62.光精の樹林
――称号獲得イベントを、とりあえず僕ら四人中二人がクリアしたわけだけど。
二つとも、なんだかんだ言って称号を狙うプレイヤー一人の参加だった。エンドの称号獲得イベントにあったみたいな一人で挑戦しろみたいな制限を考えるとそういう注釈がないイベントはPT戦になると思ってたけど、そうでもなかったのかな?
そんな事を考えながら向かう先は、ルッツの称号……【四天紳士:被虐】を得るためのインスタントエリア。
色々と不安になる称号だけど、イベントまで色物だったりしないだろうな?
こんなデスゲームに引きずり込んだ運営に悪ふざけまでされて素直に笑うような度量はない。変なイベントだったら間違いなくキレる。
そんな懸念を抱きながらゲートを潜ると、よく分からない不思議な空間に出た。
僕やクリスが出たようなフィールドでも、クリスの戦いを観戦してた時みたいな観戦席とも違う。足場の空間もあやふやな、次元の狭間とかタイムトンネルとかいう言葉が似あいそうな印象を受ける。
『――守護者よ、我が呼び声に応えよ』
「ん?」
聞こえてきたのは英語とも違う耳慣れない言語らしきもの。
エフェクトが掛かってて判然としないけど、少女の声……なのかな?
それに副音声みたいな感じで、僕らにも分かる日本語が重なって響いている。
なおも続く声は自分たちを守ってほしい事や相手を傷つけてはいけないといった条件を述べていく。
時間とかも含めて割と細かく設定していく辺り、昔の漫画かゲームで見た召喚術の理論みたいなものを彷彿とさせる。
「あ、身体が……」
「これもルッツが一人で頑張る形になるのかな?」
「いや、どうやら――」
足元に魔法陣が浮かび上がり、ルッツ以外の身体が透けていく。
僕の呟きに強面のナイトが何か言おうとするも、それより早く魔法陣がひときわ強い輝きを放った。
光が収まると、何故か俺は竜化していた。
いや、なんで俺? 見える身体は半透明だし、傍の木に触ろうとした鉤爪はあっさりとすり抜けた。
……ひとまず周囲を確認してみるか。
まず足元に魔法陣。で、その上に俺と同じく半透明のクリス、エイミ。そして普通に実体のあるルッツ。
魔法陣の前には先端の曲がったとんがり帽子を被った金髪の少女とくすんだ赤髪の少女、そして彼女が担いでいる……黒髪の少年、だな。こっちは意識が無いらしい。
背後に口を開ける洞窟でも抜けてきたのか、NPCっぽいこの三人はだいぶ消耗している様子だ。
『えっと……改めてお願いするわ。森を抜けて――の神殿につくまで私たちを守って。それと追手は傷つけないで。私たちの大事な人なの』
「了解した」
金髪の少女の言葉に頷くルッツ。
言葉がまた副音声形式って事は言葉は通じない設定なんだろうが、意図くらいは伝わったはずだ。
途中一瞬だけ副音声にノイズが走ってよく聞こえなかったが、要するにミッションは目的地までの護衛って事だな。
辺りはハイキングでも出来そうな明るい森。エネミーらしき気配こそするが、そう危険な場所には見えないな。
「――で? 俺はなんで竜になってるんだ?」
「さぁ……でも、何か意味はあるんだと思います」
「ところでアタシたちの声はルッツに届いてるのかい?」
「ああ、聞こえている。おそらくアレンの姿はこのイベントの仕様に関係があるのだろう」
声が聞こえてるのは分かったが、姿は見えてないらしいな。
ルッツ、俺たちがいるのはお前の真後ろだ。
虚空に話しかけてる姿が不審に見えたのはNPCも同じようで、副音声が無いから内容こそ分からないがルッツを見て何かひそひそと話している。
移動しながらルッツの説明を聞くところによると、ルッツのスキルが一部追加されているのだという。
そのスキルとは【覇竜一閃】【アローストーム】【フェイクカタストロフィ】の三つ。なんとなく順に俺、クリス、エイミに対応したスキルなんだろうというのは分かるが……。
要するに俺たちPTメンバーの力を借りた切り札って事か?
追手は傷つけるなって言われた割には追加された手札の殺意が高過ぎる気もする。
「――【バッシュ】!」
「ギャンっ!」
「この程度なら傷つける内には入らないようだな」
「追手の“人”じゃないからかもしれねぇぞ?」
「ふむ……」
飛び出してきた狼のような魔物に盾を叩きつけ撃退するルッツ。
移動ペースは急ぎ足ってところか。
目的地の神殿とやらは……そう思って上空からマップを眺めようとした時だった。
重低音と共に大地が揺れ、後方――俺たちが出発した方向から火柱が噴き上がる。
なるほどな。このイベントも一筋縄じゃいかないらしい。




