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6.始まりの町――3

 !?

 い、いや……別に親子で同じゲームをしてるからって、おかしな事は何も無いか。デスゲームだけど。

 しかもセナさんは生産職でエイミは戦闘職。

 自分の手の届かない危地に家族がいるってのは気が気じゃないだろう。


「それで……この子たちはお友達、かしら?」


 エイミを抱き締めてこっちに笑顔を向けるセナさん。

 その眼に宿る光は真剣で、生産職とは到底思えない気迫を放っていた。

 とにかく自己紹介。ジョブとスキルから活動方針まで洗いざらい白状する。

 その時ついでに判明したが、エイミは十四歳なんだとか。身長なんか僕が中学生の時と比べても………………いや、深く考えるのはやめておこう。


「…………」

「母さん?」

「ああ、何でもないわ。それで、何か御用?」


 お眼鏡に適ったかどうかは分からないけど、とりあえず話はしてもらえるらしい。

 セナさんのジョブは鍛冶師。スキルは専用の武具鍛造と防具鍛造に、生産職版の汎用スキルである調理という事だった。

 他のスキルが必要な装備合成や装飾・調合関連は別のプレイヤーを当たることになるけど、そちらもエイミに伝手があるんだとか。


「ふむふむ……ところでこの素材、他に回す予定はあるの?」

「いえ、特には」

「なら、この辺は私じゃ扱えないから除外して……手数料代わりにこれだけ貰えるかしら」

「はい、大丈夫です」

「ありがとう。折角だし調理スキルの練習にも付き合ってちょうだい」


 少しの交渉の結果、僕らの装備は一新されることになった。

 素材の中心になるのはロクラブとグレートフィン、そして採取ポイントで取った鉱石。

 サービスって事なのか、タマジロとビッグマウスを使った料理も振る舞ってもらう。


「うまっ!」

「あ……美味しいです。それに、力が湧いてくるような……?」

「たぶん食事効果って奴だよ。それにしても美味いな」

「実際に料理したわけじゃないから、作った側の気分としては少し複雑だけどね」


 軽くステータスを確認してみると、素材を考えれば結構な補正が掛かっていた。

 このゲームに満腹値みたいな要素は無いけれど、もっと良い素材を使った場合の補正を考えると馬鹿にならない。

 そういえば……事前に上げられていた攻略情報に、噛みつき系スキルを使うと食事効果が上書きされるから注意ってあった気がする。

 噛みつき主体で戦うつもりは毛頭ないけど、頭の片隅くらいには留めておこう。

 装備はまだ序盤ってこともあってか明日の昼頃には仕上がる予定だとか。


 セナさんに別れを告げ、次に向かう先は細工師の元。

 生産職は鍛冶師、細工師、調合師に分かれる。職人街の中でも彼らは利用する施設の関係である程度ジョブごとに固まっている。


「どーも、タイラーさん」

「お? 彼氏連れか」

「そんなわけ無いでしょ。ただのPTよ」

「照れるなって、ハハハッ!」


 僕が最初に設定していたような濁声で笑うのは禿頭の男性。生産職とはいえそこらのプレイヤーよりは余程強そうに見える。

 割と力技なイメージのある鍛冶師ならともかく、細工師とは……つくづく見かけによらない。

 「おっと」とか言って宝石とか握り砕いてる様子しか想像できないけど。


 確か……細工師が専用スキルで出来ることは主に二つ。

 一つはプレイヤー自身だけでなく装備につけることも可能な装飾の作成。

 食事効果同様、一見地味ながら重要な効果を発揮する。効果も永続的なものから一時的だけどより強力なものまでバリエーションに富んでいるんだとか。

 もう一つは、装備に効果や属性を直接付与すること。この付与は装飾と競合しないので、併用する事で更なる効果を期待できる。


「まあ良かったな、組める相手がいて。それで今日は何か用か?」

「ううん、顔見せに来ただけ」

「どうも。これから宜しく頼む」

「おう! 俺は安かぁないぜ?」

「期待している」

「じゃあ、また今度ね」


 最後に向かったのは調合師のところ。

 調合師はたぶん今鍛冶師と同じくらい忙しい生産職だ。

 その専門は消費アイテム。このゲームは割とアイテムボックスの容量も大きいし、回復薬の類は多めに用意しても枠をほとんど圧迫しない。

 若干細工師と範囲を被らせながら、ダンジョン攻略に便利な効果を持つアイテムも作成可能らしい。

 装備や装飾、付与に使う素材を生成するのにも関わって最終的には生産職の根底を支えるジョブになるんだとか。


「こんにちは、ニコルさん」

「おや、エイミちゃんか」


 何かの作業を終えた調合師はエイミの呼びかけに顔を上げる。

 眼鏡の似合う線の細いその人は……整っていながらなんとも掴み所のない、不思議な外見をしていた。

 年齢はおろか性別さえはっきりと判別ができない。


「後ろの方々は友達かい?」

「PTメンバーよ。ところで、良かったら調合をお願いしたいんだけど」

「ああ、構わないよ」


 作ってもらうのは回復薬と、少しの解毒剤。

 鍛造系のスキルより更に簡単らしく、その場で調合してもらった。

 不透明な器に入れられた薬草が煙を出しながら溶けていき、不思議な色合いの液体に変わる。

 昔見た癒し系グッズにも似て、単調ながら見ていて飽きない光景だった。


 このレベルの調合なら片手間にも出来るらしく、ニコルさんはスキルの紹介をする。

 それによれば内容は調合、効果付与、建築。

 建築は文字通り生産を様々な面からサポートする施設を作る能力。

 作業は同じスキルを持つ多くのプレイヤーと協力する大規模な物になるらしい。場合によっては他のジョブ、それも戦闘職なんかの力が必要になる事もありそうだとか。

 大陸の崩壊は町も飲み込むけど、確かチュートリアルによればより良い施設が作れるようになったら元より新しい町に移動する必要があったはず。


「はい、完成」

「ありがと。それじゃあまた今度」

「町の外では気を付けるんだよ」


 片っ端から採取していただけあって、四人全員に行き渡るくらいには回復アイテムが出来た。

 後は……まあ、特にする事もないか。

 解散して適当に町を探索したり掲示板を回ったりして過ごした。

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