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53.真龍の古戦場

 称号獲得イベントの通知に合わせて出現したインスタントエリア……自分に対応するものに近づくとメッセージが出て判別できる。

 エリアの大体の場所は通知に添付されていたからわざわざ探し回る必要はない。

 ひとまず町から最も近いところにエリアがあった僕が、仲間内では最初に挑むことになった。


 マップに存在する空間の揺らぎに足を踏み入れると、エリアが切り替わる時の独特な感覚が身体を包む。

 気が付いたときには見覚えのない草原に立っていた。少し離れたところに森や山も見えていて、広大な草原の端の方って感じだ。


「――って、皆どうしたのさ?」

「どうかしました?」


 そこで皆の身体が半透明になっているのに気づく。

 なんとなく見た足元の方は無くなって幽霊みたいになっているのとか、ちょっとした演出なんだけどドキっとした。

 僕は……普通に実体あるな。


「恐らく……ここがアレンの為のマップだからだろう。俺たちはあくまで観客(エキストラ)というわけだ」

「ん? 足が無いからまさかとは思ったけど、アタシたち飛べるみたいだよ」


 分析するルッツの横で、ひょいと飛び上がるような動きをしたエイミがそのままくるくる回る。

 人間の姿のままで飛んだことはないし、僕もちょっと気になる……というか羨ましい。


「――試練を望む者よ」

「うわっ!?」


 突然、誰のものでもない声が耳元で響いた。

 驚いて飛びのくと、そこにいつの間にか立っていたのはゴスロリ風の服を着た中学生くらいの少女。

 クスリと笑うその表情は悪戯っぽく、だけど底知れない何かを感じさせる。


「ふむ……中々興味深い」

「え、えっと……?」


 プレイヤーではない……はずだ。

 でも、NPCと判断するには違和感がある。彼女は一体……?

 これまでこのゲームの中で感じたのとは別の困惑。深く考えを巡らせるより早く、両手を広げた少女は演劇の台詞でも読み上げるように滑らかに言葉を紡いだ。


「汝が挑むは(ふる)き伝説。若き虚構の黒竜よ。更なる力と栄光を欲っするならば、その爪牙で以て資質を示せ!」

「ッ……!?」


 一陣の風が吹いた。

 煽られるように浮かび上がった僕の身体は、詠唱をしていないにも関わらず竜のものへと変わっていく。

 初めての出来事に警戒を強める俺の前で――。


 隕石の如き火球が地を揺るがした。

 突然立ち込めた暗雲が日差しを遮った。

 ひときわ強い風が逆巻いた。

 森の一角がゆっくりと持ち上がった。

 雲に呑まれる寸前の太陽から、小さな光が飛び出した。

 空間の一部が幻のように淡く滲んだ。


 一拍置いて、六つの現象の中から六体の龍が姿を現す。

 目の覚めるほど鮮やかな赤、青、緑、黄、白、……なんだ? 真珠色?

 最後の一つ以外はこのゲームの根幹をなす属性である炎、水、風、地、光にちなんでいるのは間違いない。

 いや……司っている、と言った方が正しいか。そう思わせるだけの存在感を放っている。


 んー……。確かに少し前から竜化した俺の鱗は黒くなってたが。

 とすると、主要七属性と対応してるって考えれば俺が闇、真珠色の龍が命属性って事でいいんだろうか。

 妙に身体に力がみなぎってる気がする。というか、身体の黒がいつもより濃い。

 眼前の六龍と何か共鳴っぽいものも感じるし、このイベントの仕様か?


「グォオオオオ!!」

「ガァァアアアッ!」


 軽く身体の具合を確かめていると、白龍が苛立ったような叫びをあげた。

 呼応するように赤龍が闘志に満ちた咆哮を放ち、それをきっかけに他の龍も戦闘態勢に入る。


「へっ。六対一とは弱気なもんだな」


 敵の強大さは見るまでもなく、()に直接伝わってくる。

 ……相手にとって不足は無い。

 滾る戦意をそのまま【竜哮(シャウト)】に乗せる。


「上等だ腰抜け共! 返り討ちにしてやらぁ――――ッ!!」


 互いにこの程度で怯む事は無いと分かっている。

 突っ込んできた龍たちに向け、俺もまた宙を蹴り駆けだした。


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