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55.真龍の古戦場――3

「ガァァアアアアアッ!」

「――お? なんだよ、お仲間がやられてキレたか?」

「グルッ……」


 緑龍を撃破すると、赤龍が咆哮を放った。そこに滲むのは明確な怒りの色。

 白龍が制するような動作をするより一瞬早く、赤龍はそのまま突っ込んでくる。


 ふむ――。

 先ほどから地味に邪魔な、青龍が雨のように降らせてくる水槍。そして黄龍が地面から放ってくる岩弾。

 赤龍の考え無さげな動きとうまく合わせてやれば互いに潰し合わせるのも不可能ではないだろうが……。


「ほら、よっ!」

「――カッ!」


 【竜殻】【逆鱗】の効果が重なっている今、水槍の方はあまり意識する必要がない。

 下から連射される岩弾を避けるついでに一つ掴み、その勢いをうまく利用する形で赤龍に投げつける。

 岩弾は咆哮一つで打ち砕かれたが、勢いは微妙に緩んだ。


 遊撃手として一番厄介そうだった緑龍は幸い真っ先に沈められた。

 個々の実力もさることながら、コイツらの目下一番の脅威はその数だ。セオリー同士、まずは数を減らしていくべきか。


 竜の眼に映るのは五体となった龍たちの姿。

 次に狙うべきは――。


「これでも、喰らいやがれ!」

「「「ッ――!」」」


 空中で丸めた身体を旋回させながら突っ込む先は岩弾の只中。竜の身の強靭さに物を言わせ、ランダムに弾き飛ばした無数の岩弾で相手を牽制する。

 真珠色の龍の一撃を躱し、怯む赤龍と白龍を後目に宙を駆ける。その先では俺の狙いに気付いたか身構える青龍。


「次はテメェだ……【槍駆竜星】!」

「――――」


 間合いに入ったところでスキルを発動。追いすがる龍たちを引き離して青龍へ突貫。

 間合いが目前に迫ったところで空間に両腕を振り下ろし、強引に軌道を修正する。激しくぐらつく姿勢を尾と後足で制御し、回り込むのは青龍の側面。


「【竜爪・紫電】」

「――――!」


 寡黙設定なのか声は上げない青龍だが、獲物が動揺する気配は十分伝わってくる。

 詠唱と同時にバチバチと高圧電流の火花を散らす爪を肩口に突き刺し、その動きが僅かに遅れた隙を利用して大きく息を吸い込む。

 胸の内で何かが物理的に荒れ狂うような感覚。接戦においては地味に制約となる一瞬の隙を経て、咆哮と共に放たれるのは小さな嵐。


 そのスキルの名は【テンペスト】。【サンダーブレス】を大技にしたようなスキルだ。【雷衝(サンダーフォース)】を撃った時の反応から察しはついていたが、水属性には雷が定石。

 頭部でマトモに雷嵐を受けてのたうつ青龍から弾き飛ばされるも、隙だらけの相手を前に余裕さえ持って身を翻す。


「――【旋月】」


 狙いと寸分違わず頭部を砕かれた青龍は全身を硬直させ、緑龍と同じように砕け散った。

 ……これで三分の一か。

 残る力であと四体……いけるかどうか。【逆鱗】の効果時間もある。慎重を期す余裕はこちらにもない。


「っと……」


 眼下で赤龍が撃ちだした炎球に真珠色の龍が手を添えると、その力とサイズが段違いに増す。

 地上から撃ちあがる隕石にも似た一撃を、敢えて効果範囲ギリギリで躱し……その間俺が警戒していたのは自分の背後。

 空間が揺らいだように見えた瞬間、とりあえず片手を防御に突き出す。


「グルッ……」

「よぅ光属性。待ってたぜ、お前の奇襲」


 腕に爪の硬質な感覚が触れると同時に全身を捻って振り返る。

 ああ、そうだ。残された面子で不意を突きにくるならコイツだという確信があった。

 どういうカラクリか【竜殻】の上から俺を焼き切ろうとする爪に身体の表面を浅く裂かれながらも受け流し、その体勢を崩す。

 ガラ空きの後頭部へと突き出す拳は不可視の壁に受け止められる。

 だが――。


「そう何度も、同じ手が通じると思うなよ? 【砕山衝】ッ」


 剣士とか斬撃タイプの物理攻撃をメインにする奴なら大概覚えられる、斬撃武器で打撃属性の攻撃を繰り出すためのスキル。

 重量と力を増した拳が勢いを取り戻す。

 不可視の壁が砕け散る甲高い音が響き渡った。


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