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63.光精の樹林――2

「――――!」


 噴き上がった火柱は熔岩の竜へと形を変える。それを従えるのは血のように赤い髪を振り乱した女性。

 女性……だよな? なんか聞こえてくる声が低い気もするが。

 護衛対象の少女たち二人を含むNPCたちはこの距離で何か言いあっているようだが、その内容は副音声(翻訳)が無いせいで分からない。


「にしても、本当に何語なんだろうな……本格的に聞き覚えが無ぇぞ」

「そうだね。にわか知識だけど中国語とかロシア語とも違う気がする」

「少なくとも、フランス語じゃないとは思いますけど」

「クリス、お前フランス語なんて出来たのか」

「大学の講義で取ったんです。初歩ですけどね」

「いや……例えば英語だったとしても、逆再生されているようなパターンならそれだけで判別は不可能だろう」


 そんな雑談を交わしながらも走る脚は止まらない。

 ルッツも時折現れる獣を吹き飛ばしながらNPCの道を開いていく。

 ちなみに俺たちPTメンバーから干渉するのは不可能らしく、【竜哮(シャウト)】とかブレスとか色々試してみたが効果は無かった。

 俺の竜化の制限時間も出てねぇって事は、それを気にする必要は無いとみていいのか?


「っ……ルッツさん、来ます!」


 クリスの警告と同時、背後で強いプレッシャーが膨れ上がる。

 追手の従える竜はその身を解いて熔岩の奔流に変じ、森を焼きながら迫ってくる!


「ルッツ!」

「問題ない! ――【スピリットガード】!」


 ルッツが構えた盾を起点に広がるヴェール状の障壁が灼熱の波濤を食い止める。


「っ……!」


 一瞬の拮抗を経て灼熱は消え去り、役目を終えた障壁も消滅する。

 だが、その僅かな時間にも膨大な熱量はルッツを苛んでいたようで……。

 ……あの野郎、性癖暴露してから隠さなくなってきたな。

 割と恍惚の滲む表情で息を荒げるルッツ。元が真面目そうな顔をしているだけにギャップで残念な印象が酷い。

 だが、それだけじゃないようだ。何かに気付いたような目で自分の手元を見ている。


「おいルッツ、どうした?」

「いや……まだ確証は持てないが……」


 会話の間も攻撃の手は止まない。

 大技を阻まれ多少勢いは衰えたが、今度は火矢の雨を降らせながら追手自身が迫ってくる。


「ぬぅ……っ」


 特にスキルも使わず降り注ぐ火矢からNPCを庇うルッツ。

 だから地味に喜びを滲ませるんじゃねぇ。犯罪臭がするだろうが。


「おい、スキル使えよ駄騎士」

「誤解だ。ただの趣味でこのような真似をしたわけではない」

「……どういう事だ?」

「どうやら、俺の受けたダメージに応じてSPも回復されるようだ。防御を敢えて弱くするのも選択肢の一つだろう」


 …………。

 受けるダメージを調整し、痛みを喜んでSPを回復する。

 その効果を計算に入れ、適度に防御を甘くして自らダメージを受けに行く。

 ああ、そう考えると無駄にレベルの高いMを想像するな。被虐の称号はそういう意味か。

 なんとも言えない思いを抱えていると、再び大地が揺らぎ噴き上がる火柱。

 それは追手を呑み込み……今度は不死鳥のような形になって纏われた。そのオーラは追手の構える剣に収束していく。


 嫌な予感がしたのは一瞬。

 宙を蹴った追手は砲弾のように加速して突っ込んできた。

 おい、これはマズいんじゃないか――?


「【覇竜一閃】!」

「はっ!?」


 ルッツの詠唱と同時、身体が突然重力に囚われたように重くなる。

 見れば俺の身体が半透明じゃなくなっている。右手に宿るのは【竜閃】を使う時にも似た力の塊。


「あぁあクソがッ――!」

「――――」


 傷つけるなとか言われてなかったか?

 そんな迷いは一瞬で振り切り、力の宿る爪で追手の斬撃を迎え撃つ。

 吹き荒れる衝撃波。

 俺と追手は同時に背後へ吹き飛ばされた。


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