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73.ガーディアンオブメモリー――3

「――ギッ……ガガ、ギ……」

「っ……また変わるぞ!」


 変身の予兆であるノイズがボスから漏れ始め、それに気づいたプレイヤーの一人が警告の声を上げる。

 そして再び滲みだす不気味な光。


「さぁ、次は何が出る……?」

「――ギャオオオオオオオオオオッ!?」

「ぐっ……!」

「うおっ!?」


 耳をつんざくような雄叫びと共に僕のところまで伝わってくるような突風が巻き起こり、ボスの近くにいたプレイヤーたちがその煽りを受けてたたらを踏む。


「ボスはどこに――」

「上だ! 来るぞ、避けろっ!」

「いいえ、皆さんは集まって! 盾職のプレイヤーは範囲防御を!」

「了解した、お前たちも合わせろ! 【スピリットガード】!」

「【奇門遁甲:防陣】【水遁】!」

「【アミュレットリンク】ッ」


 直後、プレイヤーたちの叫び合う声を轟音が押し潰した。

 上空から放たれた息吹(ブレス)が爆発し、ルッツたち盾職の展開したバリア系スキルに衝突して激しく火花を散らす。


「防げた、か……?」

「次が来ます、散開して!」

「ガァァァアアアアアアアアアア!!」


 息を突く間もなく軍師(ニムエ)の指示が飛ぶ。

 それとほぼ同時に、ブレスを防がれた事に苛立ったような咆哮が響いた。


 反応が遅れたプレイヤーの一人を角に引っ掛け突進の勢いのままに吹き飛ばしたのは巨大な亜龍(ワイバーン)

 爆翼の急襲者バーストウィング・レイダー……メインエリアの一つ、山岳を支配していたボスだ。

 その特徴は完全飛行能力。

 それまでのボスがしていたような浮遊とは違い、爆発するブレスで高空から一方的な攻撃を仕掛けてくるのが特徴。


 当時のセオリーとして存在した勝ち筋は主に二つ。

 一つは防御なり回避で爆撃を防ぎつつ、遠距離攻撃を主軸に攻めて削り切る方法。

 もう一つは、爆撃を防がれると突進攻撃を仕掛けてくるのを利用して近接攻撃職でカウンターを決める方法。

 そして、僕らが当時このボスを攻略した方法は――。


「――アレンさん、お願いします!」

「了解! 【起動(スタートアップ)竜化(アセンション)】っ」


 ニムエの指示を受けて竜化。

 あの時から更に成長したこの身体は、もはや我が物顔に翼を広げる亜龍を前にしても何ら見劣りする事は無い。


「グルァアアアアアアアアアッ!!」

「ッ……」


 宣戦布告代わりの【竜哮(シャウト)】を放ち、宙を蹴って亜龍へ肉薄。

 振るわれた翼を前肢で受け止めると小爆発が連続するが想定の範囲内だ。

 むしろ反動を利用して更に回り込み、その上空から身を翻す。


「この俺を見下すとはいい度胸じゃねぇか! ――【旋月】ッ!」

「ギッ――」

「【竜爪:風雪】【竜閃】……【ツインブレイク】!」

「ギャァアアアアアア!?」


 強烈な尻尾の一撃に身をよろめかせた亜龍を、更に爪で斬りつけていく。

 かつての初戦は翼の爆発にこそ不意を打たれたものの、大体こんな展開だった。

 そしてあの時と同様に……。


「ギャオオ――」

「――【シューティングスター】!」


 下界にいるプレイヤーたちのざわめきの中でもはっきりと聞き取れる狩人(レンジャー)の声。

 クリスが放った正確無比な一矢は、今回もまた亜龍の右眼を貫いてみせた。

 痛撃に絶叫を上げる亜龍。

 だが、以前と違う事は……。


「こっちも行くぜぇ! 【バーミリオンジャベリン】!」

「【定義(デファイン):ライフル】【狙撃(スナイプ)】ッ!」

「【スパイラルカノン】!」


 ここには五十人余りの最前線プレイヤーが集結しているという事だ。

 クリスに続くように放たれた無数のスキルが炸裂し、亜龍の姿を呑み込む。


「やったか!?」


 バカ言え、ボスがこんな簡単に倒れるわけねぇのは知ってるだろうが!

 妙なフラグ立てんな!

 そう考えながら亜龍のいた場所を油断なく見据え……煙が晴れた時、その空間には何も存在していなかった。


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