52.奈落の町――2
いよいよグランドシナリオも最終局面。情報を集め、装備を整え、今まで以上に慎重に準備を整える。
NPCから聞ける話によると、星核は「世界の記憶が眠る場所」らしい。今まで現れた厄介な敵の事を思い出しつつ、そちらの方も対策手段を忘れないようにしておく。
「……『称号獲得イベント』?」
そんな中、プレイヤーホームへ妙なメッセージが舞い込んだ。同じように奈落の町へ到着したプレイヤーの中にも一部、同様のメッセージを受け取った人がいるらしい。
僕らハンターズは四人全員が称号獲得イベントの案内を受け取った。
内容は比較的シンプルで、奈落の町周辺のフィールドマップに出現している指定のインスタントエリアへ向かえというもの。
で、そのインスタントエリアではプレイヤーごとに異なるミッションを受け、それをクリアすれば報酬として称号ほか特典が得られるそうだ。
この称号というのはプレイヤーのこれまでのレコードに応じて決定されるもので、取得すると常時発動スキルの一つとして扱われるのだという。
また、このミッションを受けるだけでボーナスとして大陸の崩壊を一時的に止められるとの事。
「……寄り道にはなるが、損は無いようだな」
「というより話が出来過ぎているくらいです」
「確かに。けど……気に入らないね」
「でも、戦力は少しでも上げておきたいところだし。罠だとしたらちょっとセコ過ぎる」
「分かってる、それも含めて気に入らないって言ってんの。どうやらよっぽどアタシたちにこのイベントをさせたいらしい」
不機嫌そうに眉根にしわを寄せるエイミ。
このイベントのリターンをエイミが理解しているように、彼女の言いたい事も分からないではない。
エンドたち知り合いで同じように案内を受け取ったプレイヤーとも相談する事しばし、方針としてはこのサブイベントに挑む方向で定まった。
……。
……ところで、このサブイベントに関して。報酬の内容の一部開示という事で、得られる称号の名前もあらかじめ明らかになっているわけだけど。
例えばエンドなら【孤高の鬼武者】。彼だけイベントを受ける条件に誰ともPTを組まない事が指定されていたのと称号の名前を合わせて考えると、結局この段に至ってなおソロプレイを貫いている事から決まった称号なのだろう。
クリスは【超規格適合者】。まぁその超人的な能力は今更語るものではないだろう。少し気になるとすれば、スタッフ側はクリスの超スペックのタネをどれくらい把握しているのかってくらいか。
エイミの場合は【万命を刈り取るもの】。破壊魔法の威力に大鎌を振り回す姿はまさに死神、物騒ではあるけれど納得のいくものではある。
僕だと【目覚めし覇王】。……ラスボスが龍神なのもあってまた謂れのない疑惑が掛かるかもしれないけど、この期に及んで気にする事でもないか。称号の心当たりは、やっぱり【竜化】かな?
問題は……ルッツ。
端的に事実と向き合うなら、この堅物の得られる称号は【四天紳士:被虐】。
いや、コイツがM気質のロリコンなのは少し前に仲間内で露見していたからそっちの意味での衝撃はまだマシだったんだが……。
この局面でネタっぽい何かを持ち出されて、僕たちはどう反応すればいいんだ。
割と恐ろしいのは四天紳士とかいう四天王っぽい響き。もしかしなくても、スタッフから紳士の称号を割り振られたプレイヤーがあと三人いるという事なのだろうか。
ルッツの称号に関して割と真剣にゾッとしたのは一つの想像。
単にルッツの役割……PTの盾としての働きが称号の由来になるなら、いくらなんでも他に何かあるはずだ。そもそもルッツの主な役割が防御なのは事実だけど、そのスキル構成や戦い方は万能型に近い。
仮にプライベートな部分での素行が決め手になったなら、敵は一体どこまで僕らを監視しているのか……。
僕らは最初からずっと相手の腹の内にいたのだと再認識させるような、埒も無い考え。
少し時間を置いてから掲示板を見てみると、自分の称号について公開しているプレイヤーもちらほら。中には早速イベントに挑んだ人もいる。また、変則的ながら生産職のプレイヤーにも称号獲得イベントの案内が来たひとがいるらしい。
見れば見るほどその称号は多彩だ。
……このゲームに閉じ込められてから今までの「選別」で、プレイヤーの数はかなり削られている。
もし、この称号がプレイヤー一人一人のために作られた一点ものだとしたら。
スタッフ側から称号獲得に挑ませようと強く勧めてくるのも理解できなくはない、かもしれない。
いや、監視されてる不気味な感じは一切消えないんだけれども。




