57.真龍の古戦場――5
想定外に長くなりましたが、ようやく戦闘終了です
……残る相手は、二体。
だいぶ消耗した様子ながら纏う力には一切の衰えが見られない真珠色の龍。そして今まで遠距離からの支援に徹し、十全の余力を残した黄龍。
黄色……地属性。厄介な相手が残ったものだ。
俺に残された僅かなSP、そして【竜化】の持続時間で仕留めきるにはどうするべきか。
二体の龍を睨みつつ、僅かな空白の時間に思考をフル回転させる。
俺の最後の一手は決まってる。問題はそれをどちらに撃つか。そして、どうやってそれで勝負を決めるか。
その条件を起点に、これまでの戦いで得た情報全てを参照して勝機を探す。
――二つ。仮説が立った。
鍵を握るのは真珠色の龍。
俺は奴に一度もダメージらしいダメージを通せていない。だというのに、目の前の龍があれ程に弱っているのは何故か?
一つ、奴は攻撃するたびに反動を受けている自壊タイプのボスだという可能性。
二つ……奴は、他の五龍によって維持されているという可能性。
おそらくどちらかは正解だろう。後者であれば黄龍を倒して全て終わり。
前者なら……いや、駄目だな。
楽観的な予測に縋りそうになっていた思考を切り替える。
敵が二体いるなら二体とも打ち倒し、生き残る。生きて、仲間の元へ帰る。それだけだ。
「……こ……る――!」
「喰らうかよ!」
真珠色の龍のブレスを躱し、その攻撃範囲に入らないよう意識しながら黄龍に接近。他の龍と比べてもどこか動きが鈍いその鼻っ面を殴りつける。
「ゴ……」
「ッ――やってくれんじゃねぇか!」
拳に伝わってきたのは鈍い手応え。直後、殴った場所から突き出した棘が反射的に引いた拳を掠めた。僅かに削れたHPを示すバーが変色する。――毒か。
序盤なら放っておけば後々尾を引いただろうが、今となっては無視した方が早い。それに一々回復する余裕もない。
……手応えは鋼のもの。単純な物理攻撃はほとんど通さない反面、属性攻撃への耐性の低さが突破口となる。
最も効果を発揮しそうなのは……過去の経験を洗い出し、最善の一手を模索する。
「――【竜爪・風雪】」
「グオオ……」
「削ぎ、落とす……ッ!」
必要最小限の動きでSPを節約し、随所に【竜閃】等のスキルを交えて傷を蓄積させていく。
援護しようと動く真珠色の龍から逃れつつ一撃。更に一撃。
可能な限り節約してきたつもりだが……そろそろ、本格的にSPが空になりかけてきた。手持ちの回復薬も底をついた。
黄龍はだいぶ弱っているようだが、それでも時折反撃を仕掛けてくる。
真珠色の龍はさっきからずっと息も絶え絶えだ。お前は早く力尽きてくれ。
とはいえ……賭け時、か。
この一撃を耐えられれば、そんな憶測を噛み殺して照準を合わせる。
これまでずっと避けてきた真珠色の龍。
鉛のように重い身体で宙を蹴り、悟られないよう位置取りを調整していく。
「こ……で……!」
「ゴォオオオオオ!」
奇しくも勝負に出たタイミングは同時。
龍の咆哮が一つに重なった瞬間、死力を振り絞り身を翻す。
「――【絶境閃】!」
極めて長い溜めとクールタイムを持つ切り札。
空間ごと切り裂く力を秘めた尾の一撃は生まれようとしていたエネルギーの塊をかき消し、黄龍を両断し――真珠色の龍の障壁に阻まれる。
「斬り裂けぇぇぇええええええええええええッッッ!!」
拮抗は一瞬。喉も裂けんばかりに吼え、意識の全てを尾に集中させる。
永遠にも感じられた刹那が過ぎ去り、スキルのエフェクトが輝きを失う。
そして……障壁の向こうで、真珠色の龍の身体もまたボロボロと崩れ落ちていった。
「――っしゃ……」
勝ち鬨を上げる気力も無い。
竜化が解けた身体はもう自分の意思ではピクリとも動かず、重力に従って落下し始める。
やがて、地面に激突する寸前。僕の身体は見えない何かに受け止められたかのように減速し、地表から少し浮いたところで停止した。
霞む視界の中、最初に試練の説明をしたゴスロリ姿のNPCが近づいてくるのが見える。
「ご苦労。汝が資質、確かに見届けた」
返事をしようと息を吸い込むけれど、声を出すのも億劫だ。
そんな俺には構う事なく少女が手を振ると、ファンファーレと共に視界に何かを知らせる画面が浮かび上がる。
「――そして、此方は我からの餞別だ」
「……?」
ファンファーレの音が一瞬バグを起こしたかのように割れ、このイベントのリザルトと思しき画面に黒い文字で項目が追加される。……駆影術?
「若き竜の闘争を黒龍の名において祝福する。汝が仮初の箱庭を打ち砕く様、我も見届けてやるとしよう」
少女が何か重要っぽい事を言ってた気もするけど……ダメだ。内容が頭に入ってこない。
少女が姿を消すのと入れ替わりにクリスたちが向かってくるのが見えたところで、僕の意識は途切れた。




