5.浅瀬の洞窟――2
「よし、引き返すか」
「はい」
まあ、最前線組も慎重にレベリングしてるっていうのに僕らが逸る理由も無く。
適当にエネミーを狩りながら来た道を戻っていく。
……そして、掲示板情報によればエネミーが無限に湧くという部屋の傍を通った時。
大鎌を振るう一人のプレイヤーが、情報に無かった巨大トビウオと戦っているのが見えた。
敵のHPも残り四分の一ほどだが、プレイヤーのHPも半分近く削られている。
「危ないっ……」
「ちょ、ルッツ!」
「うわっ!?」
騎士道スキル【ダッシュガード】の効果で加速したルッツが乱入して鋭いヒレの攻撃をブロック。
僕も駆け出したけど悲しいかな間に合わない。
見た目小学生くらいのプレイヤーが迎撃しようと振るった大鎌がアホ騎士の背中に迫り――弾かれた。最後の声はそれに驚いた少女の物だ。
走りながら振り返ると矢を放った直後のクリスの姿。
ナイスショットだ。別に一発くらい斬られても良かったのに。
「【起動:竜脚】」
スキルを発動した僕の速度が上昇。
竜というかこの状態だと恐竜みたいな脚で、グレートフィンというらしい巨大魚を横合いから蹴り飛ばす。
吹っ飛んだ魚は岩壁に叩きつけられ、HPゼロになって消滅した。
「なっ――アンタ達は、一体……」
「大丈夫か? とりあえず回復を」
少女のプレイヤー名はエイミ。
ルッツは素早く跪くと、心得スキル【応急処置】で回復を始める。
「なぜ一人でこんな所に? PTは組んでいないのか?」
「あ、ああ。だってアタシはスキルがネタ構成だからさ。誰も相手にしちゃくれないよ」
「聞かせて貰っても良いか? ちなみにそこのチビのスキルは竜頭と竜腕、竜脚だ」
「おい」
「……へ?」
チビ呼ばわり+スキル暴露+しかもネタ構成と、一瞬でスリーアウト。
これはアホ騎士の頭を殴るも已む無しだったが、攻撃力不足のせいかノーダメージ。寧ろ僕のHPが微量だが減った。
呆気に取られてたエイミも一拍おいて爆笑するし……泣きたい。
「いや、悪かったねアレン。アタシはソーサラー。スキルは破壊魔法と護身杖術、護身体術だよ」
「なるほど。突然だが俺たちのPTに入ってくれないか?」
「「え?」」
急な話の展開にエイミだけでなく、横にいたクリスまで思わず聞き返す。
僕が言うことでもないけど、なるほどエイミがソロな訳だ。
破壊魔法は全魔法中で最大火力を誇る代わり、魔法ごとにデメリット満載のロマン砲。
残る二つのスキルも本来は魔法系のジョブが万が一の為にどっちか一つを取るような汎用スキルだし……なんというか、魔砲持ちの前衛って感じ?
それなら普通の前衛や、サポートとか柔軟性のある後衛を仲間にしたいだろう。
で、確かに二人からすればルッツの勧誘は謎だろう。不審以外の何物でもない。
……説明するか。気は進まないけど。
「あー……今の僕らは三人PTなんだけど。僕はまあ紹介通りでルッツはナイト、クリスはレンジャー」
まずは表向きの説明。
僕らが前相談した魔法火力の必要性に加え、普段はエイミが前に出てもルッツが上手くフォローできる事を伝える。
後はさっきみたいにクリスも後ろから援護できそうだし。
なんだかんだで三人とも適性スキルに回復能力は備わってるし、生命線だってなんとかなってる。スキル解放はもう少し先だけど。
「うーん……分かった。宜しく頼むよ」
あ、説得成功。
良かった、裏の説明はしなくて済んだみたいだ。
……いつまでも隠しきれることでもないと思うけど。
とりあえず念押しの意味も込めて騎士の脛を蹴っておく。
僕らはエイミとフレンド・PT登録をすると、適当に狩りを続けてから町へ戻った。
「――PT加入の申し込みは無いかぁ……」
「ところでアンタたち、もう贔屓の店とかあるの?」
「いや、まだ無いな」
「それならβテストの時の知り合い紹介するよ」
エイミがβテスター!?
βテスト参加者といえば、その攻略情報もあって引っ張りだこだって聞くけど……。
エイミはスキル構成のせいでβテストの情報だけ聞かれてから一方的にPTから外された経験があるんだとか。
一人でダンジョンに居たのもそのせいらしい。
「エイミ。そのPTのプレイヤー名は?」
「落ち着けルッツ。これデスゲームだから」
「む……」
その話を聞いてPKも辞さないってオーラを漂わせるルッツを宥めたり、βテスト時代の攻略情報や雑談を聞いたりしながら、僕らはエイミに連れられて職人街へ進んでいった。
職人街っていうのは生産系のジョブを取ったプレイヤーの集まる地域の通称。
武具鍛造とか装飾作成ってスキルにボーナスのつく施設があるのがその理由だ。
NPCショップだと売値と買値の差は理不尽なレベルで、余程使い道の無いアイテムでない限りプレイヤー同士の物々交換が基本になる。
最初からある程度のコネがある相手と取引できるならそれに越したことはない。
案内された先では、クリスより幾らか年上に見える女性が露店を広げていた。プレイヤー名はSENA……セナさん、か。
近づくエイミに気付いたのか、セナさんは此方に手を振る。
「あらエイミ、良いことでもあったの?」
「うん! ――母さん!」