7.浅瀬の洞窟――3
「――ほら、装備も仕上がってるわよ」
「ありがとうございます」
翌日、セナさんの元で一新された装備を受け取る。
初期装備だし元の性能が値一桁程度のものだったってのもあるけど、新装備のステータスは二倍近くに跳ね上がっている。
ついでに僕はナイフも作ってもらった。
これでスキル全部使えない時でも戦える! ……素の能力が極低って点にはこの際目を瞑ろう。
掲示板によればスキルにはステータス補正も含まれていて、例えば剣術スキルを取ると筋力や敏捷等が、魔術系スキルを取れば魔力や精神が強化されるんだとか。
一応物理戦闘を主体にするジョブでありながら最初の敵を一撃で落とせなかったのは、ごく一部のネタ構成プレイヤーだけらしい。
ちなみにそのネタプレイヤーはロイヤルというジョブだが、敵味方のPT全体に作用するサポート系専用スキルを使って頑張っているそうだ。
町じゃ外見が平時用の恰好に限定されるから、着用姿をその場で見られないとセナさんは残念がっていた。
僕らはステータス画面から自分の姿だけ確認できるけど……うん、デザイン的にもシンプルにまとまっていて良い感じだ。
セナさんに礼を告げると、僕らはまたレベル上げに町を出た。
「【竜爪・火炎】! ……あれ?」
「【クイックシュート】っ」
「【クラッシュコンボ】!!」
炎を纏った竜腕がグレートフィンを斬り裂く。
傷口から炎が燃え上がる演出とは裏腹に削りきれなかったHPはクリスとエイミの連携で刈り取られた。
やっぱり魚に火属性だと相性が悪いのかな? 追加ダメージ込みで考えても炎付与無しの方が効いてるし。
……僕らが向かった先は、エイミと出会った小部屋。
βテスト時との変更点の一つとして、ダンジョンにこうした経験値稼ぎ用の部屋が用意されたことがある。
確かインスタントマップと言うんだったか、PTごとに違う部屋が用意される為に経験値の奪い合いにもならない仕様らしい。
というか、それはそれとして……。
「エイミ、その腕どうしたの?」
「ん?」
さっき連続攻撃する時に見えたんだけど……エイミの腕は、白骨化していた。
この分だと多分、革のグローブで隠れた手の部分も骨なんだろう。
町では普通に生身だったよね?
エイミの説明によれば、それは護身杖術スキルの【死神の腕】を取った常時発動効果の一つ。
杖を装備すると自動的に刃が生えて鎌になる他、様々な能力習得の起点になるんだとか。
「回復反転とか無いの? うっかり大ダメージとか洒落じゃ済まないよ?」
「今はまだ大丈夫。まあ、スキル成長の時はきちんと確認するわ」
話しながら戦果の確認をしていると、少ししてまた新手のトビウオの群れが出現した。
さっきのグレートフィンは、βテストの時は存在しなかったエネミー。
この部屋限定で出現する小ボス扱いで、他のダンジョンでも同様のエネミーが確認されているらしい。
まあ、トビウオを含めて並の敵ならスキルで蹂躙できる。【竜腕】の効果時間中は僕の独壇場だ。
「おっと……じゃあ、後は宜しく」
「よし、出番か」
やがてスキルの効果時間が終わる。
三日天下って言葉が脳裏を過ぎった。……忘れよう。
入れ替わりに、心得スキルで回復と装備の手入れをしていたルッツが立ち上がる。
皆HPは回復してるし初期エネミーの攻撃は回避も容易、おまけにダメージまで微量と来れば……展開は一つ。
三人とも接近戦モードで群れに飛び込み、瞬く間に蹴散らす。
僕? まあ何もしなくても経験値は入るし、クールタイムでスキルは育てられないし。周囲を警戒という名の傍観タイムだ。
ああいう乱戦では同士討ち防止のシステムアシストが働いてるらしい。
よく見てると、確かに時々ルッツやエイミの初動に妙なラグがあるのが分かる。
本当に微妙な修正レベルだからか、最初ルッツが乱入した時みたいな状況じゃ働かない感じなのかな?
……お、グレートフィンだ。
「あのさ、ちょっと破壊魔法の威力を試したいんだけど良い?」
「分かった」
「了解です」
エイミは後ろに下がると、詠唱に入り周囲に小さな光を漂わせる。
……いや、光というか赤かったり黒かったりしてこの時点で既に危険そうな気配。
グレートフィンも何か感じるものがあったのか、心なしか攻撃が激しくなった。
クリスも後退して弓矢でルッツを援護する。
それから、やけに長い詠唱時間が過ぎた。何回目かくらいに「詠唱まだ?」って尋ねようかと思った頃、エイミが声を上げる。
「お待たせ! 攻撃範囲その魚の身体の二倍ちょっとあるから、急いで左右に避けて!」
「分かった。【バッシュ】」
巨大魚の突進に対し、ルッツはカウンター気味に盾を打ち込む。
鼻面に直撃を受けた魚が怯んだ隙に二人は攻撃範囲から逃れる。
グレートフィンが体勢を立て直そうとしたその時、少し後ろにいた僕まで竦むほどの威圧感がエイミの身体から発せられた。
「――【名も無き死槍】」
放たれたのは極太の黒い奔流。
それは一瞬で巨大魚を飲み込み、射線上にあった岩壁にぶつかって落雷のような轟音を上げた。
魔法が収まった時、岩壁に残されていたのは放射状の罅割れと深い穴。
確か、地形って……破壊不可能じゃなかったっけ……?
絶句する僕ら三人の視線の先で、腰を抜かしたエイミがぺたんと座り込んだ。