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58.奈落の町――3

「う……」


 目を開けると見慣れた天井。

 寝る前の事が思い出せず少し記憶を辿り……思い出した。

 確か称号獲得イベントで六体の龍と戦って、リザルト確認の時くらいに力尽きたんだったか。

 激戦ならこれまでにも経験してきたけど、実際に気絶までしたのは初めてだな。この部屋には誰かに運んでもらったんだろうか。システム的に転送された可能性もあるけど、そうじゃないならまた謝らないと……。

 そう思って身を起こした僕の目に映ったのは――。


「………………」

「…………えっと……お、おはよう」

「……おはようございます」


 ――物凄く不機嫌そうな顔でこちらを見る狩人……クリスだった。

 例によって今回も心配かけちゃったんだろうな……そんな事を考えながら速やかにベッドを下り、正座の体勢に移行する。


「最近はあまり無茶もしていなかったので油断していましたが……まったく」

「面目ない……」

「……アレンさん自身も反省しているようですし、今回これ以上言いはしません。元々そういうイベントだった節もありますし。……それでも、事前に念を押すくらいは出来たはずなんですけど……」


 怒られるくらいは覚悟の内だったけれど、クリスは短くそれだけ言って立ち上がる。怒るというより嘆くような声は、いつにも増して胸に突き刺さった。


「――明日の集合はお昼過ぎだそうです。それでは」

「待って、クリス――!」


 何か言わないといけない気がして手を伸ばす。

 するりと身を躱したクリスは、そのまま振り返らずに部屋を出て行った。

 急いで後を追うも、一体何をどうしたものかクリスの姿はどこにも無かった。


「…………」


 少し途方に暮れてから、往来を歩いていたプレイヤーの首飾りに反射した夕日に顔をしかめる。

 そうか、もう夕方か。

 人と話すのはなんとなく気が進まず、NPCの経営する店で夕食を済ませる。

 何かにつけてNPCのスペックが桁違いな奈落の町、頼んだパスタはそれまでのNPCが作ったものとは比べ物にならない出来だったけど……。

 なんとなく晴れない気分のままプレイヤーホームに戻り、軽く一風呂浴びてベッドに寝転ぶ。


「うーん……」


 六龍との戦いを終えてからずっと寝ていたせいか、一向に眠れる気配がない。それどころか一歩間違えれば一人死んでいてもおかしくなかった戦いの危機感が今更襲ってきた。

 気を紛らわすためメニュー画面を呼び出し、まだ碌に確認できていなかった称号獲得イベントのリザルトに目を通す。

 獲得した事になっているのは称号【目覚めし覇王(バルハザーク)】のみ。あの龍たちはあくまで幻影とか、そういう設定なのかな?


 肝心の称号の効果は……思ったより多い。

 まず単純に全能力、スキルの効果の底上げ。

 そして任意で一定時間、更に能力を増幅させられる効果……効果が切れた後の弱体化も含めて、【逆鱗】と同等のスキルを一つ獲得したようなものか。

 あと、条件はだいぶ厳しいけれどSPが尽きた後も短時間【竜化(アセンション)】の効果を保って戦えるようにする効果もある。


 最後、微妙に異色を放つ効果が一つ。【駆影術】と、これだけスキルのような名称がついている。

 他の効果は何らかの竜化系スキルを使った時の効果だけど、【駆影術】は【竜鱗】みたいな常時発動型。一つながりになった影を経路として疑似的にワープできるらしい。

 SP消費もクールタイムもゼロに等しいのを考えれば破格の効果と言えるかもしれない。

 でも場所にだいぶ依存するものだし、何より僕の戦闘スタイルとは絶望的に合わない、気がする。

 そもそも僕が全力で戦う時は大体竜化して飛んでるから、影に接触している事も稀だ。そうじゃない時だって【竜化】を温存する方針から、【竜腕(アーム)】みたいな部分竜化なんてもう随分していない。


「んー……かなりの壊れ性能だとは思うんだけどな……」


 そう呟き、【駆影術】を有効活用する術を模索する。

 半ば意図的にその作業に没頭するうち、意識もだんだん薄れていった。


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