48.マーダーフォートレス――4
「――――――」
……相変わらずの威圧感だ。
赤い単眼が不気味に輝き、全身に仕込まれた車輪が低く唸りを上げる。
そして、三度目となる轢殺要塞との戦闘が始まった。
「さぁ、行くか! 【起動:竜化】!」
「――――」
「へっ、馬鹿みてぇに開幕から飛ばしやがる!」
凄まじいプレッシャーと共に突っ込んでくるゴーレムに挑発混じりの【竜哮】をぶつけ、その巨体を躱しざまに一撃ぶち込む。
……さて、最初の難関だ。
反撃を喰らったゴーレムが不自然に停止する。
「――――!」
「ふッ……!」
そして、爆発。
凶悪な威力を秘めたギロチンのような刃が三つ連なり飛んでくる。
意識を研ぎ澄ませ、感覚を微調整して刃と刃の間に身体を滑り込ませる。
息が詰まるような刹那の時を経て、刃は俺の身体を紙一重に掠めて飛んでいった。
……前回はこれをマトモに喰らったせいで無様に上空へ逃れる羽目になった。
だが、今回は違う。
この機を逃す理由はない!
「――そこだ! 【竜閃】ッ!」
「――――」
「喰らうかよ!」
相変わらず無防備に晒されている背中に爪の一閃を刻みこむ。
再び反撃の刃が飛び出してくるような事はなく、代わりに上半身を回転させての裏拳が唸りを上げた。
だが、右腕を振りぬいただけの体勢からなら回避は容易い。
両足と左手で空を掴み、足場代わりにして攻撃範囲から脱する。
これでまた隙が出来るようなら更に追撃してやろうと思っていたが、奴は今度は下半身を回転させる事で俺に向き直ってきた。
威力最大の【旋月】を叩き込んでやりたいところだが……この戦い、最も警戒するべきはカウンターだ。体勢が大きく崩れる【旋月】はリスクが大きい。
「――――」
「まだやろうってか? 良いぜ、そうこなくっちゃ張り合いが無ぇ!」
「――――」
「上等だ! 砕け散れポンコツ!」
ゴーレムは標的を他に移す事なく俺に突っ込んでくる。
突進を躱し、一撃。
反撃の刃を躱し、一撃。
裏拳を躱し、また一撃。
作業というにはあまりにギリギリの攻防の連続。
限りなく摩耗していく神経と精神の昂揚を感じる。
――あぁそうだ、これが戦いだ。闘いだ。争いだ!
思考の白熱は視界にも影響し、目の前のゴーレムの姿だけがどんどん鮮明になっていく。
……そんな置き去りにされた背景から。
一つの声が、狭まった視界を切り裂いた。
「――【百舌狩り】! アレンさん、使ってください!」
「ッ!?」
俺の身体をすり抜けてゴーレムに突き立ったのは無数の矢。
それは信じがたいことに、堅い岩石の身体に全て真っ直ぐに突き立ち……その事への純粋な感心が頭を冷やした。
「――――」
「チッ……」
あれだけの事があってまた同じ過ちを繰り返そうとしていた自分に舌打ちを一つ。
手を握り拳に変え、クリスの突き立てた矢を打ち込むように殴りつける。
「――――――」
これまでよりずっと容易く、その身体が揺らいだ。
……いける。
これまでの気分の昂揚とは違う。もっと冷静な部分が、その確信をもたらした。
「――これから仕留める! 精々守りを固めておけ!」
「任せろ!」
「行くぜ……【旋月】!」
ゴーレムの正面でぐるりと身体を一回転させる。
エフェクトを帯びた尾が、まさに拳を振り下ろそうとしていたゴーレムの身体を打ち据え……突き立っていた矢を、一斉に打ち込んだ。




