54.真龍の古戦場――2
「ッ――」
最初に交錯したのは緑龍。
爪の一撃を紙一重に躱し反撃を叩き込もうと……したところで、クリスの警告が聞こえた気がした。
声が実際に聞こえたわけじゃない。ただ、クリスならそう言うだろうという第六感にも似た何かが俺の手を引き留めた。
振りかぶった手で空を掴み、攻撃の軌道から少しでも離れるように身を逸らす。
直後に鱗の表面を刃が掠める感覚がその判断の正しさを証明した。
相手は緑龍……真空の刃とか、そんなところか。
「ったく……!」
「「グォォオオアアアッ!!」」
一息つく間もなく畳みかけてきたのは赤龍と白龍。
左右から迫るのは先ほどの緑龍と同じ爪の一撃。それをギリギリまで引きつける。
狙うは手首より少し後ろ、纏う炎と光が弱まる部分。
高めた集中力でそこを掴み……。
「「ガ――!?」」
「ちッ……!」
再現しようとしたのは、いつだったか似たような状況で飛びかかってきた二羽の怪鳥を激突させたクリスの姿。
だが、それには力が足りなかったらしい。二龍を内側に引き込む動きを受け流し優先のものに変え、どうにか攻撃だけは凌ぐ。
降り注ぐ水弾、打ち上がる岩槍はわざわざ意識して対処するまでもない。
速度も並、発射点も遠いそれらは身をひねる最小限の動きだけで全て躱す。
「――――」
「ッ、喰らうかってんだ!」
そして……真珠色の身体を持つ龍は、六体の中でも一際強い存在感を放っていた。
その攻撃は反撃など余計な事は考えず大きく距離を取って躱す。その爪がは空間を大きく削り取り、その余波が大気をビリビリと揺らした。
攻撃の後……少し動きが鈍ったな。付け入る隙があるとすればそこか。
「次はこっちの番、ってな……【槍駆竜星】!」
今のところ攻撃が脅威になっていない青龍、黄龍は後回しでいい。真珠色の龍は底知れないから手出しは後。今の攻撃を躱している間に姿を眩ました緑龍は狙いようがない。
赤と白、どちらを狙うか。そこまでを一瞬で思考し、最終的に白龍へ照準を合わせる。
スキルの効果で初動から最高速度に乗り、放たれた投槍の気分になりながら突進。相手の巨体があっという間に眼前に近づき――。
「グルッ……!」
「!」
舐めるな、と言わんばかりに白龍が唸る。竜の質量に速度が合わさった会心の一撃は、標的の手前に展開された不可視の壁に阻まれた。
刹那にも満たない逡巡を経て、押し込むのではなく攻撃を滑らせてそのまま駆け抜ける事を選ぶ。
動いてから対応された、とは考えにくい。おそらく事前に仕込む防壁の類。
純粋に魔力で構成された壁だ、耳にも鼻にも引っかからないときてる。
チッ……あまり無駄撃ちはしたくないんだが、仕方ないか。
「【逆鱗】【竜哮】【雷衝】――グルォオアアアアアアッ!」
【逆鱗】の効果で一時的に能力を上昇させ、範囲を拡張した【雷衝】で黄龍を除く五体に攻撃。
っつーかギリギリ射程に入った青龍はともかく、黄龍はもう少し近づいてこいよ。ちょっと離れすぎだろ。
内心で愚痴をこぼしつつ相手の反応を窺うことに全神経を集中させる。普通に防御したのは赤龍と白龍。防御の構えを取ったが微妙に帯電してダメージの大きそうな青龍。バリアを展開して防ぎ切った真珠色の龍。そして、俺のすぐ斜め後方で姿を現したのは緑龍。
……なるほどな。白龍がさっき張った防壁の性質だけ読み切れないが、大体のリアクションは確認した。
「まずはテメェだ緑!」
「ッ――!」
タイミングが味方した。ちょうど射程圏で動きの止まった緑龍を【竜哮】と尾で更に牽制しつつ態勢を整える。
減るHPは……回復する余裕は無いな。【竜殻】を発動し、収まる気配のない水剣の雨に備える。断続的に地面から放たれる無数の岩槍は……それでも避けるしかないか。
今は【逆鱗】発動中だ。まして相手は防御の不得手な風属性。コレが決まれば十分沈め得る。
そう自分に言い聞かせ狙うは六龍の中でも華奢な首筋。
「【ツインブレイク】」
「ギッ……」
「――【旋月】!!」
交差する爪が十字の傷を刻む。
相手の反応より早く身を翻し……ちょうど十字の交わるところにエフェクトを帯びた尾を叩き込む。
確かな手ごたえ。
攻撃は僅かに拮抗し、その抵抗が不意に消え失せる。
首を吹き飛ばされた緑龍の身体は、無数のポリゴン片となって爆散した。




