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51.奈落の町

 前話からだいぶ時間が飛びます

「――【絶境閃】ッ!!」

「【フェイタルコメット】!」


 回転の勢いを乗せ空間を引き裂く異音を伴う尾の一撃と、龍種エネミーの頭骨さえ射貫く必殺の矢が重なった。

 それは狙い違わず龍鬼の胸の中央を穿ち、巨躯を大きく揺るがせる。

 会心の手応えがあった。逆に、これで駄目なら――。

 少し前のエリアから撤退不可能になったボス戦のシステムが脳裏をよぎる。


「オオオ……」


 低く呻いた龍鬼――第十二メインエリア屍城のボス、バウルザーハ・グランロード(大帝)は三歩後ずさり、そこで元は二刀だった山刀を杖に踏み止まる。

 満身創痍でも決して衰えない眼光で俺たちを睨み据える龍鬼の足元で炎が燃え上がる。


「ッ……!」

「グォオオオオオオッ!!」


 まだ敗れてなどいないとばかりに山刀を抜き払った龍鬼の身体が、身構える俺たちの前で無数のポリゴン片となって舞い上がる。

 脳裏に響くレベルアップのファンファーレ。

 ……こうして、実に七つのパーティと三十六人のプレイヤーをその手で葬った魔王は討伐された。



 ――世界の中心(アクシズ)を目指す旅。

 それがこの「アクシズ・オンライン」のキャッチコピーだ。

 世界軸を蝕む狂った龍神バルティニアスを撃破し、世界……浮遊大陸シガロフの崩壊を食い止める事がこのゲームのグランドシナリオ。デスゲームとなった今は、龍神を打倒し世界をあるべき形に戻すことで現実への帰還が可能になるという設定だった。


 その、文字通りのラストエリア。

 「星核(アクシズ)」が、屍城の向こうで白く輝いていた。

 ……多くのプレイヤーが犠牲になった。

 だが……先の見えなかった日々に、ようやく終着点が見えつつある。

 次の町への道のりは長いが、それはむしろボスを初めて撃破したパーティへの特典のようなものだ。道中に時折出現するエネミーにこそ注意を払う必要があるが、地味に需要のあるものから単純に希少価値の高いものまで様々な素材が手に入る。


 星核の放つ光は近づくに連れ濁っているのが分かってくる。

 龍神バルティニアスによる汚染を示しているのだとしたら……勿体無い。こんな状況でもそう思えるくらいには綺麗な光だった。

 もし生きてこのゲームをクリアする事ができれば、完全な星核の光を見る事ができるのだろうか。

 HPダメージ効果のある瘴気が出ている地帯を突っ切り、ようやく次の拠点に辿り着いた。


 NPCたちから集められた情報によれば、そこは名を奈落の町という。龍神が狂うまで星核の管理をしていた最高位の神官たちが暮らしつつ、状況を打開する術を探しているんだそうだ。

 この町で出来る事は……割と酷い。真力纏授と神性解放……要するにステータスアップと限界突破だ。生産職プレイヤーの仕事と競合するものでこそないものの、その恩恵は少し見ただけでも破格と言っていい部類のもの。

 そのインフレっぷりはMMOと言うよりRPGに近い。

 これを開発した連中は最初から、このゲームをまともなものにする気が無かったんだな……そう思うと、少し心がざわつく。


 ボス戦が撤退不可能になるのと同時に、誰かがボスを倒せば他のPTはボスを倒さずとも次のエリアに進めるようになっている。

 運営曰く「選別が終わった」との事らしいけれど……ともかく。この情報が広まれば、直に生存しているプレイヤーはここに集結するだろう。


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