49.マーダーフォートレス――5
「――へっ、ザマぁねーな!」
「――――」
クリスが突き立てた無数の矢。
それを一斉に打ち込まれたゴーレムは硬直し、そして赤熱を始める。
自爆の前兆……ルッツたちを確認すると、あちらは完全に防御の体勢を取っている。
敵の様子を視界の端で窺いつつ、全速力で上空へ駆ける。やがてゴーレムに溜まったエネルギーが限界を迎えると同時に俺も反応。
「――――」
「来るなら来やがれってんだ! 【雷衝】ッ」
距離の壁に阻まれ大幅に減衰した爆風と衝撃波はスキルで相殺。
散弾のように飛んできた岩塊も冷静に見切って躱し、或いは叩き落とす。
傷らしい傷もなく自爆を凌いだことを確認して地上へ戻る。
爆心地では前回と同様に、ゴーレムが姿を変えようとしているところだった。
「アレン、お疲れ。後はアタシたちの出番だね」
「まだ時間もSPも残ってる。隙があれば手は出させてもらうがな……【ヒーリングブレス】」
「助かる。――む?」
防ぎきれなかった余波によるものか、僅かに減っていたHPを回復。
簡潔に礼を言ったルッツが、不意に訝し気な声を上げた。
その視線の先には……変形するゴーレムの姿。
「――――」
「……クリス、か?」
ゴーレム第二形態がとっていた姿は前回の騎士の姿ではなく。
金属製のマネキンのようなそれは、片手に身体ほどもある巨大な弓を、片手に同じく巨大な野太刀を携えた狩人のような形をしていた。
オリジナルを参考にしているのか女性らしいラインがはっきりした身体がどこか艶めかしい――って、それはどうでもいい。
前回に比べれば変化も滑らかで異音も特に聞こえないが……どういう違いなんだろうな?
二回目だからなのか、単純にその辺りも全てランダムなのか。
ともかく、今理解できるのは今回の第二形態への移行がスムーズに完了したという事だけ。
「アレン――」
「分かってる、邪魔はしねぇよ」
ルッツに言われるまでもなく上空へ。さっき自爆をやり過ごした時同様、矢が放たれても余裕を持って避けられるだけの距離を保ち戦場を見下ろす。
「武器の片方は弓矢か。ならば接近して――」
「ッ……!」
ルッツが指示を出す僅かな時間。その間に、何かを感じ取ったクリスがさっと飛びのく。
レンジャーがそれまで立っていた場所を、砲弾のような威圧感を伴って矢が貫いていった。
「射撃か、速いな。まずは懐まで潜り込むぞ!」
「了解!」
「分かりました! 矢には気を付けてください!」
偽クリスの巨大弓の厄介なところは、矢を自動生成して発射するところだ。戦闘スタイルを鑑みれば自然な事ではあるが、問題はそのスピード。
弓というより銃でも撃つような時間で装填・発射をこなしてくる。連射機能が無いのが唯一の救いってところか。
……プレイヤーのジョブには、それこそ銃を扱うシューターなんてものもある。
仮にこのボスがコピーしたのがそれだったら、どんな戦い方をしてきたんだろうな?
近接戦闘はシューターの適性スキル【コンバット】系統で来るとして、距離があるときはやっぱ銃を乱射してくるんだろうか。
「――――」
「【ダッシュガード】ッ」
そんな事を考えながら眺めていると、ルッツに向かって矢が放たれた。
盾で防げる威力か?
そう思ったが、ルッツは高速で移動して他者を庇う下級スキルを発動。
加速してエイミの前に出る事で、結果的に砲撃に等しい一撃を躱した。
……上手い使い方なんだろうが、セコいな。誰も庇ってねーじゃねぇか。
また今度ネタにしてやろうと思っている事など知りもしないだろうルッツたちは無事に偽クリスに近接。
敵が野太刀を持つ左手側にルッツが立ち、そこから順にクリス、エイミと並ぶ。
「ふッ――」
「――――」
「【ダークリーパー】【グラビティスイング】!」
「【烈風】!」
野太刀による攻撃は勢いが乗る前にルッツが盾をぶつけて潰し、その隙にクリスとエイミが至近距離から連続攻撃を叩き込む。
偽クリスの身体が揺らぎ……巨弓を持った右腕が動いた。
「――エイミさん、防いで!」
「ッ……!?」
唐突な指示だったが、エイミは反応した。
身を守るように鎌を構えたところに……敵の巨弓。その弦が血のように赤いエフェクトを伴って襲い掛かった。
クリスがその一撃に短剣を合わせる。
力は一瞬だけ拮抗し……二人は大きく吹き飛ばされた。
とはいえダメージは抑えられたようで、クリスたちはどちらも空中で体勢を整え着地する。
流石ボスというべきか、一筋縄ではいかない……なんて悠長に言ってる場合じゃない。
距離が開いたって事は、つまりまたあの射撃を掻い潜って懐まで潜り込む必要があるって事だからだ。




