70.星核・上層――3
「――【竜閃】……【旋月】っ」
「ガギャッ……」
「【ツインブレイク】!」
「ギャァアアア!?」
竜腕を振るってガードを崩し、鋭い爪を備えた竜脚の一撃を叩き込み、その勢いを保ったままトドメの一撃でゴブリンを打ち砕く。
「うーん……ちょっとこの相手にはオーバーキルだったかな?」
「元々ボス戦での万が一を想定しての練習ですし。それに動きはかなり様になってたと思いますよ?」
「そう? まぁ、クリスにそう言ってもらえるのは心強いかな」
ちなみにそんな会話を続けながら、クリスはナイフを投げて他のエネミーと戦うルッツとエイミの援護も行っている。
いや、クリスも言った通り今は万が一を想定しての練習なんだし、慣れない事してるんだからこの結果も当然なんだけど。
……ひとまず、主に称号獲得イベント関連でプレイヤーの足並みが揃うのを待つ間、僕らは星核でレベル上げに勤しんでいた。
今日は【竜化】に頼らない戦闘の訓練のために浅い層で戦っている。
万が一の場合っていうか、具体的には【クイックシフト】ってスキルが関係している。
その効果はごく僅かな時間に限り任意の竜化スキル……つまり【竜頭】【竜腕】【竜脚】のうち一つの効果を得られるというもの。
有効時間はそれこそ頑張って一連のコンボを繰り出せるかどうかってくらい短いけど、その代わりというべきか特に代償やデメリットもない。
大体【竜化】の効果が切れた時の非常用か、もしくは以前PK集団が猛威を振るっていた時の不意打ちに不意打ちで返すためのスキルって事になる。
今までは【竜化】だけでなんとかしてきたし、このスキルは本当に非常時の一発ネタって感じだったんだけど……。
クリスが一応それも手札として使えるようにしておいた方がいいって言うから、時間にも少し余裕が出来たしこうして練習する事になったわけだ。
「――【竜閃】!」
「ギャッ……」
【駆影術】でゴブリンの背後に転移し、竜腕を一閃。
クリティカル判定が出たのか相手の首が刎ね飛び、一撃で消滅した。
……洞窟の中にいるこの状態だと【駆影術】は実質ちょっとしたワープと同様の力を発揮する。
というよりアレだ。
少なくともこのゴブリンたちに関しては、極論【駆影術】で背後に転移からの【竜閃】で首刎ねを繰り返すだけでSPの許す限り殲滅できる。
「雑魚狩り専用能力かな?」
「さ、採取にだって使えるし!」
エイミの軽口に冗談で返し、今度はヤドカリを相手にコンボの練習に戻る。
僕自身の火力の関係から、ボスに挑む時にこれが活きるかは微妙なのは事実。
もちろん転移能力の強力さは把握してるし、緊急回避なんかにはもってこいだろうけど……影を経由するって制約がな。
場所によっては無力ってのもそうだし、竜化して飛んでるときには使えないのも相性が悪い。
……それくらいじゃないとバランスが壊れるっていうのもあるんだろうけど。
実際、もしこの力を得たのがクリスだったらと思うと地獄絵図になるのは想像に難くない。
そういえば、称号獲得イベントと言えば戦闘職プレイヤーに限った話ではないらしい。
生産職プレイヤーの一部も、今回ばかりは直接命を賭けて臨む事になったようだ。
例えばゲーム当初からお世話になっている細工師のタイラーさんの場合は、動きの精密さが生死を分ける特殊なボス戦。
同じく最初期からお世話になっているエイミの母さん、セナさんの場合は過酷な環境のステージで装備を鍛造する荒行。
確かタイラーさんの称号が【繊細辣腕の粋匠】、セナさんは【鍛魂の闘工】だったはずだ。
ちなみにそうした生産職の称号効果はそれぞれ自分が作成するアイテムに固有効果が備わるようになる事、そして固有素材の獲得。
固有素材っていうのは生産職としては共通というか……要するに細工師の魂とか鍛冶師の魂って名称の素材で、この称号獲得に伴うボーナスでしか得られない。
エイミの大鎌、ルッツの盾がそれぞれこの魂素材を使って強化されている。
また、僕らが使っている装備は直前のメインエリアを守っていた魔王の素材を使ったもの。
熟練度とか諸々の要素を考えれば、今後のボスを倒して素材が手に入ったとしてもベースは今使っている武器になるだろう。
いよいよ迫ってきたゲーム終盤の気配を改めて感じ、言いようのないプレッシャーを感じる。
その感覚を振り払うように、僕はまた竜腕を薙ぎ払った。




