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71.ガーディアンオブメモリー

 ……そして、主だったプレイヤーたちの準備が整った頃。

 ダンジョンの中にあった特に広い空間を利用した何度かの演習を経て、いよいよボスに挑む事になった。

 ゲートになっている巨大な鏡壁の前に五十人近いプレイヤーが集まった光景は、演習の時から何度か見ていても慣れるものじゃない。

 今までプレイしてきたオンラインゲームのレイドボス戦直前なんかの様子も、現実になったらこんな感じだったんだろうか。


「さて――」


 そんな集団の先頭でお立ち台の上から声を上げたのは中華風の鎧に身を包んだ眼鏡の青年。

 ゲーム攻略初期から先陣を切り続けたチーム「円卓」の代表格であるロイヤル、リューヴィだ。

 人数制限の無いこの星核(アクシズ)のボス戦に関して形式上でもなんでも盟主がいた方がいいだろうって話になった時、譲り合いというか押し付け合いの末にその座についた苦労人でもある。


「ボス戦での動きについては、今更こちらで繰り返すつもりはない。不安があるようなら各自で確かめるように。……ここで演説をするような柄でもない、さっさと締めさせてもらう。――行くぞ! 俺に続け!」

「「「おおおおおおおお!!」」」


 マントを翻してリューヴィがお立ち台を降りると一部のノリの良い連中が歓声を上げ、周りのプレイヤーもそれに続いた。

 彼と円卓の面々を追うように、他のプレイヤーたちも次々ゲートを潜っていく。


「よし、アタシたちも行くとするかね」

「ああ」

「ハンターズ、汝らに戦神の祝福のあらん事を」

「そっちもね」


 割と顔見知りになった「裏切ウラギル」の忍者の挨拶に頷きつつ、僕らもゲートを潜った。


「っ……」


 ゲートを潜った先にあったのは、鈍く輝く黒曜石で出来た広間。

 床にも、壁にも、天井にもよく分からない言語の文字らしきものが刻まれている。

 空間の広さは訓練に使っていたダンジョンの一画と同じくらい。

 そして……その中心には、鏡の身体を持つ巨人が立ち尽くしていた。

 表示されている名前は「ガーディアン(記憶の)オブメモリー(守護者)」。


「ガ――ガガッ――し……侵入……者――ガガ――排……除……排除……!!」


 そこだけ虚ろな闇になっているフードに隠れた顔。

 その瞳にあたる部分が、禍々しい赤光を放った。


「【加速の号令(アクセルコマンド)】!」

「行くぞ!」

「暗黒の刃に沈むがいい!」


 戦闘が始まるや否や、機動力に長けたパーティがボスの背後に回り込む。

 リューヴィの支援スキルの効果もあってあっという間に包囲網が完成すると同時、クリスたち遠隔攻撃プレイヤーの攻撃が始まった。


「ギ……ガガ――ギゴッ……ゴブォオオオ!!」

「っ、壁役の人たちは前に!」

「任せろ! 【ダッシュガード】【金剛壁】【ストライクバッシュ】!」


 敵の放つノイズがどこか聞き覚えのある咆哮となり、その姿が亜種(バリアント)ゴブリンのものへ変わる。

 このゲームで最初に立ちはだかったメインエリアのボス。

 それがハルバードを振るおうとした時、何かを察したクリスが警告を飛ばす。

 真っ先に反応したのはルッツ。

 スキルを三つ重ねたナイトの盾が轟音と共にハルバードの一撃に拮抗する。


「ヤバっ……!」

「急げ! 【金剛壁】!」


 外見が初期ボスそのものでも力はあの魔王(バウルザーハ)にも迫る事を、ルッツが稼いだ一瞬の間に理解したプレイヤーたちが後に続く。

 やがて均衡は破れルッツは吹き飛ばされたが、他の防御職プレイヤーが食い止めたおかげで後衛に被害が及ぶ事は無かった。


「ルッツ、回復」

「助かる」


 吹き飛んだルッツの元に【駆影術】で駆け付け、回復薬を振りかける。

 これが最終ダンジョンを守るボスの力……。

 でも、今ヤツが模しているのが最弱ボスに過ぎないのもまた事実。

 戦いは、まだ始まったばかりだった。


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