72.ガーディアンオブメモリー――2
ガーディアンオブメモリー……それは鏡の身体を持つ巨人。
NPCなどから事前に得られる情報によれば、この巨人は星核の本来の主であり、守護者にして番人であったという。
しかし今それは狂った龍神と邪悪な堕天使に操られ、そいつらの元へ向かおうとする者に襲い掛かる尖兵と化しているとの事。
この龍神と堕天使っていうのは、まず間違いなくこのゲームのラスボス……最初に広間へ現れたバルティニアス、そして前の称号獲得イベントのように時折プレイヤーに関わってきたクロアゼルの事だろう。
GOM自体の能力は星核に蓄積された記憶を引き出す……要するにこれまでのボスに変身するというもの。
僕には法則とかその辺まで推測するわけにはいかないけど、どうやら一定のダメージを受けるごとに異なる姿にシフトしているようだ。
「ク……クク、ク……」
「また姿が変わったぞ!」
不気味な光を放ちながら、巨体が再びその輪郭を変える。
華奢な体躯に見合わない肥大した両腕。
神経を逆撫でるような嘲笑。
そして何より、視界を奪う濃霧を忘れるはずがない。
「虐殺者ヴラディ」……それも、これまでの道中で相手にしたような劣化コピーとは違う。
ステータスに補正が掛かった今はあの時以上の難敵。
メインエリアからは外れたボスだから、もしかしたら出番は無いかと思ってたけど……そう甘くは無かったか。
「――まずは視界を取り戻します! 皆さん、風属性の攻撃を! 【シルフィード】!」
「「「承知した! 【乱唱連魔】【風遁】!」」」
「【台風弾】!」
霧を裂いて響いたのはニムエ……「円卓」でリューヴィの補佐を務めるビショップの声。
ビショップは系統で分けるならエイミのソーサラーに近い魔法職。
単純な破壊力なら【破壊魔法】には及ばないものの……いや、全プレイヤーの中でも最大火力の【破壊魔法】と比べれば仕方ないか。
とにかく、単純な攻撃力は高くないビショップの利点は手数の多さ。
適性スキルである【自然魔法】はあらゆる属性を網羅し、【聖魔法】は攻撃から補助まで様々な用途の魔法をカバーする。
そういう点では専用スキル【破壊魔法】を筆頭に攻撃力に特化したソーサラーとは対極に位置するジョブと言えるかもしれない。
だが、「軍師」の異名をとる彼女の最大の武器は、スキルみたいなシステム的なものに頼らない本人の指揮能力。
僕の身近な例を使って例えるなら、戦闘スペックをそのまま指揮能力に置き換えたクリスやエンドみたいなものか。
普段の彼女はパパラッチ気質というか絡まれたら面倒みたいなところもあって敬遠されがちだけど、そうして得た情報に基づいた的確な判断はこの上なく心強い。
……今回の大規模ボス戦を前に大義名分を得た彼女のインタビューに際して築かれた死屍累々の山についてはひとまず忘れるとする。
こうして完璧な指示も飛ばせるのに、なんで普段はあそこまで話が脱線するんだか……。
竜化もしてないのに「俺」に切り替わりそうになったのは初めてかもしれない。
「一回当たりの消費SPが40以下の人たちは風魔法で視界を維持、それ以外のアタッカーは炎属性か雷属性で攻撃! 属性無い人は手近な人に付与してもらってください!」
「【飛刃雷爆】ッ」
「【乱唱連魔】【火遁】!」
「ガッ……!」
って、「裏切」の忍者たちはさっきから速いな!
ニムエの指示が終わる前から行動に移って、しかもきっちりダメージを与えている。
「――アレンさん、雷属性の付与をお願いします」
「アタシも頼むよ」
「任せて。【ソウルエンチャント】!」
クリスとエイミが差し出した武器に手を添える。
使うのは竜化してなくても使えるって意味でも補助タイプって意味でも数少ない珍しいスキル。
それは竜としての僕が扱える属性から一つ選んで、触れている武器に付与するというもの。
武器に紫電を纏わせた二人は異腕を振るう吸血鬼の元へ臆す事なく突っ込んでいく。
……二人とも、本来は後衛職だよね?
こんな時に今更だけど、そう思わずにはいられなかった。




