヴィの依頼でGOMを倒した先……星核中層の探索に訪れていた。
マップを作るという事は結果的に罠も全部踏む事になるが、そこはクリスが事前に見抜き、或いはエンドが物理的に破壊する事で対処できていた。
そこに本来こういう場面で唯一の命綱になるはずのジャックのスキルであるトリックも加わり、ニムエ曰く盤石の態勢で探索は順調に進んでいた。
「はぁ……」
「おやおや、浮かない顔ですねアレンさん? 知り合いの姿でも見ちゃいました~?」
「っ……まぁ、そんなとこかな」
急に絡んできたジャックに図星を突かれて僅かに言葉に詰まる。
ここ、星核中層に出てくる敵はさっきと同じ人型のシルエットばかり。
その中でも魔法タイプ、物理タイプ、攻撃系、補助系と色々なバリエーションで現れるんだけど……たまに、その中に昔斃れたはずのプレイヤーが混ざっているように見える。
それはただの感傷とかじゃなく、例えば相手が使ってくるスキルであったり、またはその戦い方であったり、そういうところに面影が見えてくる感じだ。
さっきの戦いだとルッツの【スピリットガード】を破ろうとしていた斧使いのシルエット。
あんな風に居合じみた構えで斧を操る酔狂なバーサーカー、わざわざこんなモブ敵のAIとして作る意味があるだろうか。
「今に始まった事じゃありませんけど、ホント悪趣味な運営ですよね~。戦ってる方も気が滅入るってもんです」
「その言い方だと、そっちも?」
「ですよ? プレイスタイル上、そういう知り合いは割と多いですからねぇ」
「ジャック……」
仮面の奇術師の声がしんみりした響きを帯びる。
確かにソロプレイヤーという形を取りながら不特定のPTに混ざる事が多いジャックは、攻略についていくのがギリギリのプレイヤーからすれば心強い助っ人として頼られていた。
でも、そんな形で助けられて次のエリアに進んだプレイヤーたちは独力で進んできた他のPTに地力で後れを取る部分も目立ち……結果として散っていった者も少なくない。
「あ、アレンさんそこは――」
「え?」
なんとなく声をかけづらいと思っていると、足元からカチリという音が響いた。
地面が消え、独特の浮遊感が身体を包み……がしっと両腕を掴まれる。
右腕はさっき隣で話してたジャックとして、左腕のクリスってPTの先頭を歩いてなかったっけ?
「アレンさん、引き上げますよ~?」
「……ジャックさん。アレンさんと話すのは構いませんが、罠の確認はちゃんとやってください」
「あはは……済みませんねぇ。以後気を付けま~す」
なんだか微妙に尖った空気の二人から軽く引き上げられる。
体格上の問題だから仕方ないとはいえ、こうも易々と持ち上げられると男としては、こう……微妙な気持ちにもなる。
「罠はっと……うわ、電撃とかえげつねぇな」
落とし穴を覗き込んだエンドが心底嫌そうな声を上げる。
僕もそれに倣ってみると、落とし穴の底に張られた青白く光る網からはバチバチという音と共に火花が散っている。
あれに引っかかれば自力で上るのも勿論、上から回収するのも場合によっては電流のせいで手間取るだろう。
……うん。完全に落ちる前に止めてもらえてよかった。




