50.マーダーフォートレス――6
「――――」
「危ない!」
「きゃあっ!?」
野太刀で至近のルッツを牽制しながら、ゴーレム――偽クリスが射撃。
俺もスキルの補正を受けてようやく捉えられる速度の矢にエイミは反応もままならず……傍にいたクリスが咄嗟に押し倒す事で難を逃れる。
仕方ない事だが……良い状況とは言えねぇな。
おまけに本来盾となるべきナイトとは引き離されている。
なら――。
「クリス、エイミ! 俺が逆側から援護してやる、さっさと突っ込め!」
「分かりました!」
レンジャーが返事をするが早いか、俺は高度を下げて偽クリスの背後へ。
これまで散々痛い目を見せてくれたこのボスの背後がそのまま死角になっているわけがない。
警戒し、いつでも反応できるようにしながら距離を詰める。それと同時、クリスたちも駆けだした。
「――――」
「させるかよ! 【雷衝】ッ!」
矢の生成が始まるのとほとんど同時にスキルを発動。
偽クリスの身体を撃ち抜いた雷撃は更に進み、強引に射出された矢に追いついて焼き滅ぼした。
「――――」
「ちったぁ大人しくしやがれ! 【ツインブレイク】!!」
「――――」
「っと……!」
まだ動こうとする偽クリスの背に一撃を加え、反撃に備えてさっと飛び退る。
一瞬遅れて滑らかな背から生えた硬質の翼が鼻先を掠めた。
「コイツは……」
「――――」
翼を構成していたのは、その一つ一つが人間の頭ほどある巨大な鏃。
それはさながら衛星の如く、放たれて宙に漂う。
手近なそれに【竜閃】を一発。
軽い手応えに今度はスキル無しの爪を振るうと、少しの抵抗を残して砕けた鏃は宙に消える。
……放っておいて良い気はしねぇな。
自分の不始末だ、自分でケリをつける!
二人が無事に偽クリスの前面まで戻ったのを確認して宙を駆け、鏃を手当たり次第に破壊していく。
残すところ僅かになり、輝き始めた鏃を見てスピードを上げる。最後の一つとなったところで……弾けたそれが弾丸のように向かってきた。
「【竜閃】ッ……!」
咄嗟にスキルを乗せた腕は加速し、どうにか鏃を捉える。
伝わってくるのはこれまで破壊してきたものとは段違いのパワー。
――押し負けた。鈍い痛みと共に、腕はあらぬ方向へと弾かれる。
だが、鏃もまた力を失い、下方へ逸れて消滅した。どうにか防ぎ切ることには成功したらしいと小さく息を吐く。
……いきなり現れた鏃への除去に追われ、そして最後に砲弾と化した鏃への対処に全神経を傾けていたからだろう。
まったく予期していないところで【竜化】は時間切れを迎えた。
「っ!? とっ、痛てて……」
地味に高いところから落ちたせいで減ったHPを薬で回復しつつ、偽クリスたちが戦っている方を見る。
見た感じ、どちらもそれなりにダメージが蓄積しているみたいだけど……。
状況そのものは、さっきとあまり変わらない。
三人で偽クリスに近接し、野太刀をルッツが抑える横でクリス、エイミが攻撃を加えている。
ちょうどそのタイミングで、偽クリスの弓がエフェクトを纏った。
「来ます!」
「了解っ」
「分かった!」
その合図に続き、刀剣と遜色ない破壊力を秘めた弓が振るわれた。
クリスとエイミは寸前で身を屈め、ルッツはバックステップで距離を開ける。
「――――」
「【グラビティスイング】!」
「【グレイブエッジ】【掌破】っ!」
更に下から弓を打ち上げた事で、ゴーレムは僅かにバランスを崩した。
悪足掻きのように振るわれた野太刀は改めて前進したルッツが受け止める。
「――【ガーディアンズレイジ】ッ!」
詠唱を受け、ルッツの盾が宿したのはエネミーが使うような禍々しいエフェクト。
野太刀に込められていた力は、盾を貫通してルッツを撃ち抜いたように見えた。
だが、同時にそれと同じだけの力が偽クリスへ跳ね返り――。
動きを止めるゴーレムの身体。どこからか生まれた無数の亀裂はあっという間に広がり、ボロボロと崩れ落ちた。
……激戦の影響か、まだ緊張が抜けない。
そんな僕らの脳裏に、レベルアップを告げるファンファーレが鳴り響いた。




