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67.エベルブフ

 ちなみにここ数話のサブタイトルは、転移先のマップの名称です

「【百舌(もず)狩り】っ!」

「――――!?」


 空中を駆ける()の上という不安定な足場からクリスが乱射した矢は正確に異形の天使の全身に蠢く眼球へ突き立った。

 やけに不気味な流血のエフェクトを伴いつつも、相変わらず天使が発する歌声のような音にも驚愕が混ざっているように感じられる。

 単純な弱点ダメージ故かクリスの技量によるものか、怯んだ天使の勢いが完全に殺される。


 さっきミノタウロスと戦ってた時に消費した分のSPは回復してるな。

 なら、燃費を気にする必要は無ぇか。

 どこか普段のエリアとは異質な空気を吸い込み、生半可な攻撃魔法なら容易く退ける吹雪に変換して吐き出す。

 【アイスブレス】の上位スキル、【ブリザード】。


「――――!」

「ん?」


 天使が発する歌の調子が変わる。

 竜鱗から伝わってくる気温が上昇し、虚空に生じた輝く炎が吹雪を押し返す。

 ……だが、十分。


 ブレス系の上位スキルで生み出したものはある程度自由に操れる。

 いま吹雪を変化させて作ったのは巨大な氷板。

 炎によって溶けつつあるそれを押しやり、天使の身体に押し付ける。


「――――!」

「吹ッ飛べ――【砕山衝】!」


 放ったのは本来、斬撃武器で打撃属性の攻撃を放つためのスキル。

 だが、これにはもう一つの効果が隠されている。

 つまり……間に何かを挟んだ状態で使うと、相手を吹き飛ばすのだ。

 流石に星にするとまではいかなかったが、それでも天使の巨体を確実に押し返す事に成功する。


 ――クリスの技と俺の力で、迫る天使を少しずつ押し返す事しばらく。


「アレンさんっ」

「分かってらぁ!」


 長い付き合いだ、もう合図が無くても感じ取れる事だってある。

 背後で高まったプレッシャーに大人しく道を開けると、空間を貫いて迸ったのは漆黒の魔力。

 最初期からその威力を存分に披露してきた破壊魔法【名も無き死槍】に大穴を開けられた天使は力を失い地上に墜ちていく。

 その末路を見届けるより早く視界が暗転した。


 ……そこからも同じような戦闘が何度も繰り返された。

 いや、同じようなという言い方は語弊があるか。

 攻撃側、迎撃側、対魔、対軍……状況も、そして決め手となる破壊魔法の種類もそれぞれ異なる戦闘。

 今まで俺やクリスが攻略したイベントが単純な戦闘力を試すものだったとしたら、これは判断力だとか破壊魔法への理解力を試していると考えれば良いのだろうか。

 その都度サポートに回される俺たちPTメンバーだが、回数を繰り返すうちにこれは俺たちが居る事で難易度が下がっているものの、最悪エイミ一人だったとしてもクリアは不可能でない程度のバランスになっている事は理解できた。


 ただ、一度使う破壊魔法の種類を誤ったと思われる戦闘の時。

 あの時は俺たちも結構追い詰められた事も加味すると、そういう意味では実質サポート必須と言えるかもしれないが。


「――【邪神の怨嗟】!」

「zくぁwxせcdrfvtgびゅhんjみkおl!?」


 エイミが翳した鎌から溢れだした漆黒の煙が、蛸のような鯨のような名状しがたい怪物を縛り上げる。

 奇怪な悲鳴を上げた怪物は紫色の海へ逃れようとするが、黒煙の鎖は更にその量を増して怪物の巨体を完全に覆い尽くした。

 悲鳴さえ閉じ込められたのか不気味なほどの無音の中、鎖の塊は収束し……やがて消滅。

 それを見届けるが早いか、俺たちは再び転移空間に引き戻された。


「って、また? これで何回目?」

「八……いや、九回目だな」


 流石に疲労と呆れが目立つエイミの声に、ルッツが律儀に答える。

 一回辺りがちょっとしたボス戦で、それが連続するわけだからHPやSPが回復したって精神的な疲労は蓄積する。正直だいぶ参ってきた。

 やがて景色が変わり、次は何だと身構え――少し遅れて、単にインスタントエリアの外に出たのだと気づく。


「えっと……これで終わり……」

「らしい、ですね」


 唐突な終了に肩透かしを食らったような気分になる。

 まったく、最後になって意地の悪いイベントを引いたものだ。


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